終章 いつかの春に、また③
入学式まで時間があったので、僕は学校の中をうろうろと歩き回っていた。
美紀は、もう一年四組の教室へと向かった。そこで、亮祐にとっては、初めての美紀との出会いになるだろう。亮祐は、どんな顔をするのかな。可愛いと思っていた子と同じクラスになれるんだ。きっと驚いて、子どものように声をあげて喜ぶんだろうな。美紀も、きっと、喜ぶ。もしかしたら、美紀から亮祐に声をかけるかもしれない。
亮祐は、きっと、これからの三年間で辛いことを経験することになる。絶対に報われない、でも、それでもいいと思うような素晴らしい恋もする。亮祐は、美紀という素敵な女の子のことを好きになるのだから。
そして、僕と美紀がいなくなる。その後の日々を亮祐がどう過ごすのか、僕には想像することしかできない。けど、美紀が言っていたように、亮祐には、幸せになってほしい。別に美紀を思い続けても構わない、と僕は思っている。だって、それはまだタイムループ前、美紀自身が僕に言ってくれたことでもあるのだから。
でも、美紀は、自分ではない他の誰かと幸せになってほしい、と亮祐に言った。誰かを想い続ける辛さを知っているから、そう言ったのかもしれない。美紀はどこまでも、他人思いの自分勝手さん、だった。
僕は、北棟と南棟を繋ぐ空中廊下へと足を踏み入れた。手すりに肘をかけて、穏やかな春の陽気に体を埋めた。見渡せるグラウンドには、この春も、いっぱいの桜が咲き誇っている。
いつかの春に、また、来たよ、永井――。
制服の裾を、引っ張られた。
「入学式、もう始まっちゃうよ?」
僕はゆっくりと振り返りながら、口の端を緩めた。
「その台詞、もう何回言ったの?」
「分からない。でも、これを言うって、決めてるの。だって、これが私と遠野くんの、初めての会話だったんだから」
「そっか」
「うん。さあ、行こう。始まるよ」
グラウンドに咲く桜の木と、永井の姿が重なった。桜の木から花びらがはらはらと舞う。まるで、永井は桜の木のようだった。
<完>




