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22話 使役

「な……な、な……っ」


 目の前で起きた怪現象に、ドゴルゴン殿下が腰を抜かしてへたり込んでいた。


「私の……私の邪竜が……! 食われた、だと……!?」


「あ、ありがとうございます殿下! とっても素敵なプレゼントでした!」


 わたしはスカートをつまんで、本日二度目のカーテシーを披露した。

 略奪完了。

 さて、成果もあったことだし、そろそろ帰って寝ようかな――なんて思った、その時だ。


「ふ、ふざけるな……ッ! 返せ! それは私の力だ! 私が王になるための力なんだ!!」


 ドゴルゴンが、子供のように喚き散らした。


 そして、血走った目で隣の巨漢を指差す。


「ナガク! やれッ! 殺せ! そのガキを八つ裂きにして、中から邪竜を取り出せぇぇぇッ!!」


 命令が下った瞬間。

 それまで石像のように沈黙していた護衛騎士、ナガクが動いた。


 ――速い。


 レベル64の瞬発力は伊達じゃない。


 床を蹴る音と同時に、巨体が砲弾のように迫ってくる。

 彼が振り上げたのは、身の丈ほどもある巨大な曲刀。あんなの、まともに食らえばわたしなんて、トマトみたいにプチっと潰れちゃう。

 普通の幼女なら、死を覚悟して泣き叫ぶ場面だ。


 ――でも。


 わたしは、あくびが出そうなほど冷静だった。

 だって、今のわたしには、とびきりの「新しいオモチャ」があるんだから。


「……さっそく、試し斬り、しちゃおっか」


 わたしは、迫りくる鋼鉄の刃を見据え、右手の親指と人差指を立てて、L字を作った。

 イメージするのは、逃げ場なき完全切断。二つの刃が合わさり、その間の空間を綺麗に切り取る断裁機構。

 ナガクの認識速度を遥かに超えて、影で構成された二枚の巨大な「刃の壁」が、音もなく出現した。

 鋭利に研ぎ澄まされた二つの切っ先が、ナガクを挟んで向かい合う。

 ナガクの体が、その射程内に飛び込んだ、次の瞬間。


 わたしは、指をパチンと閉じた。


「――ジョッキン!」


 スパァンッ――


 空気を切り裂く鋭い音が、一瞬だけ響いた。

 左右から迫った巨大な刃が、中央で吸い込まれるように、寸分の狂いもなく重なり合ったのだ。


 抵抗? 悲鳴?

 そんな無粋なものなんて入り込む余地はないんだよね。

 レベル64の強靭な肉体も、どうみても高価な鎧も、振り上げられた大剣も。

 交差する刃の前では、陽炎か煙のように脆かった。


 残されたナガクは、まだ立っていた。

 キョトンとした顔で、何が起きたのかわからないように。


 けれど、次の瞬間。


 ――ズズッ……。


 彼の身体の中心に、一本の赤い線が走った。


 ドサァッ……!


 左右に分かたれた肉体が、自重に耐えきれず崩れ落ちる。

 断面は鏡のように滑らかで、心臓が動きを止めたことすら理解していないのか、血は一滴も流れていなかった。

 あまりにも鮮やかすぎる、即死。


「うん。切れ味、抜群だね」


 わたしは口元に手を当てて、満足げに頷いた。

 手応えすら感じさせない、空を切るような軽さ。

 速すぎて、自分が死んだことすら気づけなかったんじゃないかな? これぞ、アリスちゃん流の慈悲ってやつだね。


 そして。

 ナガクの死体が完全に沈黙した、その直後だった。


 ――ピロリン♪

 ――ピロリロリン♪

 ――ピロピロピロピロピロリンッ!!!


 わたしの脳内で、通知音が狂ったように鳴り響いた。


「わ、わわっ!?」


【レベルアップ! レベル33になりました】

【レベルアップ! レベル34になりました】

【レベルアップ! レベル35になりました】

 …………  ……


【レベルアップ! レベル45になりました】


「すご……っ! 止まんない!」


 全身を、温かい力が奔流となって駆け巡る。筋肉が密度を増し、魔力回路が焼き切れる寸前まで拡張され、感覚が鋭敏になっていく。


「ん、んぁ……♡」


 わたしは思わず、とろんとした声を漏らしてその場にへたり込みそうになった。

 この感覚。

 一瞬で強くなる、この背徳的な快感。

 これだから「格上狩り」はやめられないんだよねぇ。


 一気に13レベルアップ。

 今のわたしなら、素手でも岩くらい砕けるかもしれない。


 わたしは、あふれ出る全能感に酔いしれながら、ほうっと熱い息を吐いた。

 そして、ゆっくりと顔を上げる。


 そこには。


「ひ、ひぃ、あ、あぁ……」


 腰を抜かし、股間を濡らしたまま、ガチガチと歯を鳴らすドゴルゴン殿下の姿があった。


 わたしは、彼に近づき、しゃがみ込んだ。

 そして、レベルアップしたばかりのツヤツヤお肌で、とびきり可愛く小首をかしげて見せる。


「ねえ、お兄様?」


 わたしは、まだ指先に残る黒い靄を弄びながら、天使のように微笑んだ。




「次は、お兄様の番ですよ――」









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