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第52石 悪意声明

 殲滅。


 テレビ越しでも伝わる悪意。殲滅という言葉の凶悪な含み。

 テレビを観て固まっている私の袖を、タイヨウちゃんが引っ張る。


「これ……ほんとかな……」


「……大丈夫だ。これで動かない程国も愚かじゃない」


 これが本当なら尚更、国が動かない訳にはいかない筈だ。

 冷や汗が流れるのを感じる。ニュースは相変わらず同じ言葉を繰り返し、同じ動画を流している。

 だが、それから1分と待たずに変化が訪れる。

 その変化は、ニュースの内容だとか、動画の内容だとかじゃない。テレビの画面そのものが、ぶれて別のものに変わっていく。予想したくもない予想は、しかし現実になる。



『国民の皆様、どーも。さっきの動画じゃあ分かりにくいよなぁ。悪ぃ悪ぃ。分かりやすい方が良いよなぁ。俺ぁそう思うよ』



 男が手招きをすると、もう1人、今度は女性が画面に入る。

 男が腰掛ける椅子のすぐ横に膝をつき、女性はすすり泣いている。


『ほれ。やってみ』


 男が女性の肩をポンと叩くと、女性が泣きながら指先を立てる。

 そこから小さな炎が顔を出し、それを見届けた男が満足した様に頷く。


『ご覧の通りだぁ。いや~、怖いねぇ古文書(アーカイブ)。人智を超えた能力、神の御業。いやぁ怖いねぇ……俺ぁ怖いよ…………だから』


 男が拳銃を手に取る。

 タイヨウちゃんの体を抱き、画面を見せないようにする。


『こうする』


 パンッ



 乾いた、間の抜けた音がテレビから聞こえる。女性が目を開いたまま倒れ、画面から消える。

 心臓が早鐘を打ち、鼓動がやかましい。

 テレビの男の声には相変わらず緊張感が無い。



『っははは。呆気ねえよなぁ。けど、困ったことに、この古文書ってのは、普通にしてりゃ普通の人間と変わらない。どうしたもんか……それで、これだよ』



 男が学校と同じ様に、ポケットから青い石を取り出してみせる。



『この石、持ってるだけで古文書を持つ人間を炙り出せる優れもの、ってな。どうやって見分けるかというと』



 今度は男性が移る。上半身は服を着ておらず、首が青く光っている。



『この通り。古文書を持った人間の首が、青く光る。内出血じゃ済まねえ青さだなぁ、っはははは』


 パンッ



 また、殺した。

 タイヨウちゃんの体が震えている



『この石を、日本全国津々浦々、全土の人間が範囲に入るように配置した。さて、国民の皆様にお願いだ』



 男が手を叩き、画面にこちらに向かって手を広げる。



『古文書持ち……首が青く光る人間を捕まえといてほしい。順繰りに殺しに行く。日本全国、必ずな。古文書持ちが野放しになってた場合は……』



 また、嫌な溜め。今度は、男が堪えられないというような笑いを漏らしている。



『その周辺の人間、適当に殺すから。よろしくぅ』

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