episode.16
基地取材の日はあいにくの雨だった。梅雨の走りで先日までの暑さは、今はすっかり身を潜めていた。
「結衣さん、おはようございます」
入口で東堂さんが出迎えてくれた。今日は取材ということで、東堂さんは制服姿でいつもと雰囲気が違って少し緊張する。
「今日はよろしくお願いします」
「結衣さんが緊張してると、俺まで緊張しますね」
やはり東堂さんはエスパーなのではないかと思う。私、比較的感情は悟られない方だと思ってたのに。
基地の偉い人にあいさつをしてから、東堂さんの案内でまずは食堂に通された。基地での注意点等をおさらいして、こちらの取材趣旨をお伝えする。事前に通知はしているが、これも必要な形式で東堂さんもそれは承知のようだった。
「というわけで、今回は基地を支える人々というテーマで取材させてもらいます」
「わかりました。こちらの意向で申し訳ありませんが、今回はこの3つの職種についての紹介に限らせていただきますがよろしいでしょうか?」
東堂さんは私の前に一枚の書類を差し出した。そこには、音楽、給養、衛生と書かれており、それぞれの細かい仕事内容がまとめられていた。
「では、時間的にまずはここ食堂で働く給養の仕事を紹介します」
「よ、よろしくお願いします」
給養の仕事は主に自衛隊員の食事の調理で、食材の調達・管理を行っている。厨房は清潔に整えられている印象だった。すでに昼食用の調理が始まっていて、手際よく作業が進められていた。
給養員の方から話を聞き、次に向かったのは海上自衛隊の広報といっても過言でない音楽の仕事を見学する。
「あれ? 今日、担当東堂くんだったの?」
「川端さん、久しぶり」
川端さんと呼ばれた女性はすらっとした美女で、東堂さんとは階級呼びをせず親しげに話している。
「こんにちは、川端と言います。今日はよろしくお願いします」
「三雲です。よろしくお願いします」
「もしかして、あの三雲さん!?」
「…えっと…?」
「川端さん、三雲さんは今日は仕事でみえているので…」
東堂さんが川端さんを制すると、あぁそうだった! といささか引っかかる反応の後、今年音楽隊に配属になった新人の練習室へ案内された。音楽隊の新人指導の様子を見ながら、川端さんに色々教えていただいた。主に式典や広報活動での音楽演奏が仕事になるため、空いている時間があれば、楽器の練習時間に当てるそうだ。
「三雲さんは確か、図書館にお勤めなんですよね?」
「はい、あの、取材とか不慣れなんですけど、ご迷惑おかけしないよう努力します!」
「いえ、聞いていた通りの方で」
何やら川端さんはニヤニヤしながら、知らんぷりをしていた東堂さんを小突いている。東堂さんは「ゴホンッ」と咳払いすると、後は大丈夫だからと川端さんを練習に戻した。
「川端さんと仲がいいんですね」
「あぁ、まぁ、大学から一緒なので」
「…何か…美男美女で、お似合いです」
「絶対、無いので!」
間髪入れずに否定する感じ…珍しく東堂さんが子供っぽく見えてしまう。そういえば…高宮さんともこんなことあったな…。やっぱり同期って、同じ経験や時間を共に過ごしてるから、それだけで絆が強いのかもしれない。
「それでは、最後に衛生の仕事を紹介するので医務室に移動しますね」
医務室と聞いて、高宮さんと出会った日のことを思い出す。緊張と不安で少し気分が悪くなりそうだったので、東堂さんには気付かれないように小さく何度も深呼吸をした。
「お願いします」
そう言って、東堂さんの後に続いて医務室に向かった。




