〈ワールド〉
女顔チート迷走記をサボっている間気晴らしに書いていたものが進化しちゃった何か。
また男の娘が主人公なのは私がそんな病気だからです。
万物の根源は水である。
昔々に言われたこの言葉が好きだ。
そう考えればいつでも水がそばにあると思える。
感じたことの無い水というものを俺は求め続けている。
金曜日、学校からの帰り道。
夕日に照らされた道を俺、水上社と幼馴染の暮坂司はいつも通りたわいの無い話をしながら歩いていた。
「〈ワールド〉?」
「そう。知らねぇ?」
偶然見つけたんだけど面白そうなゲームでさ、と司は言う。
「ふぅん、どんなゲームなんだ?」
「良くある剣と魔法のファンタジー世界のVRゲームだな。お前が今やってるのと似てる。違うのはすべてのNPCにAIがあることらしいぜ。サイト見たんだけど宣伝する気があるのかってレベルで情報が少なくてさぁ」
「買うのか?」
「おう!スクリーンショットに一目惚れしたからな!社もやらないか?」
「うーん、今やってるのもあるしな」
遠まわしに断ろうとしたが司は魔法の呪文を唱えた。
「そのスクリーンショットの中に、海の上を船で渡ってるやつがあってさ」
「なんだと司そのゲームはいつ発売なんだ!」
司に詰め寄り聞くと彼は苦笑いする。
「はは……お前本当に水が好きだなぁ」
「当然だろう!今は水なんて映像でしか見れないんだ!しかも3Dじゃないんだぞ2Dだ。そんな水を見られる機会だ!逃してなるものか!」
「お前今のゲームも水があるってだけで始めたんだっけ」
「そうだ!残念なことに硝子並みに固い平らなものだが眺めているだけで幸せになる!」
「水って揺らいで上を歩けないんじゃなかったか?」
「ああ。だがな!実際には見えない壁があって近づけなかったり、水がなかったりする他のゲームや汚染され、周辺に行くことすらできない現実よりはマシだ!」
「水が汚染されて50年だもんなぁ。〈ワールド〉にあるのも本物の水とは違うかもしれないぜ?」
「水が見れるならかまわない。今やってるゲームの水はもう記憶に焼きついた」
「イカレてるよ、お前」
「だろうな。お前もだろう?ゲームジャンキー」
「おう!」
笑って頷いた司から詳しい情報を引き出そうと決意した。
そんな2人を都市を覆うドームの中に作られた太陽はそっと最後の光で照らしていた。
土曜日の早朝。
2人はこの都市で一番大きい電気屋で絶望していた。
ゲームの棚を見てもどこにも〈ワールド〉のパッケージが無い。
「開店直後でもないとは……」
「店員に聞いてみようぜ。すみませーん!」
司は通りかかった店員を呼び止める。
「すみません、今日発売の〈ワールド〉のパッケージって無いですか?」
「うーん、それはうちで扱ってませんね」
あっさりと店員に言われ司はがっくりと落ち込む。
「そうですか……ありがとうございます」
あまりに落ち込んでいる司を見かねたようで、店員はにっこりと笑って言った。
「でも売ってる場所は知ってるよ」
「本当ですか!」
店員はポケットから端末を取り出して、2人に笑いかける。
「僕の知り合いの店。今から連絡してみるから、仕事中の端末使用については他の人に言わないでね。僕、バイトなんだ。」
絶対に言いません!と頷いた。バイトの店員がメールを送るとすぐに返事が返ってくる。
「うん、あるって。今から行けば買えると思うよ。場所は……」
バイトの店員の言葉を端末にメモする。
「「ありがとうございます!」」
「いえいえ。僕も君たちと同じ〈ワールド〉に魅せられた者ですから。〈ワールド〉であったらよろしくね」
「「はい!」」
店員に礼を言い、早足で店を出る。
「社、住所をマップで表示してくれ!」
「もうしてる!」
マップを見ながら2人は走り出した。
商店街にある個人商店。
老夫婦が営むその店に〈ワールド〉のパッケージはあった。
さまざまなパッケージやゲームの並べられた棚から〈ワールド〉のパッケージを見つけ出し、会計をしてもらう。
「これください!」
「あいよ」
ニコニコと笑って会計をしてくれる彼女はさっきまで寛いでいたらしい、部屋着のままだった。
「休日の朝からすみません」
わざわざ店をあけてもらったことを謝ると老婦人は笑う。
「別に平気さ。若い子のうれしそうな顔が見たくて|この商売(ゲーム屋)してるんだからねぇ」
「ありがとうございます!」
これからゲームを買うときはこの店で買おうと心に決め、店を出た。
全力でアパートへと駆け戻る。
「明日フレンド登録しようぜ!」
「ああ!」
隣の部屋の扉をあけて駆け込む司に同意の言葉を投げつけ、靴を脱ぎ捨て部屋に上がる。
今ほどオートロックに感謝したときはないだろう。ベッドサイドに設置したVR機の本体を立ち上げ、パッケージのフィルムをはぐ。
「過剰包装は地球環境によくない!」といらいらしながらフィルムをむしりとり、説明書も読まずメモリを本体に差し込みダウンロードを開始する。
その間に長時間ログインするため腹を満たし、水分補給をして、トイレも済ませ、ベッドの上で接続機をもてあそびつつダウンロードが終わるのを待つ。
ぴこんと電子音がして、本体がダウンロードの終了を告げた。
社は急いでリング型接続機を頭に付け、ベッドに寝転がる。
「コネクト」
視界が切り替わる。
見慣れた自分の部屋の天井からVRの世界へ
銀鼠色の部屋はまるで宇宙船の中のようだ。
部屋にはいくつかの扉がある。その扉の1つ、〈ワールド〉とかかれた扉をくぐった。
何も無い真っ白な空間だった。妙にキャピキャピとしたアニメ声が話しかけてくる。
『ようこそ〈ワールド〉へ☆私はナビゲーターのフェイディーナ☆よろしくね☆』
「ああ、よろしく」
『じゃあ初めに君の名前を教えてよ☆』
フェイディーナの言葉と共に俺の前に What is your name?と書かれたウィンドウが現れる。俺は迷うことなくホロキーボードでsiroyaと打ち込む。
『おっけー、シロヤね☆次はアバター選択☆ランダムで決まるよ☆好きなタイミングでボタンを押してね☆』
目の前に赤いボタンが現れる。俺は何も考えずそれを押した。
『わぁお☆すごい結果になったね☆』
「どんなアバターなんだ?自分じゃ良く分からない」
そういった俺の前に鏡が現れた。
鏡に映っているのはミディアムヘア黒髪の美少女。
「は?」
『青のC-7タイプだね☆一応性別は男☆まさに男の娘って奴だね☆』
「……変更は?」
『髪色、瞳の色、身長、年齢だけ承っております☆バストは増やせないよ☆』
「……これでいい」
がっくりと落ち込むが、フェイディーナは待ってくれない。
『さぁ☆次はチュートリアルだよ☆』
フェイディーナが楽しげに笑うと真っ白な空間が青空の下、草原へと変わる。
『まずはメニューの出し方☆何でも良いよ☆とりあえずメニューを出したいって念じてね☆かっこつけたいなら手を振り下ろすなり指を鳴らすなりお好きに☆』
言われるがままに念じてみると目の前に半透明のメニューウィンドウが開く。ウィンドウの上部にはスキルやヘルプなどのタグがある。
『スキルタブを開いて☆タップするとスキルの情報や起動作が見れるよ☆分からなかったらヘルプを見てね☆』
「いや、他のVRMMOをやってたことがあるから大体分かる」
『そうなんだ☆じゃあ省略しちゃうね☆わかんないことがあったらヘルプを見るか自分で考えてね☆チュートリアル終わり☆』
「おい、それでいいのか」
フェイディーナに訪ねるも視界は眩んでいく。きっと最初の町へと転移させられるんだろう。
『楽しんでね☆』
そう笑う青い髪を結い上げた少女の姿が見えたような気がした。
一人称もしくは三人称社寄り視点で書こうと思っています。
読んでいただきありがとうございました。