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ここではライスフィールドの一人称で物語が進行します。

 NHKマイルCで7着に惨敗したことは、村重先生達だけでなく、僕にとってもショッキングな出来事だった。

 僕の親友でもある勝ち馬のフシチョウには、おめでとうの一言くらいは言いたかったけれど、隣同士になることができなかったため、それすら言うこともできないまま、僕は引き上げていかざるを得なかった。

 結局、僕は優勝したフシチョウの表彰式を見ることなく、競馬場を後にしていった。


 厩舎への帰り道でも、僕は負けたショックに打ちのめされたままだった。

(パディーやフロントライン先輩は何て言ってくるんだろう。もしも仲間の馬達からもヤジられたらどうしよう…。)

 そんな不安を抱えたまま、僕は村重厩舎の馬房に脚を踏み入れた。

『フィールド、お帰り。ちょっと精神的に疲れているようだな。』

『話はもう聞いているわよ。さあ、厩舎でゆっくり休みなさい。』

 パディーとフロントライン先輩は僕の予想に反し、明るく迎えてくれた。

 ユーアーザギター先輩をはじめ、他の馬達も僕に対して冷たい視線を浴びせることはなかった。

 ホワイトリリーやクノイチ、フォークヒーローをはじめとする2歳馬達は、GⅠという大舞台を走った僕を、むしろ尊敬の目で見ていた。

 (※ちなみにオーバーアゲイン大先輩は休養中のため、厩舎には不在だった。)

(良かった。ヤジられなくて。)

 僕は仲間の温かさに触れることができ、とても救われたような気分になった。

 しかし次の瞬間、また惨敗の記憶がよみがえってしまい、結局落ち込んだ表情のまま、逃げるように自分の馬房へと入っていった。

『これは相当ショックだったようね。今は下手に声をかけるのはやめておきましょう。』

『はい、分かりました。』

 通路でフロントライン先輩が他の馬達にそう言い、パディーがみんなを代表して返事をするのを、僕はうつろな表情で聞いていた。


 1週間後、どうにか精神的に立ち直ってきた僕は、日本ダービーに向けて本格的に調教を開始した。

 もちろん負けた悔しさがなくなったわけではない。緊張感もあるし、負けたらどうしようという不安もある。

 皐月賞馬のトランクゼウスやNHKマイルC勝ち馬のフシチョウをはじめ、多くの馬達は僕を倒すために本気で向かってくる。

 その気持ちに圧倒されそうになる時もある。

 でも時間は待ってはくれない。日本ダービーが行われる日は必ずやってくる。

 そのレースに僕は逃げることなく立ち向かっていかなければならない。

 ライスパディーが言うには、たった18頭しか出られない、競馬の一大イベントに出られるのだから、お前がうらやましいということだった。

 出たくても出られない馬達はライスパディーを含めて大勢いる。その馬達が僕のことを凄いと言ってくれる。

 そう考えたら、僕はますますやってやろうという気持ちがわいてきた。

 そして、日本ダービーで万全の体調になるように、あらゆることを試していった。


 そしてNHKマイルCから3週間後、いよいよ日本ダービーの時がやってきた。

 僕は同じ日にレースに出走するフロントライン先輩と一緒の馬運車に乗って東京競馬場に向かうことになった。

『大丈夫?フィールド君?』

『あまり大丈夫じゃないかも。緊張のあまりお腹は壊すし、寝付けなくなるし、結局万全な状態に持っていくことができなかった気がする。』

『そう。でも君は君のままでいればいいんじゃない?何も後ろめたく考えなくていいわよ。ここまで来たら今までやってきたことを出し切るまでよ。現にフィールド君は相当プレッシャーのかかる状況の中で朝日杯を勝ったでしょ?』

『うん。』

『じゃあ、きっと勝てるわよ。あの時、勝てたんだから。』

『分かりました。』

 僕はフロントライン先輩から元気をもらうことができ、少しはほっとすることができた。

(そう言えば先輩、以前よりも明るくなったな。以前はいつもどこか悲しそうな表情をしていたのに。きっと、僕の母さんが言っていたアドバイスのおかげで、スペースバイウェイさんのことを前向きに考えられるようになったのかな?)

 先輩の横顔を見ながらそう思っていると、ふと

『ねえ、フィールド君、一つ聞きたいことがあるんだけれど、いい?』

 という声がした。

『えっ?な、何ですか?』

『あのね、フィールド君…、私のこと、好き?』

『え、ええっ!?』

 僕は思いもよらない先輩の質問に驚き、思わず顔を赤らめ、その場で固まってしまった。

『フィールド君、私のこと、凄く気にかけてくれたでしょ?それに、私は母のことでフィールド君に何度も当たり散らしたのに、君は嫌な顔一つせずに話を最後まで聞いてくれたし…。』

『……。』

『それでね、私、放牧に出ていた時に、母の姉であるダイヤモンドリングさんに聞いてみたの。そうしたら「ライスフィールド君はあんたに好意を持っている。」って言われてね。だから確かめてみようと思ったの。ねえ、フィールド君、私のこと、どう思っているの?』

『……。』

 僕は頭が真っ白になっていたせいか、先輩の質問に対し、全く答えられずにいた。

(※でもなぜか先輩の言ったことをきっちりと記述している僕ですが…。)

『フィールド君、聞いてる?』

『えっ?あ、あの…、聞いてます、聞いてます。あの、先輩のことは…、その…、気にしてないです…。』

 僕はしどろもどろになりながら、思わずこんなことを言ってしまった。

 その瞬間、間違えたと思い、言い直そうとしたが、なぜか言葉が出てこなかった。

『そう…。残念ね。私はうれしかったんだけどな…。ごめんね、変なことを聞いて。』

 先輩はそう言うと、本当に残念そうな表情をしながらそれ以降黙り込んでしまった。

(ぬああ~~。だから違うんだってば!先輩、もう一度質問してきてよ。今度はちゃんと答えるから!)

 僕は心の中でパニックになりながら言い直す機会を待ったが、先輩が全然話しかけてくれなかったため、結局機会を逃してしまった。

(ああ~~、僕は何てことを言ってしまったんだ…。いい機会だったのに…。)

 気がついたら、いつしか僕はこれから走る大レースのことよりも、先輩に気持ちを伝えられなかったことばかり考えていた。

 そうしているうちに、馬運車は決戦の地に到着した。

 これから僕は第10レースの日本ダービーに、先輩は第11レースの富嶽賞(1000万下、ダート1400m)に出走することになる。

(とにかく、先輩のことは忘れよう。とにかくダービーを勝つぞ。トランクゼウスやフシチョウ、トゥーオブアス、グレイトエスケープ、ソングオブリベラなど、ライバルは多いけれど、どんな馬の挑戦でも受けて立つ。絶対に勝ってやる!)

 僕は懸命に自分を奮い立たせ、出番を待つことにした。

 運命の日本ダービーの発走まで、あと6時間。


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