【1200字短編】桃 ―希望の果実― 架空の神話
「「高天原チャンネル~」」
「桃はなぜ古事記で特別扱いされる果実なのか......その謎に迫るわ!」
「唐突と言うべきか、ついにと言うべきか......」
桃 ―希望の果実―
冬を三十三回越えた男は、この群れで最も多く季節を知っていた。
川の水位が下がれば魚が集まる。
木々が芽吹けば鹿は子を産む。
北風が吹けば山を下りる。
男は「オサ」と呼ばれていた。
進む方角に迷えば、皆がオサの顔を見た。
オサは食べ物の探し方が一番うまい。
二十人ほどの群れは今日も食べ物を探し、山へ入っていた。
獲物は逃げ、木の実はまだ青い。
腹が鳴る音だけが森に響く。
遠くから若者が呼ぶ声がする。
「見た こと ない 木だ」
枝には丸い実が揺れていた。
濃く色づいた実には、鳥が啄んだ跡がある。
オサは実を一つもぎ取り、ゆっくりと噛んだ。
誰も声を出さない。
オサの目が驚きで見開かれ、口角がニッと上がる。
「……笑った。」
誰かが呟いた。
果汁が口いっぱいに広がる。
柔らかい。
香り高い。
そして......心が満たされる。
甘い、という初めての感覚であった。
若者は夢中で食べ始める。
子どもは歓声を上げる。
女たちは笑いながら実を分け合う。
腹が満たされる以上の何かが、皆の胸を温めていた。
若者たちがまだ白い実に手を伸ばす。
「まて」
「......なぜ」
皆の目線が不服を訴える。
「まだ早い......一つだけ食べてみろ」
「......コレは違うもの」
色づくのを待たねばならない。
鳥から守る者が必要だ。
命じた男は満面の笑みで応えた。
似ている木があるか探そう。
誰もが喜んで探索に向かった。
数日が過ぎ、白い実も残らず無くなった。
また違う場所へ行かなければ。
オサは、静かに木を見上げる。
「また来れば食べられるかもしれん。」
若者が笑う。
「必ず来る。」
オサも笑った。
「死ねなくなったな。」
子どもが訊いた。
「なんていうの?」
オサが答える。
「モモと呼ぼう」
二十人の群れに、生きがいが生まれた。
百年後
初夏。
山道を五つの群れが歩いてくる。
東から二十人。
西から二十人。
南から二十人。
北から二十人。
谷から二十人。
普段はそれぞれ違う土地で暮らす。
狩りをし、魚を獲り、木の実を拾う。
だが、この季節だけは必ず同じ谷へ帰る。
誰も遅れない。
誰も欠かさない。
他の群れとは争うこともある
谷へ入ると、槍は地面へ立てられる。
ここに集うのは、仲間だ。
このときは、喜びを分かち合うときだ。
それは百年前から続く約束だった。
子どもたちは従兄弟と走り回る。
若者は伴侶を見つける。
オサたちは狩り場や川の変化を語り合う。
そして、皆で桃を食べる。
甘い。
今年も甘い。
言葉を覚えたての子どもが言う。
「これ だいすき」
子の母親が答える。
「みんなそうさ。」
隣の父親が言う。
「絶対に分け合うのが掟だぞ。」
百年前から、モモはまじないの言葉だ。
モモのためにがんばる。
モモのために冬を超える。
モモを思い出しながら生きている。
この仲間の中では争わない。
嫉みも、憎しみも、欲も、ここへは持ち込まない。
やがて人々は言うようになる。
「モモには、邪気を祓う力がある。」
あまくて、おいしい。
おいしいは、すごい。
「という架空の考古学よ」
「出典は!?」
「私」
「根拠は!?」
「空想」
「一体にゃんで思いついたねん」
「古事記RTA回に、この感想コメントが来たからよ」
セイバーF『なんで桃なん?イチゴじゃ駄目なん?』
「この感想を植えられてから45日を経て実が生ったわ」
「さすがに種を植えた意識もにゃいやろ......」
「言語も未発達でしょうから、書くのに色々と苦心したのよね」
「狩猟採集生活を描くなろう小説なんて聞いたことないのにゃ」
「それは甘いわね。『狩猟採集生活』でなろうを検索してごらんなさいな」
「え、まさか先人がおるん?」
「5件もあるのよ」
「けったいな連中やなぁ......」
「でも、さすがに現実世界の狩猟採集生活を舞台にした作品は無いわね」
「けっきょく前人未踏やないか!」
「農耕&栽培という発見が行われる前の様子を想像してみるのも楽しいでしょう?」
「それは甚だ疑問やけどな...」
「まぁ実際こんなところなんじゃないかしらね」
「そうなんかにゃぁ?」
「案外こうして定期的に訪れていたことで、栽培を発見したかもね」
「急に考古学者っぽい説を唱え始めるやんか」
「だって流浪の狩猟採集生活で、植物が種から育つ様子なんて観測できないはずだし」
「思い付きで真実味を加えないでくれなのにゃ、怖いから」
「というか1万歳という設定だと私も目撃者でないといけないのよね......」
「え、桃の力で若返ろうとしとるん?」
「私は いつでも 若いわよ」
「............」
「それでは、また気が向いたら遊びましょう」
「「どうも、ありがとうございました~。」」




