風が生んだ理念
ゲーム機を発掘してから、二十二日目の朝。
四人はいつものように灰色の箱の前に集まり、調査を始めた。
孝二は装置の前で、少し長く画面を見つめていた。
慎介が気づいて声をかける。
「どうした、孝二。何か気になるのか?」
孝二はゆっくりと首を振った。
「いえ……この装置、まだ分からないことが多いですね」
続けて、次々に自分の考えを挙げていく。
「第1候補は、物語の登場人物として物語を体験する娯楽装置ですね。
例えば、何度か穴に落ちると物語の最初に戻されて、先の展開に進めませんよね。使用者が物語に参加しているように感じます。
第2候補は訓練装置です。最近では、雲の上からトゲのついた丸い物体を投げてくるキャラが出てきて、難易度がどんどん上がっているように思います。反射神経などを鍛えるための装置なのではないでしょうか。爽太が最近序盤でミスしなくなり、上達していることからも能力が向上していることは明らかです。
第3候補は占い装置です。“今日はここまで進めたから幸運が起きる”とか、“今日はあんまり進めなかったから運が悪い”など。ただ、熟練者と初心者で結果が変わってしまうので、この線は薄いかもしれません。
第4候補は……」
爽太が苦笑しながら制止した。
「わかった、わかった。
じゃあ今日は“試す日”にしようぜ。いろいろ触ってみよう」
好機は機械の状態を確認し、
「装置の状態は問題なし。進めるぞ」
と言った。
四人は画面に向き合い、1-2のステージを進め始めた。
途中、爽太がふと聞いた。
「そういえば孝二ってさ、なんでそんなに“装置”の使い方の解明にこだわるんだ?
いつも構造とか仕組みとか言ってるけど」
孝二は少し考えてから、静かに語り始めた。
「……昔、父が“先代文明の遺産を売る店”で、太陽エネルギーで羽根を回して風を生み出す装置を買ってきたんです。
夏は暑くて……ただ耐えるしかなくて」
爽太と慎介が耳を傾ける。
「家に帰って、父が机の上に置いて。
僕は『何だろう、これ?』って思いました。
ただの鉄の塊にしか見えなくて」
好機が小さく笑う。
「まあ、見た目はそんなもんだよな」
孝二は続けた。
「父が配線を繋いで、電源を入れたんです。
そしたら……羽根が回って、風が出てきて」
その時の驚きを思い出すように、孝二は少し目を細めた。
「……涼しかったんです。
ただ風が出るだけなのに、世界が変わったように感じました」
慎介が静かに頷く。
「それで、興味を持ったのか」
「はい。感動していたら、その様子を見ていた父が、
『先代文明では、人の助けになる道具がたくさん作られていたんだ』って言って」
好機が言う。
「わかるぜ。どうやって風を生み出してるのか気になるよな」
孝二は首を振った。
「そうではなくて……“便利さ”なんです」
好機は共感した同志を見つけたと思っていたところではしごを外され、
素っ頓狂な表情を浮かべた。
孝二はそんな好機を尻目に続ける。
「まだ使い方がわからない先代文明の遺産をよく調べて使い方を解明すれば、
もっと暮らしを豊かにできるのではないかと思いました。
それから、先代文明の遺産を理解したいと思うようになりました。
この装置も……きっと、意味があるはずです」
爽太が笑う。
「じゃあ今日は、その“意味探し”だな」
四人は1-2を進んでいく。
敵が少なく、探索にはちょうどいい。
爽太がふと、あるブロックを叩いた。
すると──
「……ん?」
ブロックの上から、細いツタが伸び始めた。
慎介が驚く。
「おい、これ……登れるんじゃないか?」
爽太がキャラを動かし、ツタを登る。
画面が切り替わり、雲の上の白い世界が広がった。
爽太が声を上げる。
「うわっ、こんな場所あったんだ!」
光るコインが並び、軽やかな音が流れる。
敵のいない静かな空のステージ。
孝二はゆっくりと歩きながら言った。
「……こういう隠された要素もあるのですね。
洞察力を鍛えるためなのか、隠された要素を見つけたことに対するご褒美なのか……」
慎介が頷く。
「確かに、ただの物語じゃないな」
爽太はコインを集めながら言う。
「こういう秘密の場所、ワクワクするな」
好機は画面を見つめながら言う。
「こんな小さな箱にいろんな情報が詰まってるんだな。どういう仕組みなんだ?」
ステージの右端に到達すると、穴があり、それ以上は進めなさそうだった。
爽太が言う。
「……これ、落ちたら戻るってことなのか?」
孝二は頷いた。
「もう進めなさそうですし、下に戻る仕組みなのだと思います」
爽太は恐る恐る穴に飛び込む。
ツタステージを終え、通常ルートに戻った。
慎介が息をつく。
「……まさか、あんな場所があるとはな」
好機は画面を見つめながら言う。
「隠し要素、まだまだありそうだな。装置の内部構造、もっと知りたくなってきたな」
孝二は静かに頷いた。
「先代文明の遊び心なのか、何か意図があるのか……興味深いです」
爽太はコントローラーを握り直しながら言った。
「こういうの、もっと探したくなるな」
四人は画面を見つめたまま、
次の調査へ向けて静かに息を整えた。
その先に何が待つのか、まだ誰も知らなかった。
次話、昨日のツタに続き、四人は天井の上へ足を踏み入れる。
通れないと思い込んでいた空間に、思いがけない道が続いていた。
来週21:00頃更新予定。




