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番外編/序章 君と二人の年初め/前

LOOP:×××

Round/The Calm Before The Storm



あけましておめでとう!

 

年明け、元旦の朝だ!

―――とは言え、俺にのんびり雑煮やおせちを食べている暇などない。

支度にバタバタと走り回っていると、玄関から来客を告げるチャイムが鳴り響いた!

来たッ、来たッ、来たぁ~ッ!


「は~い!」


小走りで玄関へ向かい、ドアノブを掴んでドアをガチャリと開く。

清々しい新年の空気を纏って現れたのは―――おお、俺の愛しの理央(りお)


「やあ、明けましておめでとう、健太郎(けんたろう)


んん~ッ! ま~ぶ~し~い~ッ!

俺にとってはこの瞬間が新春縁起の初日の出だ、眩しいッ! 眩し過ぎるぜ、理央!

今年も変わらず綺麗だなあ、はーっ、眼福眼福!

こうして見ているだけで無限に福が舞い込んでくるのを感じる、何なら柏手を打って拝むべきかもしれない。

きっとご利益半端ないぞ!


「明けましておめでとう、理央! 今年もきっといい年になるな!」

「そうだね」

「何故なら元旦にお前と会えたからだ、今日も美人だよ、有難う!」

「どういたしまして」


こうして俺をさらっといなすところも堪らないんだよなあ。

母さんの話によると、女の子は花と同じで毎日『綺麗だよ』『好きだよ』と囁き続けると、ずっと綺麗に咲き続けてくれるらしい。

まあ俺の理央は既にパーフェクトに美人で可愛いいわけだが、それでもこの魅力は天井知らずなはずだ!

俺は理央と更なる高みを目指したい!

あと普通に好きって言いたいし褒めたい、何ならギュ~っと抱きしめたい、だって好きだからな!

理由をこじつけてでもこの溢れ出す感情を吐き出さないと、それこそ愛が昂り過ぎて爆発しちまいそうだ。


その―――母さんなんだが、実は去年の大みそかに珍しく帰宅した。

例年通りじゃ年末年始は何かと忙しくてろくに連絡すら取れないんだが、たまたま偶然が重なり、久々に親子で年を越せたんだ。

まあ、親父に関しては相変わらず所在不明なんだけどな。

野郎はどうせ今も新年なんてお構いなしにどっかの山や海をうろついているに違いない。

一応連絡を取ってはいるが、もう何年も顔を見ていないし、父親としての役割なんかとっくに諦めている。

そもそも帰ってきたところでトラブルばかり起こすような奴だ、むしろいない方がマシだろう。母さんはちょっと寂しそうだったけどな。


理央は家族で年越し、薫も今世話になっているホストファミリーと年を越すって話で、独りの年越しかと思っていたところに母さんが帰ってきてくれたもんだから、昨日はつい張り切っちまった。

酒呑みな母さんのためにオードブルを作ったり、おせちや雑煮を仕込んだり、あと年越しそばも、思い返せばほとんど台所にいたような気がする。

ご機嫌でワインボトルを次々空けていく母さんと、お互いに近況報告をして、理央のことを訊かれて冷やかされたりもした。

そして無事に年を越し、俺は先に寝たんだ。

今日の予定があったからな。

だけど母さんはその後も酒盛りを続けたらしい、リビングで酔い潰れてこそしていなかったが、飲み食いした後がそのまま残っていた。

今は自室のベッドで爆睡している。

様子を確認してから、急いで片付けを済ませ、母さんが起きて食べられるようおせちや雑煮の用意もして、ようやく自分の支度に取り掛かった。

だからバタついていたんだ。

まったく、世話の焼ける親を持つと苦労するよ。


「おや?」


理央が玄関にある母さんの靴に気付く。


「女性物の靴だね?」

「母さんのだよ、久々に帰ってきたんだ、去年は一緒に年越しした」

「! そうか!」


理央もなんだか嬉しそうだ。

昨日のうちに二人で出掛けることは伝えてあるから、すぐ出発しても問題はない。

だけど酔っ払った母さんに散々冷やかされたんだよな、新年早々初デートかって、そうだよ!


「では是非ご挨拶を」

「いや~、それがさ、昨日飲み過ぎたみたいで、まだ寝てるんだ」

「そうなのか」

「うん、あっ、母さんからは気にせず楽しんでこいって言われてるから、お構いなく」


だけど今度改めて会わせろと言われた。

磐梯の一件の時に多少関わったし、なにより俺にようやくできた彼女が気になって仕方ないらしい。


「それは残念だ、しかしお休みのところを邪魔するわけにもいかないな、次の機会に期待するとしよう」

「ああ、母さんも理央に会いたがってたぞ」

「それは光栄だな」


俺もいずれ理央のご両親にご挨拶しておきたいなー、なんて。

だってこの先もずっと一緒なわけだし、やっぱり筋は通しておかないとだろ。

何より理央は天ヶ瀬家の大切な長女なんだから。


「部屋から荷物取ってくるから、少しだけ待ってて」

「ああ」


理央に断って部屋へ戻り、ダウンジャケットを着て、財布や携帯端末が入ったバッグを肩からたすき掛けにする。

よし、行こう!

今年最初のデートは初詣だ、理央の専属運転手をしている天馬さんが車で少し遠くの神社まで連れて行ってくれるらしい。

楽しみだな~ッ!

玄関で待たせている理央のところへ急いで戻り、一緒に家を出てドアに鍵をかける。


「うぅッ! 寒い!」

「そうだね、吐く息も白いよ」

「理央、手」


思いがけない様子で見上げてくる理央の手を取ってニッと笑い返す。

可愛いほっぺが薄っすら桜色に染まって、ふふっ!

そのまま手を繋いで庭を通り抜け、家の前に停まっている車に乗り込む。

運転席から振り返った天馬(てんま)さんが「明けましておめでとうございます、大磯(おおいそ)様」と挨拶してくれる。


「天馬さんも、明けましておめでとうございます」

「はい」

「今年もよろしくお願いします」

「こちらこそ、では参りましょう、理央様、よろしいですか?」

「ああ、出してくれ」


早速走り出した車内でウキウキ! ワクワク!

ちなみに具体的にどこへ行くかは知らない、着いてからのお楽しみらしい。

新年早々サプライズなんて洒落てるよなあ。

この辺りでちょっと遠い場所にある神社っていうと、あそこか? それともあっちか?

もしかすると鳥居から眺める初日の出で有名な海辺の神社かもしれない。


今日の理央の格好は、質の良さそうなコートにニット、下はウールのズボン。

全身ビシッと決まっていて格好いい、見るからに良家の子息って雰囲気が漂っている。

―――今も理央は、外では男として振舞っているからな。


「なんだい?」


気付いた理央が首を傾げる。

んんっ、格好いいのに可愛いッ!


「いやぁ、今日もイケてるなーと思ってさ」

「君も素敵だよ」

「ははッ! サンキュ!」


俺も褒められたぞ、やったぜ。

まあ今年最初のデートだし? こっちもそれなりに気合が入るってもんだ。


「今朝の君はどうも浮かれているようだね」

「まあな」

「そんなに僕との初詣が楽しみかい?」

「おう!」

「そうか、よかった、誘った甲斐があるというものだ」


元旦の道路は思ったより空いている。

車はスイスイ走って―――どこへ向かっているんだろう?

俺の家を出発して結構経つぞ。

想定していた一番遠い神社にもそろそろ着いていい頃だ、このままだと県を跨ぐんじゃないか?

一体どこまで行くつもりなんだろう。


「なあ理央、ところでさ、俺達はどこに向かってるんだ?」

「空港だよ」

「空港!?」


ポカンとする俺に、更に天馬さんが「間もなく着きますよ」と声を掛ける。

は? え? なんで?

困惑しているうちに着いた―――本当に空港だ。

まさかと思うが、これから飛行機に、乗る?


「あの、理央」

「ここからは自家用機で現地へ向かう」

「じっ!?」

「ああ、国内だからパスポートは不要さ、安心したまえ」

「はぇッ!?」

「では行こう」

「はへぇ~っ!?」


駐車場に停めた車を降りて、理央は天馬さんを従えて歩き出す。

俺も大人しくついて行く。

しかし、飛行機の距離にある神社?

そんな遠くまで初詣に行くつもりだったなんて、しかも自家用機で。

―――金持ちの感覚を舐めていた、なるほど、行動範囲からして庶民とは規模が違うんだな。


それにしても、空港は元旦でも結構人がいる。

目的は旅行か帰省か、空港で働いている人達もご苦労様だ。

年始から活動的だよなあ、俺は大抵寝正月だったから素直に感心する。


空港内を進んでいくと、奥に『特別搭乗口』と書かれたドアが見えてきた。

手前まで行って、ドア脇の端末に天馬さんがカードを通すと、自動でドアが開く。

中は、へえ、落ち着いた雰囲気のラウンジだ。

スーツ姿の男が近付いてきてお辞儀すると、理央に話しかける。


天ヶ瀬(あまがせ)様、お待ちいたしておりました、搭乗機のスタンバイは済んでおりますが、早速参られますか?」

「ああ、有難う、よろしく頼む」

「承知いたしました、大型のお荷物はございますでしょうか?」

「特にはない」

「畏まりました」


スーツの男は俺達をラウンジの更に奥にあるドアへ案内して、そこを通り抜けると外だ。

目の前にゴルフ場なんかで乗るタイプのカートの、もうちょっとしっかりした感じの車が停まっている。

その車の後部座席に俺と理央が乗り込むと、天馬さんが運転席に座ってハンドルを握った。

ここは滑空場だな。

向こうに何本も滑走路が見える、旅客機も何台も停まっている。

数分程度走り続けると、前方に小型の旅客機が見えてきた。

あれがさっき理央の言っていた自家用機ってやつだろうか?


「天ヶ瀬様、お待ちいたしておりました」


機体の傍で停車した車を降りると、タラップの脇に控えていた制服姿の女性がお辞儀する。

この雰囲気、もしや客室乗務員?

おお、美人だ、しかも立派なお胸をしていらっしゃる。


「っだ!」


手の甲をギュッと抓られた痛みで叫ぶ!

天馬さんと客室乗務員が驚いたようにこっちを見た。

うぅ、いてて、理央ぉ。


「ほら、さっさと乗りたまえ」

「はい」


はぁ、怒らせてしまった。

でもヤキモチを妬く理央も可愛い、手の甲はまだ痛いけど。


タラップを上りきって乗り込んだ機内は、おお―――広い!

なんだこの変則的な座席、シートが向かい合って置かれてるぞ、しかもデカい! 足回りのゆとりもたっぷりだ!

映画でしか見たことなかった光景が目の前に広がっている。

こういうの、本当にあるんだな。


「理央、お前んちってガチで金持ちなんだな」

「何を今更」

「いや、だってまさか飛行機まで持ってるとは思わないだろ」

「利便性と安全性を考慮したまでさ、近場ならこれで海外へも行けるよ」


マジか。

つくづく庶民の想像の上をいくな、天ヶ瀬財閥。

俺の感覚じゃ計り知れない。

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