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第十八話:BUILD

嘆きの廃都での完全攻略から三日後。柏木修たちは都内の喧騒から少し離れた裏路地にある、古びた喫茶店の二階フロアに集まっていた。

「ギルド登録には、まずこの『理念書』ってのを書かなきゃいけないらしいッス」

カイがテーブルに広げた書類の束を指で叩く。冒険者ギルド管理機構が発行する正式な設立申請キットだった。バインダーには細かい注意書きがびっしりと印字されている。

修はそれを一瞥し、内心でつぶやいた。

——仕様書が雑すぎる。これじゃ要件定義として機能しない。

「修さん、これ、なんて書けばいいんでしょう……?」

雪音が困った顔で理念書の欄を覗き込む。「ギルドの目的」「活動方針」「メンバー構成」といった項目が並んでいるが、どれも記入例が抽象的すぎて参考にならない。

「形式に意味はない。重要なのは、後から審査官や他ギルドに突っ込まれない一貫性のある文章を作ることだ」

修はスマートフォンを取り出し、画面に視線を落とした。普段は冒険者データベースへの不正アクセスや市場分析に使っているこの端末も、今日は純粋な事務処理のために動いている。

「タクミ、お前の錬金工房はギルド所属の生産設備として登録できる。職人街の許認可と紐づけておけ」

「は、はい!ちゃんと申請書類、用意してきました……あの、これで合ってますか?」

タクミが緊張した様子で分厚いファイルを差し出す。中には工房の設備一覧、安全基準への適合証明、過去の納品実績が整理されていた。普段の気弱さとは裏腹に、ものづくりに関わることになると驚くほど丁寧な仕事をする。修はそれをぱらぱらと流し読みし、頷いた。

「悪くない。一箇所、消防法の項目が古い基準を参照してるが、それ以外は通る」

「えっ、本当ですか!?」タクミの顔がぱっと明るくなる。

ミカゲは部屋の隅で、古い言語で書かれた契約書の雛形を睨んでいた。ギルド間の協定文書には、稀に古代語由来の専門用語が紛れ込むことがある。

「……これ、誤訳」

「どこだ」

「……『不可侵条項』。本来は『相互不干渉』。意味、違う」

修は身を寄せて条文を確認する。ミカゲの指摘通り、テンプレートの一文は法的な意味合いがわずかにずれていた。こうした細部の精度は、後々の紛争で致命的な差を生む。

「……助かる。お前がいなかったら危なかったな」

「……ん」

ミカゲは小さく頷くと、フードの下でわずかに口角を上げた。普段は擬音と単語だけのやりとりだが、こういう瞬間に見せる些細な反応は、修にとっても心地よいものだった。

セシルは部屋の窓際で、ギルドの紋章デザインの試作品を並べていた。

「……魂を導く印には、過剰な装飾は不要……されど、無個性も罪……」

ぶつぶつと呟きながら、彼女が描いたのは、剣と羽根、そしてプログラムのコードの断片を組み合わせたシンプルな紋章だった。「ライジング」という名前に合わせ、上昇を示す矢印のようなラインが入っている。

「セシル、それ……すごく綺麗です!」

雪音が覗き込んで声を上げた。セシルは少し驚いたように肩を震わせ、ヴェールの隙間からこちらを見る。

「……あなたが、気に入るとは……予想外」

「私、こういう意匠、好きなんです。優しくて、強そうで」

「……そう……」

セシルはそれ以上何も言わなかったが、紋章の端を少しだけ書き直し、さらに丁寧な線を加えていた。

カイは一人、ギルドの活動方針について頭を抱えていた。

「うーん……『冒険者の安全と公正な依頼環境を守る』とか書けばいいんスかね?でも、それだけじゃ俺たちの強みが伝わらないッスよ」

「カイ、お前の言葉でいい。お前が大切だと思うことを書け」

修が口を挟む。カイは目を丸くしてから、少し考え、ペンを握り直した。

「……俺たちは、見捨てられた奴を見捨てない。罠を見抜いて、誰も死なせない依頼だけを受ける——こういうのは、どうッスか?」

「いいな。それでいい」

修の短い肯定に、カイは嬉しそうに口元をゆるめ、書類に書き込んでいった。修自身、口にした言葉が単なる事務処理の一環ではなく、自分の中の何かと一致していることに、内心わずかな違和感を覚えた。

——効率化のためだ。仲間の意欲を上げるのも、組織運営として正しい。それだけだ。

そう自分に言い聞かせるが、カイの笑顔を見て湧いた感情は、損益計算で説明できるものではなかった。修は軽く頭を振り、目の前の書類仕事に意識を戻した。

二時間後、理念書と各種申請書類がほぼ完成した。残るは代表者の署名と、ギルド本部への正式提出のみだ。

「あとは俺が窓口に出すだけだな」

修がファイルをまとめていると、雪音が不意に切り出した。

「修さん。私たち、これからどんな依頼を受けていくんでしょうか」

「ランクに見合った依頼を選別して受ける。無駄な依頼に時間を割く余裕はない」

「でも……それだけじゃなくて。私、皆さんと一緒に、ちゃんと冒険者として、誰かの役に立てるギルドにしたいんです」

雪音の声には、いつもの献身的な響きとは少し違う、自分なりの意志がにじんでいた。修は彼女の顔をしばらく見つめ、小さく頷く。

「……それも、仕様に組み込んでおく」

「ふふ、修さんらしい言い方ですね」

雪音が微笑む。修は微妙に視線を逸らしながら、書類の最終チェックに戻った。

窓の外はすでに夕暮れに染まっていた。六人がそれぞれの得意分野を持ち寄り、一つの組織を形作っていく過程は、修にとって不思議な感覚をもたらした。前世では、こうした地味な準備作業を誰かに任せ、結果だけを享受していた。今は違う。仲間たちの不器用な、しかし確かな積み重ねが、目の前で一つの形になっていく。

「明日、提出してくる。問題なければ、二週間以内に正式登録されるはずだ」

「やったッス!」カイが拳を握る。

「……楽しみ」ミカゲが珍しく感情を込めて言った。

「私も……お祝い、何か作ります……甘いもの中心に」セシルがぼそりと付け加える。

雪音とタクミも顔を見合わせ、笑顔を浮かべた。修はその光景を眺めながら、胸の奥にわずかな温かさを感じる。それを認めるのは、まだ少し早い気がしたが——確かにそこにあるものを、無視することもできなかった。

ギルド『ライジング』。

それは、修にとって復讐の道具であると同時に、いつの間にか、守りたいと思う場所に変わりつつあった。


【現在のステータス】

■柏木修

Lv: 19

HP: 850

MP: 240

STR: 75

VIT: 70

INT: 245

DEX: 195

AGI: 95

LUK: 7

ATK: 92

DEF: 78

RES: 230

現在の装備: 浄化の片手剣、改良された革鎧(Eランク相当)、使い古したスマートフォン

主なスキル: エクストラスキル『プログラマー』、パッシブ『不遇の記憶』、パッシブ『並列演算』


■白石雪音

Lv: 24

HP: 2250

MP: 600

STR: 5

VIT: 350

INT: 80

DEX: 60

AGI: 52

LUK: 105

ATK: 0

DEF: 420

RES: 285

現在の装備: 訓練用ショートワンド、見習い聖女の軽量銀鎧、白銀の円盾

主なスキル: 【聖域守護】、【反射装甲リアクティブアーマー】、パッシブ『不屈の精神』


■カイ

Lv: 21

HP: 780

MP: 195

STR: 155

VIT: 122

INT: 98

DEX: 380

AGI: 450

LUK: 185

ATK: 250

DEF: 115

RES: 95

現在の装備: タクティカル・サバイバルナイフ、浄化の片手剣サブ、強化軽量レザーベスト、特注防塵ゴーグル、高機動型ダンジョンシューズ

主なスキル: 『罠感知(ランクA)』、『パルクール・アクション』、『お調子者の空元気』


■ミカゲ

Lv: 22

HP: 580

MP: 1600

STR: 25

VIT: 44

INT: 375

DEX: 110

AGI: 135

LUK: 68

ATK: 210

DEF: 64

RES: 420

現在の装備: 深淵の魔導杖・改式ヴォイド・レゾナンス、魔導銀の装飾ローブ、深淵を覗く者のフード、身代わりの守り

主なスキル: 固有スキル『極大消滅アビス・イレイザー』、古代語魔法、古文書解読、沈黙の集中


■タクミ

Lv: 12

HP: 210

MP: 280

STR: 18

VIT: 24

INT: 85

DEX: 120

AGI: 38

LUK: 55

ATK: 28

DEF: 35

RES: 65

現在の装備: 煤けた作業用エプロン、特製指ぬきグローブ、指定学生服ズボン、初心者の小型錬金釜

主なスキル: 固有スキル『錬金術(論理構築/オーバーライド)』、特殊技能『アイテムの目利き』


■セシル

Lv: 19

HP: 240

MP: 1500

STR: 15

VIT: 22

INT: 115

DEX: 45

AGI: 32

LUK: 9

ATK: 20

DEF: 32

RES: 145

現在の装備: 古銀のロザリオ、夜色の修道服(ダンジョン産繊維製)、隠者のヴェール

主なスキル: 『浄化の光』、『鎮魂の調べ』、『甘露の直感』、パッシブ『生者への慈愛』

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