結末
言い訳4
この話で完結です。前篇と結末だけは加筆修正しましたが、まだ色々と分かりつらいところや荒いところがありますね。………でも気にせずアップしました。
仏の顔も3度までという言葉をご存知でしょうか?
死の試練と呼んでも差し支えのない、謁見という場を3度無事に凌ぎましたが、今度は4度目です。皆様、お世話になりました。
え? 意味が違う?
もう何でも良いです。
毒殺から始まった死の運命を回避して、頑張ってきましたが、私はここまでのようです。
「面を上げるが良い。………何か申し開きはあるか?」
「ございません。この度の件に、我が領民は関わってございません。何卒、領民には慈悲をお願いしたく………」
こうなってしまっては、覚悟を決めるしかない。一応、功績はあるはずだ。帝国が戦争を仕掛けてきても、グレイヴィン領の民が酷い目に合う事はないだろう。
「うむ。そなたの要望は叶えよう。そなたの命も奪わん。国へ戻り2度とこの国に………」
「お待ち下さい!!」
陛下の慈悲に感謝していると、突然、その陛下の声を遮る大声が謁見の間に響き渡った。
「お父様。いえ、陛下! 何の罪もない他国の者を。帝国の為に尽力してくれた者を権力を使って追い出すなど。皇帝陛下のすることでしょうか!」
「そうですね。陛下。私の夫である皇帝としての行いではございませんね」
姿を現したのは陛下の末娘で、婚約者候補、あくまで婚約者候補のフローレンス様だった。
そして、もう1人。フローレンス様よりもずっと大人びた魅力を醸し出している女神が見える。
祖母から聞いている事がある。陛下と皇妃様の上下関係を………。
この世界には神がいたのだ。女神という名の神が。
「ブラッドリー様。ご迷惑をお掛けいたしました。正式なご挨拶は後日になりますが、娘の事はよろしくお願い致します」
女神から救いと、今後の火種のお言葉を頂いた。…………………これって決定事項?
「ブラッドリー様。お父様がご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。2度とこのような事がないように致します。後ほど、お詫びに上がりたいと思います」
そう告げるフローレンス様と女神に連れられて皇帝陛下が退席される。
………………………………これって、もう退出して良い流れ?
念のため、謁見の間を警備している近衛に視線を投げかけるが、視線を逸らされた。だが、私も負けたままじゃないぞ?
「あのー。帰っても良いですか?」
視線を逸らした近衛にそう問いかけると、困った顔をした後に、少し待つように告げて外へ出て行った。
近衛が部屋を出た後、陛下の執務を担当している文官が慌てた様子でやってきた。
「この度の一件は、陛下の独断でございます。いつの間にか執務室から抜けた出したと思ったら、こんな事を仕出かしているとは思いませんでした」
今後、陛下で困った事があれば王妃様へ取り次いで頂けるという謝罪と口止め料の意味を含めた言葉を頂いて、無事に帰る事が出来た。あぁ、生きてるって素晴らしい。
命の心配で肝心の事を忘れていたが………このたび、私に皇女様の婚約者が出来ました。リア充万歳?
「お父様にお任せしていたら、私は行き遅れてしまいます」
念のために、祖母に報告をする為に帝都の屋敷へやってくると、祖母がフローレンス様を連れてきた。
どうやら、祖母もお城にいたらしい。ただ、祖母は話し合いに同席せず、あとは若い2人で話しなさいと、お見合いのような事を言ってすぐに去ってしまった。
「エリシアからお話を聞いておりましたし、一度お会いして信用に足る人物と理解致しました。宜しければ、このまま正式に私の申し出をお受け頂けませんか? ブラッドリー様」
フローレンス様は、陛下の謁見の件の謝罪と、その理由を一通り説明して頂くと、そのように自分の気持ちを語ってくれた。
残念ながら、惚れたから! なんて乙女な理由ではなかった。
別に悲しくなんか………ない………………ぞ………?
「妹の………エリシアの話がどのような事か存じ上げませんが、私と婚約するという事は国外に出る事になります。それでも宜しいのでしょうか?」
この辺の事情を知らないはずはないが、確認を取る。
政略結婚を考えるならば、これ以上に理想な相手は他にいない。
何より正式に婚約者となれば、陛下より命を狙われる心配がなくなる。………………違うな手を出せなくする事が出来る。
「もちろんです。公爵家などからも縁談を頂いておりましたが、いずれの相手も野心家で私の幸せはないものと考えておりました。国内に残るよりも愛して下さる方の側にいたいと思っております」
なんだろ? 私がフローレンス様を愛する事は確定のようだ。
「グレイヴィン家の方は、婚姻した相手を大事にしていると聞き及んでおります」
………どうやら、また表情に出てしまったようだ。確かに父も曽祖父もその認識で間違いはない。だが、祖父は失踪したからね?
「確かに父も、亡き母の事を愛し、裏切られた元妻も必死に愛そうとされておりました。それは間違いございません」
我が家の事情はどこまでが伝わっているのだろうか?
私が家族の為、そしてグレイヴィン領の民の為に動いて、婚約を考える余裕がない事を知っているのだろうか?
「ですが、私はまだ婚約について考えた事はございません。陛下からお話を頂いた時も、いずれは候補からも外れる事が前提でした。ですので、素直な気持ちとしては、戸惑っております」
少し遠まわしに、素直な気持ちを伝える。
私が婚約について考えたは、あの謁見の間で、陛下が皇妃様に連れて行かれてからの事だ。
それまでは、ずっと虫除けの候補役という認識でいたのだ………。混乱しても仕方がないよね?
「では、婚約者となった私を愛して下さらないのですか?」
あれ? 何かがオカシイぞ。確か受け入れて頂けないか?という疑問系で話が始まったと思うのだが………。
もう確定事項か………。祖母の様子からも外堀は既に埋められていると考えた方が良さそうだ。
「私は家族を愛しております。当然、婚約者となる方も愛したいと考えております。ですが、我が家の問題が解決していないうちは、婚約者を迎える訳には参りません」
外堀が埋められていようが、我が家は領地に戻れば王家と対立真っ只中だ。
そんな状態で気軽に婚約など決められる訳がない。
「そうですか………」
私の気持ちが通じたのか、少しフローレンス様が気落ちされてしまった。
「でしたら、正式にグレイヴィン家の問題が解決致しましたら、婚約して頂けるという事で宜しいでしょうか?」
あれ? 私がおかしいのか?
この流れなら諦めるところじゃない?
「フローレンス様。その前に、ひとつお聞きしても宜しいでしょうか?」
「はい。なんなりとお答えいたします」
ここは覚悟を決めて聞くしかない。答えが分かりきっていても………だ。
「私とフローレンス様の婚約は既に決定事項でしょうか?」
「はい。帝国としても私としても逃がすおつもりはございません」
淀みなく、真っ直ぐな瞳で即答をする帝国の末姫に、戦慄しか覚えない。
「皇家と政府の中でこの婚約に否定的なのはお父様しかおりません。お母様に至っては、絶対に逃がさないとようにとお言葉を頂いております」
………元ゲームの世界とは思えない。
選択肢の全くない状況で強制イベントのみがいつの間にか進行していた。
これはエンディングまで一直線なのだろう。
私は深く考える事を辞める事にした。国ひとつを相手に逃げれる自信はない。
むしろ可愛い嫁が手に入ったのだ。その事を喜ぼう。
「かしこまりました。このブラッドリー=グレイヴィン。申し出をお受け致します」
「お兄様、おめでとうございます!」
申し出の受け入れを口にすると、すぐに部屋の扉が開き、妹のエリシアが入ってきた。
「お義姉様もおめでとうございます。これでようやく、お義姉様とお呼び出来ます」
どうやら、妹は知っていたらしい。
「あら? フローレンス様が申していましたとおり、陛下以外は否定しておりませんでしたよ?」
なるほど、我が家にも味方はいなかった訳か。妹の後に続いて祖母も部屋に入室してくる。
「よく考えて見なさい。他国とはいえ次期侯爵の地位を持ち、皇家とは血縁関係があり、領地経営の手腕も優れており、学園でも僅か1ヶ月の間に1年分の学習を終えて、成績も学年で2位という好成績を収めている。このような人物を取り込まない訳がないでしょう?」
………どうやら、後期の学園の試験も2位だったらしい。
第5皇子は何位だったんだろう? そんな現実逃避をしているとまた声を掛けられる。
「改めて、よろしくお願い致します。ブラッドリー様」
少しの間、妹と一緒にくるくる回っていたフローレンス様が、態度を正して挨拶する。
「フローレンス様。この婚約を、あなたを愛する誓いと致します。これから宜しくお願い致します」
正式な婚約発表は、フローレンス様が入学した学園の入学式典パーティーで公表された。
既に学園でやらかしていただけに、特に騒ぎになることもなく、収まるところに収まった感じだ。
第5皇子は盾がない生活が続いているせいか。皇族専用の場所で震え上がる日々を過ごしている。
「ブラッドリー様。また静養地へ参りませんか?」
「フローレンス様。勉強が退屈なのは分かりますが、試験が終わって長期休暇に入らねば出かける事は叶いませんよ?」
フローレンス様も学園の寮で生活されるようになり、頻繁に会う機会が増えた。
私は学園内では清く正しい交際に努めている。
決して「手を出したら、分かっているな?」と陛下から釘を刺された訳ではない。
ほら! ちゃんとフローレンス様の勉強も見ているから、そこの陛下に雇われた人! お願いだから、陛下には正しい情報を伝えて!!
「ブラッドリー様。どちらをご覧になられているのですか?」
「いえ、この図書館では人目がございますので、王女殿下の婚約者として相応しい態度をとれているか心配で、他の者の様子を伺っておりました」
言い訳をする時は、長くなると聞いた事があるが本当のようだ。
もっとポーカーフェイスや腹芸なども身につけなくてはいけない。
「そうでしたか。出来れば私だけを見ていて下さいませんか?」
そう言って、フローレンス様が距離を縮めてくる。………その距離が私の命の終わりの距離とも知らずに。
「私は、もう少しあなたとの心の距離を縮めたいのです」
言葉と共にさらに身体を近づけてくる。………私の寿命が近づいている気分だ。
こんな感じで、学園内での死へのアプローチを交わしつつ、順風満帆の余生を過ごしている。残り僅かな………。
夜会については、フローレンス様と仲の悪い公爵令嬢が、婚約者の自慢合戦を繰り広げて、互いの自慢された婚約者が己を高める為に切磋琢磨した結果、親友になった事以外は特に語る事はない。
「いつになったら、『愛している』と仰ってくれるのですか? ブラッド様」
陛下から見ても、諦めざるを得ない程のフローレンス様からのアプローチを受けて、早1年半。
途中で、学園に妹のエリシアも入学してきて、妹のエリシアと付き添いの侍女リリー、そして立派に育ったスージィの協力によって、より過激となったアプローチも、全て回避してきた。
その言葉は、我が家の問題が片付いてから告げるつもりでいたが、段々と言えなくなってしまっていた。
むろん、我が家の問題はまだ片付いていないが、理由はそこではない。
私がフローレンス様に惚れてしまったのだ。いまさら恥ずかしくてなかなか口に出来ない。
「来月、我が王国で創立記念パーティーへ出席致します。そこで王家との関係を断ち切り、我が家は帝国へ迎えて頂きます。その時に、私の気持ちを全てお話致しましょう。どうか、それまでお待ち頂けますでしょうか?」
フローレンス様の正式な婚約者となってからも、いちゃついていただけではない。
着々と母の仇に王家が絡んでいる証拠を掴み、正式に糾弾する準備を進めていた。
この糾弾で、祖国である王国は分裂するだろう。その後に内紛になるかもしれないが、王家や公爵家、他に協力していた貴族たちを追い詰める為には仕方がない。
我が家が離れれば、王家は他の者たちから搾取を考えるしかなくなる。間違っても帝国へ戦争をふっかける事は出来ない。戦力差がありすぎるからだ。
そうなると必然と我が家に起こった事態を他家が知れば、自分たちの家が乗っ取られる可能性があると考える貴族たちは王家から離反する。
確実にそうなるだけの証拠を集めたのだ。
そして、帝国はこの王国への侵略の機会を狙っている。我が家が離間して王国を混乱に陥れる策は、帝国内で既に受け入れられている。
既に私の毒殺未遂を『皇族に連なる血を持つ者の不当な扱いに抗議』として、帝国側より王国側で『これ以上、帝国を侮辱するならば開戦も辞さない』と警告を送っている。
「お約束ですよ? ブラッド様。それ以上待たせるのでしたら、お父様に告げ口してしまいますよ? それでも待たせるような私がお迎えに上がりますわ」
陛下は、末娘の婚約者として私を諦めた上で認めてくれているが、未だに甘やかしているところは変わらない。
下手な事を言われれば、これ幸いと私の排除に乗り出しかねない。
「確かにお約束致します。誓いの口づけは必要ですか?」
わざと頬に手を添えて、顔を近づける。
「ち、誓いの口づけなら、普通は手にするものです!」
いつも押してくるフローレンス様だが、私が強気に出ると顔を赤らめて一歩引いてしまう。
1年半の間に、押して押されての関係になったフローレンス様を今では本当に愛おしく思う。
殺されかけた主人公が真に望んだハッピーエンドまで、あと………少しだ。
「それでは行って参ります。くれぐれもお身体を大切にしてお待ち下さい」
愛おしい相手となったフローレンス様の手にそっと誓いの口づけをし、全ての決着をつける為に祖国へと戻る事になった。
「エリシア=グレイヴィン侯爵令嬢! そなたは私の愛するミリアムに対して、学園内での横暴な振る舞いは全て分かっている!!」
まもなく、元祖国となる王国の創立記念パーティーで計画を実行するべく、機会を伺っていると、私の知識にある『乙女ゲー』パートの攻略対象である王国の王太子が、そう宣言した。
「おまえのような者が私の婚約者であるというのは、もう我慢ならない! この国の王太子として宣言する!! エリシア=グレイヴィンとの婚約を破棄し、ここにいるミリアムを正式に婚約者として迎える!」
この王太子は何を言っているのだろうか?
婚約破棄ですか? それは呪文ですか? 自爆魔法的な。
そもそも、エリシア=グレイヴィンは私の妹の名前だ。数年前より私と共に帝国にいて、3日前に王都に到着した。
当然、王太子と婚約などしておらず、学園すら王国ではなく帝国の学園に通っている。ついでに言うなら、しっかりと皇帝陛下より親族の一員であると認めれている。
「この場にいるのにも相応しくない! 即刻、退席し、国からも出てゆけ!!」
元から出て行く予定だったので、これは構わない………。
妹のエリシアも、この王太子が何を言っているのか分からない様子で、特に傷ついている様子も見受けられない。
だが、母を殺し、私の毒殺を目論み、父や妹までも侮辱したこの王太子を抱える王家を許してはおけない。
予定とは大分違ってしまったが、そんなに終わりたいのなら、緩やかな破滅ではなく、絶望の破滅をくれてやる。
「衛兵! この場にそぐわぬ者がいるぞ!! 即刻摘まみだせ!!」
王太子の言葉に、衛兵たちは………………動かない。完全に戸惑っているようだ。
それもそのはずだ。この場には王太子より位の高い国王がいるのだから。
まあ、その国王は現状を理解できていないのか。放心状態になっている。
「そんな事をしなくても出て行ってやる!」
混乱して誰も口を開かない会場で、一際高い声を上げて宣言する。
「父上、エリシアを連れて、お先にお帰り下さい。残りは全て私が行ないます」
父にそう告げて、妹のエリシアの身の安全を確保する。
王太子が追放を宣言した相手が勝手にいなくなるおかげか、誰も止めるものはいない。
「王太子殿下、我が家への侮辱確かに受け取りました」
父と妹が退席したのを確認すると、あらためて王太子へ向き合って告げる。
普通であれば、貴族として本来隠すべき感情を一切隠さずに告げたせいか、王太子が怯んでいた。
「お初にお目に掛かります。私はブラッドリー=グレイヴィン。グレイヴィン侯爵家の嫡男でございます。王太子殿下」
先ほどのやりとりで、私が誰かは周りの人々は分かっているだろうが、改めて名乗る。
だが、王太子は私に怯えの表情を見せるだけで、挨拶を返してこない。
「おかしいですね? 私はご挨拶をしたのに、我が家ごときには返事すらも不要という事でしょうか? 殿下」
この王国に、わざわざ気兼ねする事はもうない。
「貴様! 無礼だぞ!!」
「先に無礼を働いたのはどっちだ!!」
必死に反論を試みた王太子を、バッサリと切り捨てる。王太子の隣でまとわり付いていた女………確かミリアムだったかな?
なるほど、『乙女ゲー』パートの主人公であるスージィに良く似ている。
つまり、妹を陥れる為に用意される女は誰でも良かった訳だ。………この王太子は。
そんな役割の女も、私の発言で王太子から少し離れて後ろに下がっていた。
「まずは妹のエリシアにかかっている不快な嫌疑から晴らすとしようか」
言葉に出せば出すだけ、感情が強くなっていくのが分かる。
「エリシア=グレイヴィンは私と共に帝国の学園に通っている。そして、残念な事に帝国の学園で殿下とそちらのミリアム嬢を拝見した事はございません」
私の発した帝国の言葉に事情を何も知らない貴族たちが、ざわつく。
「それなのに、どうやってそちらのミリアム嬢に横暴な振る舞いをするというのですか?」
名前を呼ぶたびに殺意が篭ってしまったのか、呼ばれるたびに、一歩ずつ女が後退していく。
「そ、そんなもの、我が王国の学園で起こしたに決まっているではないか!!」
あぁ、この王太子はさすがに他人から搾取する王家で育っただけはある。勝手に自分の都合の良い方へ脳内変換する癖があるようだ。
「確か、王国の学園はこの式典パーティーの為に1週間前より、休学になっておられたと思いますが?」
「そんな当たり前の事がどうした? そんな事は言い訳にはならんぞ? 王国の学園では入学当初からミリアムに酷い嫌がらせをしていた!」
今度は王太子から名前を告げられた女は、王太子の後ろで首を横に振っている。
この場で理解出来ていないのは、こいつだけのようだ。
「でしたら、なおの事おかしいですね? 私たちは帝国から3日前に王都へ着いたばかりです。一体いつ、王国の学園で嫌がらせなどする機会があるのでしょうか?」
先ほどの反論で優位に立っていたと勘違いしていた王太子の顔色がまた悪くなる。
「そ、そんな事、お前たちが家族揃って嘘を付いているからだ!!」
「ほぉ………」
自分でも気持ちが落ち着いてくるのが分かる。怒りが限度に達してしまったのだろう。逆に落ち着くというような話を聞いた事はあったが、実際に自身が体験するとは思わなかった。
「それは、我々、帝国の皇帝の血縁者であり、我々帝国を含めて嘘を付いているという事でしょうか?」
「何を言っておる? お前は我が王国のグレイヴィンの者だろ?」
冷静になったおかげで、王太子だけではなく周りも見る余裕が出来た。王太子以外は、知っている事のようだが説明はしてやろう。
「現グレイヴィン侯爵の祖母は、帝国の王女だとご存知ないのですかな? 周りの者は皆、知っているようですよ?」
私の発言に慌てて周りを見る王太子に、周りの者たちは必死に視線を逸らす。
「もう1つ物知らない王太子殿下にお教え致しましょう。妹のエリシア=グレイヴィンが殿下の婚約者候補だったのは3年以上前に破談されているのですよ」
私の発言に再び、周りがざわめき出す。
話に聞いてはいたが、我が家が王太子妃候補を断ってから王家が認めず、無理やり妹を婚約者として公表してたのは、これで間違いなくなったようだ。
父も完全に領地に引き篭もって殆どの貴族との関係を絶っていたからな。王家の言い放題だったのだろう。
「ですから、わざわざ宣言頂かなくても、元からそんなものはありません。どうぞミリアム様とお幸せになって下さい」
私の説明とお祝いの言葉に、王太子が何か喚いているようだが、もうこちらはこの王太子と話す事はない。
「それでは国王陛下、我が家への誤解も解けたようですので、私も退席させて頂きます。王家による私の暗殺未遂に続いて………我が家の、ひいては帝国への侮辱、受け取りました。確かにご報告致させて頂きます」
母の暗殺の追及は出来なかったが、そのカードを切らなくても帝国側の介入口実は出来た。
この状態なら、王国への進行も緩やかに抑えられる。そうすれば、罪のない民への被害も減らせるだろう。
亡き母には悪いが、仇討ちはもうしばらく待って貰う事にする。
騒ぐ王太子より、私の暗殺未遂の話で一際騒がしくなった会場を後にする。
「ま、待て。ブラッドリー=グレイヴィン」
退出しようと一歩踏み出したところで、別の声が掛かる。声の振り向くと、先ほどまで置物だった国王陛下が慌てて立ち上がって声を張り上げていた。
「国王陛下。私は、王国側から帝国の者として招待状を受け取って、この場に参列しております」
国の創立記念パーティーを、数年不参加を貫き通してきた我が家が、今年に限って参加した理由が、帝国側の人間として招待を受けたからである。
まあ、そうなるように手回しをしたのだが………。
「待ってくだされ。ブラッドリー=グレイヴィン殿」
立ち去る正当な理由を告げて、さっさと帰りたかったが礼に則って呼び止められては、立ち止まらない訳にはいかない。
こちらに非がない状態で立ち去らねば意味がないのだ。
「我が家は王太子殿下によって不名誉な言いがかりを付けられました。これ以上、帝国の者としてもこの場に居るわけには参りません」
「待ってくだされ。王家の者として侘びをする。この事態を引き起こした責任として本人は廃嫡とする!」
私と国王のやりとりで、会場はさらに混乱する。いきなり王太子が廃嫡だ。戸惑うのも無理はない。
「父上!」
「黙れ! おまえなど既に息子でもない!!」
廃嫡宣言によって醜い親子の言い争いが始まったが、あまり見ていても気持ちの良い物ではなかった。
「衛兵! この者を外に放り出せ!! そこの娘も共にだ!!」
利用されたと思われるミリアムは、実際に学園で何をしたかは分からないが、一言もしゃべらずに退場させられたのはさすがに少し哀れだった。
「これで何とか怒りを収めてはくれないか?」
なんとも都合の良い言い訳だろうか。私たちにとって、滅ぶ国の王太子がどうなろうと知ったことではない。
「追放だけですか? 確か私を毒殺しようとした私の元義母も………公爵領内で療養中だそうですね? 王家の罰はそんなにも軽いものなのでしょうか?」
「な、なんの事だ? 毒殺など話を聞いておらんぞ? グレイヴィン家の元夫人というと我が弟の公爵家の者か! すぐに取り調べるように手配をしろ!! 廃嫡した愚か者も追放ではなく牢へ入れよ!!」
会場の雰囲気が凍りつく中、国王の声だけが鳴り響く。
「これでどうじゃ?」
指示を出し終えた国王が、呆れるとしか言いようがないように提案をする。
「では、1つだけ陛下に確認をしたい事がございます。その真実を明らかにして頂ければ、この場の事は収めましょう」
「うむ。分かった。国王として、真実を明らかにし、処罰する事を約束する」
呆れを通り越して、また怒りがこみ上げてきている私は、この国王を許す事は出来なくなっていた。こいつらは悪い事をしたと微塵も思っていないと確信できる。
「私の実母が死した真相を………」
私の言葉に国王の顔色が変わるのが分かる。
「な、なんだと? グレイヴィン家の最初の夫人は病死ではなかったのか?」
明らかに動揺した様子に、凍り付いていた周りの者たちも、その様子に鋭い視線を向けている。
「王弟である公爵閣下が、何者かの指示を受けて私の実母を毒殺した証拠は掴んでございます。使われた毒は1度目の私の毒殺未遂に使われたものでした。この者たちを先ほどのお約束どおり処罰をお願い致します」
「わ、我が弟が関わっているというのか?」
国王のくせに、この程度で動揺するなど、元から器ではなかったようだ。
「目的はグレイヴィン家の財産ですね? 陛下」
私の追及にかっと目が開くのが分かる。
「一介の公爵令嬢ただ1人が、侯爵夫人を毒殺するなど無理があります。その上、その後釜に座るのに家の力が無くてどうして成し遂げましょうか?」
会場で私と国王の様子を伺っていた王弟の周りから人が離れていくのが分かる。
「そして、我が家から王太子妃の婚約者候補をお断りしているにも関わらず、なぜか帝国にいるはずの妹が婚約者となっておりました。王太子の婚約者を決める事が出来るのは誰でしょうか?」
ここまで告げれば、事実を知らない貴族たちにも伝わるだろう。
「え、衛兵! ここに余の名誉を汚そうと企む反逆者がおるぞ!! この者を捕らえよ!!」
先ほど、元王太子を捕らえる時に素早く動いていた衛兵も動きが鈍い。この衛兵も先ほどの言葉を聞いていたのだから当然だ。
「私は帝国側の招待客としてここに招かれている! 私に手を出せば、それだけで開戦の口実になるぞ!!」
私が警告を発すると、動きの鈍かった衛兵も完全に動きを止める。
「国王よ! 自身が宣言した約束を破り、私を捕らえるというのならそれでも良いだろう!!」
完全に血がのぼった頭で、思うがままに王国の破滅を望む。
「衛兵よ! 私は自分で歩ける! 牢まで案内せよ!!」
こうして、王太子が発した婚約破棄事件の舞台となった王国の創立記念式典パーティーは、王国にとって最悪な事態で幕を閉じた。
自ら牢に入った私に待っていたのは、牢屋と呼ぶのに似つかわしくない柔らかく暖かな毛布と食事。そして豪勢な執務用の机だった。
「ブラッドリー様。このような場所でご不便をお掛けして申し訳ございません。今しばらくご辛抱を下さい」
私が退場した後の式典は宣言もないまま閉幕となり、状況を正しく理解した貴族や王宮の者たちによって、すぐさま私の牢屋生活環境が整えられた。
表向きは、牢屋ではなく離宮の罪を犯した王族専用の軟禁場所にいる事になっている。その場所は王が生活する場所から一番遠くにあり、王が直接確認を出来なくする為であった。
「私自身が望んでここにいるのだ。気にする必要はない」
元より王城から脱出する経路は確保してあるが、私は敢えて牢屋にいる事にこだわった。
まずは、牢屋生活を快適にしてくれる便宜を図ってくれた者たちへの紹介状を書く為だ。別に牢屋でなくても、どこかの王宮の一室でも良かったが、人と出会うリスクを極力減らす為に牢を選んだ。高貴な人は、基本こんな薄暗いところに好んで来る事はない。
「明日には、帝国の使者が参ります。おそらく、国王陛下はブラッドリー様を解放しないと思われますが、変装して頂き、外交官と共に帝国へお帰り下さい」
「すまない。迷惑を掛ける。帝国に戻ったら、紹介状を持った者を受け入れるように手配を整えておく。時期を見て帝国へ来るように皆に伝えてくれ」
「お気遣い頂き、ありがたき幸せに存じます」
紹介状は100通は書いただろうか………それ以上は数える事をやめたので正確な数は分からない。
まあ、グレイヴィン領でもフローレンス様の領地でも人手が足りてなかったのだ。侍女に文官に衛兵と教育しないでも良い人材が手に入るのなら、願ったり叶ったりだ。
「ブ、ブラッドリー様。ご無事で何よりでございました」
私が帝国に戻らないことを不審に思った帝国より使者が予定通りにやって来た為、協力者たちの手によって変装させられて、帰途に着く使者一行に無事合流する事が出来た。
「もし、連れて帰れなかった場合を考えますと恐ろしく感じております。既に国境沿いに既に1万の兵がフローレンス様の手によって集結しております」
ん?
「そのフローレンス様の行動を心配された陛下が、すぐに派遣できる5万の兵を追加で送っておられましたので、帝国領に着くころには6万の兵がお出迎えになる予定でございます」
ん、ん?
「まったくもって、王国側のブラッドリー様に対する仕打ちは許せるものではありません」
考えがまとまらないうちに、どんどんとヒートアップしている帝国の外交官を宥めながら、今後の先行きに不安を抱えたまま帝都への終わって欲しくない旅をした。
「ご無事でなかったら、このまま王国へ攻め込むところでしたわ。ブラッド様」
国境線を越えてしばらく進むと、道を完全に塞いだ一団が現れ、その先頭の人物がそう告げる。
「お約束したでしょう? 遅れたら、お父様に告げ口してお迎えに行きますと」
お迎えっていうレベルの人数じゃないがな………。
「我が帝国は、正式に王国が帝国の要人を監禁したとして宣戦布告する事が決まりました」
あっ………やっぱり決まっちゃったのか………。
「私の愛する婚約者への仕打ちもお聞きしました」
全部、帝国側に伝わっちゃったのか………。これはもうダメだね。
「ブラッドリー様。私はお約束どおりお迎えに参りました。何か仰る事があるのではなくって?」
もう結末が決まってしまった王国の未来よりも、目の前の問題を解決しよう。
とっくに気持ちは決まっているのだ。
「フローレンス! 私は貴女を『愛しています』!! どうか私と結婚して下さい!!」
ゲームの世界の攻略者たちなんて目じゃないほど、したたかで愛情溢れる私の婚約者に精一杯の私の気持ちを伝える。
ん? 婚約破棄なんて唱えないよ?
その後、駆け寄ってきたフローレンスを抱きしめると迎えにしては多すぎる兵たちから盛大な祝福を貰い、その場で永遠の愛を彼女に誓った………。
その後、王国を支える貴族たちが相次いで離反した事により僅か1ヶ月で滅亡した。
その国の王族たちがどうなったかまでは分かっていない………。本当にどうなってしまったのやら。
そして、この王国が残してくれた教訓はこれだ。
『婚約破棄は自爆の呪文。唱えると国が滅ぶんで、バッドエンドを迎える』
THANK YOU FOR PLAYING !!
・
・
・
・
NEW GAME
主人公の性別を選択してください。
男 [>女
-後書き-
手直ししてみて、色々と分かった事があった為、
この作品を公開した事には意味があったと、勝手に自身で納得しました。
苦情については受け付けます。⊂( ・∀・) 彡 =͟͟͞͞ ⌧ 返事も出来るだけ返すぜ
落ち着いたら、本格的に修正して作業の勉強で手直ししたいが………教訓の為にこのまま残したい気もする。困ったものだ。