第9話 観測者の視線
世界は、何も変わっていない。
王立学院の朝。
鐘の音、行き交う生徒、整えられた庭。
――けれど。
私は、そのすべてを
外側から見ている感覚があった。
公的な役割を外されたことで、
私の一日は驚くほど静かになった。
会議はない。
進言の機会もない。
誰かが私を避けている、というより――
私が、存在しないものとして扱われている。
だが、だからこそ。
見えるものがあった。
「……聖女様の予定ですが」
廊下の角で、教師たちが話している。
「教会側の判断で、午後に変更です」
「本人の希望、という形で」
希望。
その言葉が、軽く使われる。
私は足を止め、会話の続きを待った。
「セシリア様は、あまり意見をおっしゃらないから助かりますね」
「ええ、余計な摩擦が起きません」
――本当に?
彼女は、選んでいない。
選ばされているだけだ。
私は、心の中でそう整理した。
中庭。
セシリアは、数人に囲まれていた。
以前よりも、人が多い。
以前よりも、距離が近い。
それは、保護であり、同時に――拘束だ。
彼女の表情は、柔らかい。
けれど、視線は定まっていない。
私は、遠くからその様子を見ていた。
近づかない。
声もかけない。
今の私は、
関係者ではない。
「……君、立ち位置変えたな」
背後から、声。
振り返ると、
第二王子ユリウスが立っていた。
「逃げてるわけじゃない」
「でも、戦ってもいない」
観察するような視線。
私は、小さく頷いた。
「今まで、私は中にいました」
「今は?」
「外です」
それだけで、彼は察したらしい。
「なるほど……観測者か」
その言葉に、私は微かに笑った。
午後。
私は、久しぶりに自分の魔法を使った。
秩序・解析系魔法。
人の言葉と判断の流れを、
“痕跡”として捉える力。
直接、干渉はしない。
ただ、読む。
――読めてしまった。
判断の起点にある言葉は、どれも似ている。
「前例がありますから」
「皆がそう言っています」
「穏便に進めるべきです」
個人の意見ではない。
誰の責任でもない。
それなのに、
結論だけは、最初から決まっている。
私は、息を整えた。
……やはり。
これは、偶然ではない。
夕方。
ユリウスと、短い会話を交わす。
「なあ、リリアーナ」
「はい」
「これ……物語じゃないか?」
彼の言葉に、胸が静かに鳴った。
否定しなかった。
否定できなかった。
「役割があって、展開があって、結末がある」
彼は続ける。
「君は――悪役だ」
言い切り。
けれど、そこに嘲りはなかった。
私は、静かに答える。
「ええ。そう割り当てられています」
「……気づいてるんだな」
「だから、折ります」
ユリウスは、息を吐いた。
「やっぱり、面白い女だ」
夜。
部屋に戻り、記録を整理する。
言葉。
判断。
沈黙。
すべてが、
同じ流れをなぞっている。
――これは、台本だ。
誰かが書いたわけではない。
だが、皆が従っている。
私は、初めて確信した。
追放フラグは、
“出来事”ではない。
構造だ。
そして。
構造は――
壊せる。
追放フラグ【Stage4:有罪前提】
――進行開始。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




