第10話 善意の連鎖
善意は、疑われない。
だからこそ――
止めることができない。
朝から、学院は慌ただしかった。
「聖女様の負担を減らすために」
「心身の安定を最優先に」
「不測の事態を避けるために」
聞こえてくる言葉は、どれも正しい。
正しすぎるほどに。
私は、廊下の端に立ち、
人の流れを眺めていた。
もう、誰も私に説明しない。
それでも、情報は勝手に入ってくる。
聖女セシリアの一日の予定は、
教会主導で細かく管理されるようになっていた。
訓練の時間。
休憩の長さ。
誰と話すか。
――すべてが、
「彼女のため」という名目のもとで。
私は、中庭で彼女を見かけた。
周囲には、聖堂関係者。
学院関係者。
そして、王太子。
守られている。
けれど――
彼女の足元に、自由はない。
「セシリア様、ご無理なさらず」
「今日はここまでにしましょう」
彼女は、小さく頷く。
「……はい」
拒否しない。
提案もしない。
ただ、流れに乗る。
それが、
“聖女として正しい姿”
だから。
私は、胸の奥で、ひとつの言葉を記録した。
――選択の欠如。
「……やりすぎだと思わないか?」
ユリウスが、隣に立つ。
「思います」
即答だった。
「でも、止められない」
彼は、苦笑した。
「皆、本気で善意だからな」
その通りだ。
だからこそ、
誰も責任を取らない。
午後。
学院内で、小さな会合が開かれていた。
名目は、
「聖女支援体制の最適化」。
議題に、私の名前は出ない。
けれど、前提にはなっている。
「以前の体制では、負担が大きすぎました」
「余計な緊張を生まない環境が必要です」
余計な緊張。
――私だ。
誰も口にしない。
だから、反論もできない。
私は、再び魔法を使った。
解析。
判断の流れ。
意見の方向。
見えてくるのは、
単一のベクトル。
「聖女を守る」
↓
「不安要素を排除する」
↓
「問題になった存在を遠ざける」
誰も悪者にならない。
誰も手を汚さない。
ただ、
私が削除される。
夕刻。
セシリアが、一人になる瞬間があった。
ほんの数歩分の距離。
私は、近づかなかった。
代わりに、彼女の表情を見る。
笑っている。
……でも。
その笑顔は、
選んだものではない。
「リリアーナ様……」
小さな声。
彼女が、私を見ていた。
視線が、揺れている。
声をかけたい。
何か言いたい。
けれど、周囲の空気が、それを許さない。
私たちは、何も言わなかった。
その沈黙が、
この世界の答えだった。
夜。
記録を整理しながら、私は確信する。
善意は、連鎖する。
誰かが止めない限り、
加速する。
そして――
最後に残るのは、
役割だけだ。
追放フラグ【Stage4:有罪前提】
――加速。
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