9月13日
朝起きたら、友人との待ち合わせの時間だった。
やっちまったーーーーー。あららーーーー。
とりあえず今起きたラインを入れて急いで支度。レッツラゴー(激しい感じで)。
およそ二カ月ぶりくらいの新宿。何も変わってなかった。そして僕の方向音痴さも、相変わらずだった。
友人との合流場所は、いっけんめ酒場の前。が、変な場所に出た。まあ見覚えはあるので、とりあえずこっちかなーってところに歩いて、いや、こっちかなーってなったりもしながらとりあえずそれっぽい通りに出る。
それっぽい通りに関しては、流石にどこに何があるのか覚えている。なんたって学校の昼飯とかここの界隈で食うことが多かったからね。
まあ、それでも、あれ、ここかなー、と不安になって、本当に間違っててあ、ここかー、ってなったんだけどね。
着いて、連絡をとる。待ち合わせ時間はとうに過ぎている。
「よ」
「うーす」
振り返ると、二人いた。誘ってきたやつと、もう一人。
誘ってきたやつは……ドミノ。もう一人は……ピザーラとしよう。
しじみことぼくは、少し安心した。一人で待っていたわけではなさそうだ。
三人で店に入った。
流石に昼下がりということもあって空いていた。手近な席に座る。
「で、この夏休み何してたの」
ドミノは他人の動向聞きたがり男である。春、夏、冬の大型連休が終わり彼に会うと、必ず第一声は「で、何してたの」である。
なので今回もまたそれか、と内心溜め息をつきながら夏休みのことを話す。
「まあ、それなりに」
「どうせ、バイトばっかしてたんだろ」
そう言ったのはピザーラだ。彼はさっそく愛用のラークマイルドに火をつける。先が線香花火みたいに赤く光る。煙をぶわっと吐いた。
僕は今煙草をほとんど吸っていないので、結構匂いがくるのだが、少し前までは自分がしていたことなので文句は言えない。
「……んまあ」
心外である。僕はこの夏休み色々としていた。小説を書いたり脚本を書いたり映画を観たりドラマを観たり、小説読んだり脚本読んだり。
でも、僕はそれをピザーラに言うつもりはない。だって僕は彼が苦手だからだ。勘違いしないでほしいが、べつに嫌いではない。苦手なだけだ。波長が合わないというか。それに趣味も。
僕は苦手な人はちょこちょこいるが、嫌いになった人はおそらく今までいない。というか、嫌いが苦手に含まれてるという節もあるが。とにかく、この人嫌いだ、と思ったことはない。
話を戻そう。どうして彼に僕の努力の話をしないか、その最大の要因は、彼は僕が脚本を書いていることも知らなければ小説を書いていることも知らないし、ましてや小説が好きだということすら知らないだろう。
だから、言っても驚かせるだけだ。そして僕はこの話を根掘り葉掘り掘り下げられるのが好きじゃない。身の上話をぺらぺらと話すのが苦手なのだ、単純に。
「だと思った」
ピザーラは興味無さそうに言った。
「でも流石にずっとバイトってことはないでしょ。逆にバイトが無い日は?」
これは訊いたのはドミノだ。
「……映画観たりドラマ観たり、アプリゲームしたり」
「訊いて損したわ」
ドミノには僕の身の上話をしたことがある。でも、あまりドミノは僕のそういうあまりしたくない話をこういうところでしようとしない。だから僕は、ドミノに話した、とも言えるのだけど。
僕はドミノのことが友人として好きだった。
「ピザーラは? 楽しんだんでしょ?」
「もちろん。たしか最初はね、温泉行ったのかな」
そこから、ピザーラの怒涛の自分トークが始まる。僕は頼んでいたつまみを飲みながら、話半分に訊いていた。ぶっちゃけあんまり興味がないのだ。おそらくここが僕とピザーラが合わない理由だと思う。
ピザーラはよく自分がしたことを話す。今回の話で言うなら、女の子の家に泊まった、皆で海に行った、花火をした、宅飲みした、水族館行った、そこで良い感じになった、でも付き合わなかった、タイプじゃないわけじゃないけど、この関係を大切に、うんぬんかんぬん。
僕はこの話に興味がなかったので、とりあえず最初に頼んだ角ハイボールを苦い顔して飲み干した。まずすぎて吐きそうだったからだ。
なので梅酒にした。梅酒は外れない。角ハイボールがまずい店はもうどの酒もまずい、という持論があるからだ。
つまみを食べたり飲んだり、ピザーラの話を訊いてるような訊いてないようなそんな感じで僕は過ごす。
「で、ドミノは?」
「俺は、ちょこちょこ地元の友達とドライブしたりして、あとはあれ、ピザーラと行ったじゃん、温泉」
「あぁうん。行ったね。あれは楽しかったね」
「うん、楽しかった楽しかった。また行きたいね」
「ね、行こう行こう」
僕はこの会話を聞くと鳥肌が立つ。そしてなんかぞわぞわするのだ。
どうしてかといえば簡単な話、楽しかった体験に対して、楽しかったねと言うところだ。僕はこの会話を聞くと思う。どうして楽しかったことをまた言語化するのか。不明だ。気持ち悪い。
楽しかったなら楽しかったでいいじゃないか。あれ楽しかったねと聞くと逆に白々しい。楽しかったと思おうとしてるみたいに聞こえる。
だから僕は基本、過去にあった出来事にあまり言及しようとしない。終わったことは終わったこと。楽しかったなら楽しかったと思っておけばいい。わざわざ口に出す必要はない。
それから僕たちの話は、学校の単位についてに移行した。誰が何単位とって、誰が何を落として、誰がやばくて、みたいな。
そんな話をしてたら五限のセミナーが始まりそうで、学校へ。会計はめちゃリーズナブル。でも角ハイボールまずかったので僕はもう来たくない。
今日はセミナーのガイダンスだ。正直あまり興味はないが、落としたらやばいので受ける。十五分くらいで終わった。
「研究室ねぇ……」
明日までに、僕たちは研究室の希望を出さなければならない。正直どこでもいいが、楽なところがいいい。脚本の勉強もしたいし。
「研究室どうする?」
「まあ多分、山口研かな」とピザーラ。
「んー。馬場研かな」とドミノ。
二人はもう当たりをつけているようだった。
さて、ぼくはどうしようかな。
とにかく、セミナーのガイダンスはすぐ終わったので喫煙所に移動。
「ちょっとさ、ゆりーこに話聞いてみようと思うんだけどさ、どう?」
ゆりーことは、留年しないで四年になった優秀な男である。いや、それだけだと普通か。まあいい。
「いいともー」
「んー俺はいいや、多分山口研にするし」
というわけで、ゆりーこから話を訊くことに。
「なるほど、悩んでるわけだ」
「で、一番らくなとこは?」
「カウカウ研。あそこは自由」
僕はこの言葉を信じ、カウカウ研を第一志望にしました。どうやら週一でいいらしいし。
ドミノはまだ悩んでるのでもう少しゆりーこから話を訊くらしい。僕は帰る。
帰って疲れて寝ました。
以上、今日一日ぶんのしじみの気持ちでした。




