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エピローグ


 目を開けると勇太の部屋のド真ん中に立っていた。

 春希も何度も訪れた事がある、勇太が独り暮らしをしている部屋だ。

 勇太はベッドから起き上がってすぐに枕元に置いておいたスマートフォンで日時を確認すると、まだ火曜日の夕方だった。

 勇太が異世界に旅立ったのは日曜日、正確に言うと月曜日

に差し掛かった深夜だったので、あれだけ異世界で過ごしたにも関わらず本当に丸2日も経っていない事になる。

 次にLINEのトークを確認すると、異世界に行く前には消えていた春希とのトーク画面がちゃんと出てきた。

 土曜日に春希と待ち合わせする為にやり取りした内容が記憶のまま載っていて、どうやらちゃんと春希が存在する世界に帰って来れたらしい。

 勇太はホッと胸を撫で下ろした。


「本当に帰ってこれたんだよね?」


「大丈夫、色々上手く行ったっぽいぞ!」


 勇太は春希にトーク画面を見せながら言った。


「異世界に行く前はこのトークも全部消えてたんだよ。それが復活してるって事はハルが存在する世界って事のはず!」


「色々あり過ぎて実感わかないなぁ… とりあえず私も充電させて」


 異世界で時折電源を入れては英単語を調べていたお陰で充電は既に5%を切っていたので、勇太から充電器を借りて自分のスマートフォンに挿し電源を入れた。

 暫くすると起動したので着信履歴を確認すると案の定会社から何度も連絡が入っており、メールも何通か届いているようだ。

 丸2日無断欠勤状態なので無理もない話だ。


「今急に実感わいてきた」


「会社から?」


「うん、ユウは仕事どうしたの?」


「インフルエンザって事になってる」


「インフルエンザでも、連絡くらいはできるよね…」


 誠心誠意謝るとして、まさか『異世界に行ってました』と正直に言うわけにもいかないし、勇太を真似してインフルエンザでは無理がある。

 何と言い訳をすればいいのやら。

 春希は溜め息を吐いた。

 とりあえずメールは後で確認しよう。

 春希はスマートフォンをそっと伏せて置いた。


 春希は異世界に行く時に着ていた衣服はアイテムボックスに収納したままで魔道具の鎧を着たままこちらに帰って来てしまったので勇太に着替えを借り、とりあえず食事を取る事にした。

 とは言っても二人とも食べに行く気力も作る気力もなかったのでご飯にレトルトカレーをかけただけの物だ。


「ヤバイ、死ぬほど美味い」


「お米ってこんなに美味しかったっけ?」


 久しぶりに食べたお米は泣ける程美味しかった。

 二人ともこの日のカレーの味は一生忘れないだろう。


「本当に帰って来れてよかったな」


「うん、豪ちゃん達に何も言わずに帰って来ちゃったのは心残りだけど」


 春希がそう言った瞬間、伏せたままになっていた春希のスマートフォンがピポっと電子音がした。


『春希!』


「「ん??」」


 スマートフォンから春希の名前を呼ぶ声が聞こえ、二人はギョッとした。

 春希が急いでスマートフォンを表に向けると、画面には可愛くデフォルメされた豪ちゃんが映し出されており、こちらに向けて手を振っていた。


「豪ちゃん!?」


『そうだよー! 豪ちゃんだよー!』


「何で!? これどうなってるの!?」


『神様にお願いしたんだよ。【春希とずっと一緒にいたいです】って。でも体が大きすぎるから中身だけだって!』


「確かにあのまま連れて来たら騒ぎになるよな」


 勇太も驚きながら画面を覗き込んでいた。


「でも機種変とか故障とかしたらどうなるの?」


『クラウドシステムだから大丈夫なんだって』


 豪ちゃんは春希の疑問に得意げに胸を張って答えた。

 それはそれでサーバーとかどうなってるの? など別の疑問も出てくるが、取り敢えず大丈夫らしいし。

 豪ちゃんも嬉しそうにしているし、こちらの世界でも豪ちゃんと一緒にいられるのだから春希にとっても僥倖でしかないので呼んだら出てくる高性能音声アシスタントだと思って気にしない事にした。



 その後、春希は誠心誠意平身低頭謝り倒し職場復帰を果たした。

 上司からは散々怒られたが、同僚、特に女性達が凄く庇ってくれたり慰めてくれたりとても優しく、それだけじゃなくて何かとおしゃべりしたり、ランチに誘われたりする機会も増えた。

 異世界に行く前の春希は女性達からも恐がられてばかりだったが、もしかして魅力スキルが上がったお陰なのかもしれない。

 異世界にいた時も思ったが、何故春希の魅力スキルは女性にばかり効くのか謎だ。


 そんなこんなで異世界から帰って来た初めての週末、春希と勇太はエリーローザ、つまり春希の祖母が入居しているホームにやって来ていた。

 改めてお礼と、元々はテレサレーゼの物であった金貨を返す為だ。


「おばあちゃん」


 春希が呼ぶが、祖母はぼんやりしたまま窓の外を見ていた。

 祖母は痴呆が進んでいてぼんやりしている事が多く、話しかけてもあまり返事が帰ってこなかったり家族でも誰か分からなくなったりする事が増えていた。

 分からないかもしれないが金貨を返して、ちゃんとお礼を言いたかった。

 春希は祖母の手に金貨を握らせると言った。


「ありがとう。おばあちゃん達のお陰でちゃんと帰って来れたよ」


「そうですか。良かったですね」


 分かっているのか分かっていないのか、祖母は春希と目線が合わないもののおっとりと答えた。


「おじいちゃんにも会ったよ」


 祖母は初めて春希の顔に目線を向けた。


「おじいちゃん?」


「おばあちゃんの好きな人でしょ。かっこいい人だったよ」


「そうよ。あの人はいつだってかっこいいの」

 

 そう言うと祖母は春希の良く知るふんわりとした笑顔で微笑んだ。



【END】

最後までお読み頂きありがとうございました。


新しく『悪役令嬢 OF THE DEAD 〜悪役を貫きたいのに愛されちゃって困ります〜』の連載を始めました。

ストーリーはタイトルのまんまです。

もしよろしければそちらも読みに来て頂けると嬉しいです。

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