episode.34
結婚が決まってからというもの、結衣の様子がこれまで以上に気になってしまう。二度と信用してもらえないような裏切りをしたにも関わらず、結衣は俺との結婚を決めてくれた。もう何が合っても結衣を手放すつもりはないが、結衣には誰よりも幸せになって欲しい。
「高宮さんは、今の仕事どう思ってますか?」
急にそんなことを聞かれたのがきっかけだった。「結婚式に向けて、高宮さんのこともっと知りたくて!」とその時ははぐらされてしまったが、そのあともやたらと俺のことを聞いてくることが増えた。はじめは、俺に興味をもってくれたのかとも思ったが、結衣の性格上こちらから話さないことをあえて聞いてくること自体めずらしいことで、それを話したときの結衣の表情は心なしか切ないものだった。
「それって、そんなに心配すること?」
「川端さんには、結衣さんの繊細さはわからないだろうなぁ」
「ちょっと! 相談っていうから来たのに、何なのこの扱い!」
うんうんと東堂とうなずきあう。この件に関しては、俺と同様に東堂も違和感を感じているらしい。川端さんは、俺らの様子を見て怪訝そうな顔をするだけだった。
「マリッジブルーとかじゃないの?」
「お前の親父は、前科あるもんな」
「やっぱり、そっちだよな」
「何? 前科!? 律の親父、やばいやつなの?」
「まぁ、ある意味ね……ははは……」
酒を煽ると、東堂と川端さんに俺が考えていることをすべて話し、協力をしてもらえるように頼んだ。二人は状況を把握し、協力してくれることを約束してくれた。東堂は、同期の藍沢にも連絡をして協力をあおいだ。
数日後、結衣のウェディングドレスを決めるために二人で式場を訪れていた。結衣が選ぶものはどれも控えめで目立たないものが多かった。どれを着ても確かに可愛いのは違いないが、一生に一度の式にしては少し物足りない気がした。
「やっぱり、似合いませんか?」
しまった、いろいろと考えていて結衣のドレス姿にあんまり反応していない自分がいた。結衣をこれ以上不安にしないようにしようと思っていたのに。思わずドレス姿の結衣を抱きしめた。
「ごめん、どれも可愛いんだけど、結衣にはもっと特別なドレスを着てほしいな……と」
「それなら、今期間限定で出ている新作がありますが、試してみますか?」
「お願いします。いいよね、結衣?」
少し恥ずかしそうに、うなずく結衣をもう一度抱きしめると、「不安にさせてごめんね」と頭をなでる。スタッフの人はすぐに、ドレスを持ってきてくれた。ウエストラインに上品なリボンがあしらってあり、レースが何層にも使われボリュームもさっきまでのドレスとは違いが一目瞭然だった。数分後、着替え終わった結衣がカーテンの向こうから現れた。
「こちらのドレスは、特別にヨーロッパのアンティークレースが多く使われていて、上品なデザインとなっております」
そんなスタッフの人の説明もほとんど耳に入ってこないほどに、結衣のウェディングドレス姿に見惚れてしまった。何も言わない俺の様子を心配そうにうかがう結衣が「どうですか?」と聞いてきた。
「うん……すごくきれいだよ」
言ってる自分に恥ずかしくなり、思わず目をそらしてしまった。直接結衣に何があったのか聞こうかと思ったが、結衣には負担をかけたくなかった。結衣のことだから、きっと何を聞いてもはぐらかされてしまうだろう。それに俺の家のことに巻き込んでいる以上、俺が解決するしかない。
その後も、できる限り結婚式の準備は一緒にするようにした。結衣が遠慮しながらいろいろな選択をするのが目に見えているし、俺自身も二人の時間を大切にしたい。そのうえで、結衣には少しでも安心して過ごしてほしい。
「何か、すごい豪華になってしまいましたが、こんなにお金をかけても大丈夫でしょうか?」
「一生に一度のことだから、俺は結衣にも、招待した人たちにも一緒に素敵な時間を過ごしてほしいと思っているだけだよ」
「でも……でも……、金銭感覚がでどんどん麻痺していきます!」
「結衣は何も心配しなくていいんだよ。もっと、俺を頼って……」
「え?」
「俺、独身貴族だから」




