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第27石 波乱の勉強会

 ──「なんでお前がいる」


「いいじゃないですか。私だって勉強教えてもらいたいですもん」


 現在、我が家の居間には5人の人間がいる。当初の予定通り勉強会をしに来た2人と俺、そして何故か雲川。


「どうして俺達が勉強会をすると知ってる」


「ふっふっふ。このくらい、私にかかれば朝飯前ですよ先輩。愛する先輩のことならなんでも知ってますから」


 ストーカーじゃねえか……この4人ともう1人。


「お茶どうぞ~」


「お、ありがとタイヨウちゃん! 良い子だなあ、本当に立花の妹か?」


 タイヨウがいる。一条には、タイヨウは俺の妹だと話してある。親戚、とだけ言えばいいかとも思ったが、同居する理由を考えるのが面倒だったため妹ということにした。俺の家族構成のことは話していなかったから、案外簡単に信じてもらえた。


「しかし生まれつき色素が薄いのか……白い髪って綺麗だけど、学校で何か言われない? 中学生でしょ?」


「え、ええっと……」


 タイヨウがこちらをチラッと見て助けを求める。一条の好奇心の餌食になれば、そう簡単には逃がしてもらえない。


「……ちゃんと周りの理解はあるよ。お前無遠慮すぎだろ、ちょっとは気にしろ」


「あ、そっか……ごめんねタイヨウちゃん……」


「気にしないでください。けっこう気に入ってるんですよ、この髪!」


 タイヨウの色素の薄さは、生まれつきの病気ということにした。一条は好奇心が強いが、気遣いは人一倍できる。社交力の塊だからな。なにせ俺に話しかけられる。


「ええ子や……」


「黙ってろ。勉強しに来たんだろ」


「てかお前あの子とひとつ屋根の下だろ!? は!? 代われよ!」


「黙れって言ったよな? つまみ出すぞ」


「あ、このクッキーうまい」


「お前……」


 はらわたが煮えくり返りそうだ。殺意が……違う"夜"、お前は呼んでない。


「ははは! 立花と一条君は本当に仲が良いんだな」


「いや、こいつが勝手に」


「そーなんだよ! こいつと会った時なんてさあ……」


 なんか始まった。覚えてないから本当かどうかわからない俺と一条の出会いの話が語られている。勉強会はどうしたんだよ。……一条、まさか……


「おい一条」


「んで購買のおばちゃんが……ん? どした?」


「現実逃避はよせ」


「うっ」


 図星かこいつ。勉強しに集まったのにも関わらず、勉強会という現実から目をそらすための雑談。まあ俺も勉強させられるのは非常にめんどくさい。気持ちはわからないでもない。だが、いずれ飛んでくるであろう如月の説教の方が面倒だ。ここは黙らせる。


 ようやく勉強会が始まったが、5分もしないうちに一条が再び雑談に逃げる。


「そういや、如月さんってなんで転校してきたの? 親の仕事の関係とか?」


「ええ!? ああーいや、その……個人的に!」


「個人的……に…………?」


 無理があるぞ如月。まあ答えられないだろうな、俺を殺しにきたなんて。


「個人的にっていうのは……」


「えーと、えーと……前の学校でいじめられて!」


 うわっ。


「……ご、ごめんね如月さん……大丈夫! うちの学校は良い奴ばっかだから! 楽しい高校生活を送ろう!」


「あ、ああ……」


 やらかしたな如月。今後お前は、一条に微妙に気を遣われ続けるんだ。必要以上に優しい高校生活が送れることだろうよ。雲川、笑ってやるな。タイヨウもフォローしようとしてるが、うまい言葉が出てこないなら無理するな。


「あ! そういや立花……」


 一条が俺に近寄り、小声で話しかけてくる。


「雲川ちゃんの告白、お前どうしたんだよ」


「断った」


「なっ……! お前、あんな美少女に告白されて断っただとう!? 許されんぞ……」


「まだ私は諦めてませんよ」


「うおお!? そ、そうなんだー……」


 小声なのにうるさいという器用なことをする一条の声は、しっかり雲川に聞こえていたらしい。横やりを入れられ、一条が体をこわばらせる。ていうか本当に諦めてなかったのか……


「フられるのは想定内ですからね。私としてはここからが勝負です」


 誇らしげに無い胸を張る雲川に、一条が苦笑いする。気の強すぎる女子はお気に召さなかったらしい。心の底から興味は無いが。


「いやあ、女の子に囲まれて羨ましいなあ……」


「よく言えたなそんなこと。めんどくさいだけだ」


「殺すぞ」


「なんでそこまで言われなきゃならないんだよ」


 一条に理不尽な殺意をぶつけられる。さっきよりちゃんと勉強しているが、口を閉ざしているのはものの5分だ。それでも如月の教え方のおかげか、短時間でも身にはついているらしい。俺はただテキストを開いているだけだが。


 ピンポーン


「私出るから勉強してて!」


 俺が何かを言う前に玄関に駆け出すタイヨウ。またも一条が


「いやあ良くできた子だなあ」


 とか言っているが無視する。


「……ん? これは…………」


 雲川が表情を固くし、玄関の方に目をやる。今までの軽い態度が一変したことに違和感を覚える。


「……ダメだ! 開けるなタイヨウちゃん!!」


 タイヨウが鍵を開けた瞬間に雲川が叫び、玄関に駆け出す。嘘だろ、まさか、まさか。

 雲川に続いて玄関に走る。


「"薬"ゲットー。そんじゃ帰るわ」


「帰すわけねえだろ」


 問答無用。タイヨウを抱えた男を殴る。確かに顔に入った。男はタイヨウを抱えたまま吹き飛ぶが、空中で体勢を整えて静かに着地する。


「嘘でしょ……そこはほら、待て! って言うとかさ……いきなり殴るとか信じらんないんだけど」


「誘拐犯に遠慮なんかいらねえだろ」


「ひど」


 タイヨウは気絶しているのか、動く様子はなく男の腕に収まっている。

 やたらと背の高い男。180は下らないはずだ。眠そうだった顔には殴った痕が残っているが、それでも尚眠気を帯びた顔をしているのはなんだか腹が立った。


「マジ想定外……ま、想定外用の作戦あるけど」


「それは想定内と言うんだ!」


 如月が男に飛び込み、タイヨウを奪還しようとするも失敗に終わる。


「あっぶな。君も接続者(コネクター)?」


「そうだが、燃費が悪いから今は控えている」


「嘘でしょ……いや普通じゃないから。今のは人間が出していい速さじゃないから。古文書(アーカイブ)使ってもギリだったんだけど……」


 こいつ、"リュース"のメンバーか? 少なくとも接続者であることは分かった。


「化け物ばっかかよ……良かった駒連れてきてて」


 家の屋根の上から何かが2つ落ちてくる。体長が2メートル近くある……猿? 目は充血して焦点が定まらず、口からは舌が垂れている。片方は顔の右半分が無くなっており、もう片方は両腕が無かった。


「そんじゃ、あとよろしく」


「逃がさねえって……」


 また男の顔を殴ろうとしたが、猿共に阻まれる。両腕の無い方を殴って突破を……


「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!」


「うっ……!」


 猿が口を大きく開き、鳴き声を発する。耳障りなのはもちろんだが、頭に直接響く感覚がする。正面で喰らっていない雲川や如月も顔をしかめている。


「な、なんだこいつらは!?」


「接続者なのは間違いありませんが、どうにも妙ですね……肉体の損傷がひどい割に行動が理性的すぎる。失敗作と言うにはあまりにも……」


「どうでもいい。こいつらは敵で、俺とタイヨウにとって邪魔以外の何者でもない。それだけだ」


 自分でも自分が冷静じゃないってのは分かってる。だが、タイヨウに手を出した上、連れ去ろうとする奴らを許してはおけない。

 絶対に、潰す。

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