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第一章 いつかの春⑥

「今野、何組だったー? 俺、三年四組なんだけど!」

 亮祐が、隣にいる美紀の横顔を見た。美紀は「あ、私も四組だ」と亮祐に答える。

「やったー! 今年も今野と同じクラスだ!」

昇降口の前に立てられた掲示板には、新しいクラス分けの表が貼られていた。

「遥花は、何組? 僕は三年一組だけど」

 僕はもう、自然と「遥花」と呼べるようになっていた。

「私も一組だ。三年生になっても、よろしくね」

 よかった。永井と同じクラスだということに、僕の頬は自然と緩む。何の因果か分からないけど、これで永井とは一年生のときから三年間連続で同じクラスということになる。亮祐のように子どもっぽくはしゃぐことはさすがに恥ずかしくてできなかったが、両手を上げて「ばんざい」をしたくなるほど嬉しかった。

「何か、誠太くんとはいつも同じクラスになるね。神様が、私たちをいっしょにいさせてくれているのかな」

 永井も嬉しそうに微笑む。まさか、永井から僕の思っていることを言うとは思ってなかった。けど、永井の嬉しそうな笑顔に僕の気持ちも踊る。

「本当にね。僕も嬉しいよ」

「はい、そこ。学校の中でまでいちゃつかない!」

 亮祐にビシッと指をさされて注意されてしまった。けど、それも何だかおかしくて、またつい頬が緩みそうになって、永井と顔を見合わせて笑った。亮祐は「全く、どうしようもなく仲が良いこって」と両手の平を上に向けてお手上げのポーズをとった。

「じゃあ、俺と今野は、先に四組に行ってるから。放課後、部室に集まろうぜ」

 亮祐は、手を振って廊下を東階段がある方へ向かって歩き出した。美紀も「私たちがいなくなったからって、ラブラブしないこと。ここは学校なんだから」と亮祐と同じように指でビシッと釘を指してきて、亮祐のあとを追った。

 今日から、僕たちは三年生となる。わくわくするような気もするし、大変なことも多そうな気もする。でも、とにかく、新しい毎日の始まりだった。

「永井くん、遠野さん、おはようございます」

後ろから声をかけられた。

「あ、常盤くん。おはよう」

「どうも、お久しぶりです。私も、一組なんですよ」

「そうなんだ。じゃあ、常盤くんも、一年間よろしくね」

「ええ、短い間ですけど、よろしくお願いします」

「じゃあ、僕たちも行こうか」

 歩き出そうとしたとき、後ろから大きな人影が現れた。百九十センチはあるだろう高身長の影が僕と永井を包む。振り返ると、おそらく運動はしていないのだろう、背は高かったが、腕も体の芯も、細いひょろひょろとした男子生徒が、永井を見つめていた。

「永井さん、おはよう」

 その男子生徒は、にこやかに永井と会話を始めた。

「あ、時田くん、おはよう。時田くんは、何組になったの?」

「僕は、これから見るところなんだ。永井さんは?」

「私は、三年一組だよ。ここにいる、遠野くんと常盤くんと同じクラスなの」

「へえ、そうなんだ。そう言えば永井さん、遠野くんとよくいっしょにいるよね。文芸部でいっしょだった人だよね?」

「うん、そうなの。でも、それだけよ」

「分かってるよ。永井さん、今から教室に行こうとしてたところだよね? 待たせるのも悪いから、じゃあ、またね」

「うん、また」

 そう言って、永井は時田という男子生徒に手を振って、廊下を歩き始めた。僕は永井のあとを追って、尋ねた。

「ねえ、今の時田って、誰なの?」

「中学からいっしょの男の子なの。同じクラスだったこともあるから、まあ、会ったら話すくらいには仲はいいかな」

「ふーん、そうなんだ」

「あ、もしかして、私が時田くんと何かあるんじゃないかって、不安になったんでしょ」永井は「へへー」といたずらっぽい笑顔を浮かべて僕の顔を覗き込む。

「ち、違うよ。別に、あんな男、どうってことないし……。永井といっしょにいるのは、僕だし」

「うん」

 永井は大きく頷いて「あのね。これは誰にも内緒にしてほしんだけど、時田くん、私のこと、好きなの」

「え? あ、そうなの?」

「うん。だからって、別にどうこうするわけじゃないけどね」

「そっか」

 後ろを振り返る。昇降口の人ごみの中で、時田は他の生徒よりも、頭二つ分も三つ分も抜けていて、どこにいるのかは一瞥するだけで分かる。真面目そうな顔立ちに、少し臆病っぽく眉を垂らす時田は、何だか少しだけ僕に似ているような気も、しないではなかった。


 新しい毎日の始まりは、いきなり変化をもたらした。時田のことを知ったということもそうだったが、後輩のいなかった文芸部に一年生が三人も入ってきたのだ。一つ下の学年が一人もいなかった文芸部も、これで向こう三年間は安泰になって俺たちも安心して卒業できると、亮祐は新入生の背中をバシバシと叩きながら笑っていた。


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