第51石 害悪
「雲川唯ってのは居るかぁ?」
ヘルメットの中でくぐもった声と、緊張感の無い言い方が更に不気味さを増幅させる。
こいつは、私達の害悪だ。手に握られた拳銃がそれを物語っている。
誰も男の質問に答えられないでいる中、男が言葉を発する。
「ノーリアクションは悲しいよなあ。俺ぁ悲しいよ。…………そこのメスガキィ」
男が拳銃で近くの女子を指す。その生徒は、少し身を震わせたまま何も言わない。
「捕って食おうってんじゃねえんだから、そう怯えなくてもいいんだよぉ……雲川唯っての、このクラスにいるかぁ?」
ダメだ。完全に恐怖してしまっている。あれでは答えられない。
……くそっ……男と距離があるな。制圧するには、もっと近寄らないと。
動くべきか考えあぐねていると、今まで固まっていた先生が動き、男に話しかけた。
「な、何ですかあなた!? 警察を呼びますよ!?」
「…………あーぁ、最初っからセンセーに聞きゃあ良かったなあ。っははははははは」
男は拳銃を先生に向け直し、再び問う。
「このクラスに、雲川唯ってのは居ませんかねぇ、センセー?」
拳銃に一瞬先生が萎縮する様子を見せるが、比較的すぐに返答する。
「この、クラスには、居ません」
「このクラスにはってこたぁ、この学校には居んのかなぁ? おいお前らぁ、居たか?」
男が耳の辺りに手を当てる。
無線。仲間がいる……それも恐らく、この学校中に。
余計に手が出し難くなった。
「……おっと、忘れるとこだった。お前ら、隣の奴の首見ろ。青く光る痣が出てる奴、居るかぁ?」
生徒達が行動しかねていると、お男がまた拳銃を1発撃つ。
それが行動を促す為だと全員が理解する。生徒達は怯えながら隣の生徒の首を確認する。
暫しの静寂の後、男は生徒達を見回して言う。
「居ないっぽいな……居ねぇならいいや。お騒がせしてすまなかったなぁ」
そう言うと男は、またゆっくりとした挙動で教室を出て行く。
10秒か、はたまた1分か。教室内の全員がぴくりともせず、男が去って行ったドアを凝視していた。
「せ、先生は警察に連絡してくるから、皆は教室で待ってて! 絶対に外に出ないこと! いいわね!」
それだけ言って、先生は教室から出て行ってしまう。下手に騒ぐこともできない生徒達は、ただ黙って、その場に留まることしかできなかった。
──その後、警察が学校に来たものの、犯人グループは既に逃走した後。拳銃使用の痕跡は確かに残っていたため、捜査と安全のために生徒は全員帰宅することになった。
立花が心配でもある。学校から直接立花の家に向かう。インターホンを鳴らすと、珍しくタイヨウちゃんの声がスピーカー越しに聞こえた。
『誰、ですか……?』
「如月です」
『桜花ちゃん……? 今行くね!』
スピーカーからの声が途切れ、パタパタと足音が聞こえてきた。鍵が開き、タイヨウちゃんが顔を出す。
「こんにちは、タイヨウちゃん。……どうかしたのか?」
いつもの笑顔はそこに無く、泣きそうに歪められた眉が不安を煽る。
「桜花ちゃん……ちょっと、観て」
タイヨウちゃんに手を引っ張られ、中に半ば転ぶ様に入る。連れて来られたのはリビング。テレビが点いており、アナウンサーと1枚の写真が画面に映っている。
『繰り返します。15分程前インターネット上に、殺人予告と思われる動画が投稿されました』
アナウンサーの言葉の直後画面が切り替わり、1人の人間が映し出される。
「こいつは……!」
学校に現れた男と、全く同じ格好。動画が再生されると、あの粘り気のある声が聞こえてくる。
『もう撮ってんのか? ……あ~、国民の皆様。突然のことで驚くかもしれないが、これから我々は……』
そこで1度溜めを作り、嫌な静けさが広がる。そして告げられた言葉は。
『古文書を持つ人間、並びにその関係者を、殲滅する』




