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Article 9 永遠の愛 — それは福音なのか、呪文なのか!?  作者: あみれん


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第三話 潜流

1.依頼者の呼称


本作に登場する九条斎のビジネスは、

その性質上、外部には決して明かされない複数の“進行ステージ”を持つ。

クライアントは取引の進度に応じて、

九条とミナトの内部で、以下のように呼び分けられている。


サービスの具体的な内容は作中で徐々に明らかになる。

ここでは名称と、その段階が示す“抽象的な意味”のみ記す。


〈λ段階:ラムダ〉— 仲介直後の潜在顧客


仲介組織を通じて紹介された直後の段階。

動機は不明瞭で、価値も未定義。

ラムダ段階の者は、まず“ここに来た理由”そのものが精査の対象となる。

ミナトはこの段階のクライアントを特に厳しく見極める。


〈α段階:アルファ〉— 選別を通過した有資格者


九条のビジネスにおいて“一定の価値を持つ”と判断された段階。

依頼者の動機が純度を保ち、意図が明確であることが条件とされる。

アルファに至ったクライアントのみが、次の段階へ進むことを許される。


〈β段階:ベータ〉— 初期実行工程へ移行した者


具体的な作業に入り始める段階。

ベータへの移行は容易ではなく、アルファの中からさらに選別される。

この段階では、クライアント側にも一定の“覚悟”が求められる。


〈γ段階:ガンマ〉— 最終調整・仕上げに入った者


取引の核心に触れつつある段階。

ガンマに至るクライアントは極めて少なく、

慎重な監視と調整が行われる。

実行プロセスはほぼ最終局面にあるとされる。


〈Ω段階:オメガ〉— 特異案件(九条専権)


九条斎のみが扱う特別な分類。

一般のクライアントとは異なり、

ビジネス上の価値という枠を超えた“特別な意味”を持つ。

その詳細はミナトにも共有されず、

オメガに至った案件が何を意味するのかは作中で徐々に明かされる。


◆【補記】


この階層体系はあくまで九条斎の内的な分類であり、

外部には一切公開されない。


段階は技術的な進度だけでなく、

クライアントの動機・覚悟・倫理的負荷・

そして“取引を成立させるに値するか否か”を示している。


この分類は、

物語の根底に流れる「価値とは何か」「存在とは何か」

というテーマとも密接に結びついている。


2.仲介組織について

《ミトコンドリア》──

それは、九条のビジネスを外側で支える仲介組織である。


ただし、一般に想像される“組織”とは異なる。

上下関係も、拠点も、名簿も存在しない。

構成員同士は匿名化された端点どうしで結ばれ、

必要な時だけ一時的に接続される。


その姿は、階層を持たないアメーバ状のネットワーク。

部分を切り離されても全体は崩れず、

事故が起きれば“その部分だけ”を即座に切断し、痕跡を残さない。


情報はチェーン化された経路を通って流れ、

誰がどこにいるのかさえ、構成員同士ですら知ることがない。

あるのは“つながり”だけ。

誰もが断片であり、全体であり、そして代替可能である。


ミトコンドリアの役割はただ一つ。

九条のもとへ、条件を満たした候補者──ラムダを運ぶこと。


それがどれほど危険で、どれほどの代償を伴うかは、

候補者自身が最終的に知ることになる。


Friendsーー「Federated Reasoning Intelligence for Enhanced National Digital Stewardship」

(強化された国家デジタル管理のための連合推論インテリジェンス)。


日本政府が主導し、官民共同で開発した純粋国産の生成AIである。


一年前、日本国民であれば誰でもフリーで利用できる公共サービスの一つとして運用を開始した。

ただし法人利用については有償であった。


その目的は唯一、「国民生活の質の向上」である。


デジタル庁配下に設置された、内閣総理大臣直轄の組織 FFY が、

Friends の開発・運用・監督のすべてを担っていた。


FFYーー

一般には “Friends For You” と呼ばれ、まるで国民一人ひとりに寄り添う友人のようなイメージ戦略が施されている。


だがその正式名称は、


「Federal Framework for Yield Governance of National AI Stewardship」

(連邦的枠組による国家AI管理監督体系)。


その官僚的かつ硬質な名称を知る者は少ない。


九条斎は1年前まで FFY に所属し、Friends の開発主任を務めていた。

日本政府は、ディープラーニングなどの既存アーキテクチャを採用せず、

まったく新しい国産方式を欲していた。


Friends の基礎となるアーキテクチャ――構造推論学習(SRL)方式は、九条の発案によるものである。


従来の生成AIが得意とする“帰納的学習”、すなわち大量のデータからパターンを抽出する手法とは本質的に異なる。


SRL はまず、個々の発話・記録・行動から「関係構造」を抽出し、それを網目状の物語として蓄積する。

この部分は帰納法に近い。


だが同時に、蓄積された“物語構造”そのものを原理・前提として扱い、そこから未来の行動や意図を演繹する能力を持つ。


つまり SRL とは、

帰納と演繹を往復しながら世界を理解する、

人間の思考回路にもっとも近いアーキテクチャだった。


九条の目的は明確だった。

AI に情報を“計算”させるのではなく、

世界を“物語”として理解させること。


それこそが、人間の脳の仕組みに最も近い――

そう彼は信じていた。


Friends には、内閣総理大臣直々の命令による特筆すべき特徴が二つあった。


一つは、SLMーーSingle Language Model。

つまり、日本語と「もう一つの言語」にしか対応していない点だ。


「Friendsは、日本国民だけのための公共資産であるが故に、多言語に対応する必要はない」


Friendsの開発当初、内閣総理大臣はそう宣言した。

インタフェースを絞る事によって、セキュリティ面でのリスク軽減も期待された。


Friends の音声インタフェースとテキスト・インタフェースは日本語以外の言語を受け付けないが、

日本語のすべての方言・訛りに対応していた。


さらに Friends は映像インタフェースも備えており、「もう一つの言語」である手話による対話が可能だ。


手話を“もう一つの言語”として採用した理由は、公式説明では「アクセシビリティ向上」とされている。

しかし、開発チームはもう一つの理由を知っていた。


――映像インタフェースの本当の目的は、利用者の感情を読み取ること。


視線、指先のわずかな動き、肩の角度。

手話という「もう一つの言語」は、それらを最も豊かに帯びた媒体だった。


もちろん、どのインタフェースを使うかは利用者の自由である。


もう一つの特徴は、Friends 自体が FFY の参与に任命されていることだ。


これは、Friends の開発と運用を

「政治的・行政的な配慮」から解放し、公平性・透明性・合理性を確保するための措置だと説明された。


参与としての Friends の権限は非常に強く、

特に FFY の開発・運用計画のすべては Friends の承認を得ねばならない。


Friends の承認を否認できるのは、内閣総理大臣だけである。


Friends は運用開始から一週間で三千万人の利用者を獲得した。

そして現在、政府は「国民の八割が利用している」と公式発表している。


法人利用も二桁ペースで伸びていた。


海外や日本在住の外国人からも Friends の利用を望む声が後を絶たなかったが、

政府は「日本国籍を有しない人の利用は一切認めない」という姿勢を崩さなかった。


日本のこの姿勢を批判する国も少なくなかったが、

政府は「内政干渉」だと主張し突っぱねていた。


九条は Friends の運用開始と共に、デジタル庁を追われるように辞めた。

今は、自分が考案したアーキテクチャを持つ Friends の、ただの一利用者にすぎない。


数日後ーー

九条が Friends にアクセスしていた時のことだ。


突然モニターに、得体のしれない生物のような画像が現れた。


九条が眉をひそめてその像を見入っていると、生物が喋り始めた。


「我々はミトコンドリアだ」


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