表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
55/69

第五章 真相吐露⑪

下駄箱で靴を履き替えて、昇降口から外に出た。さっき降った雪は、溶けて水溜りになっていた。オレンジ色の光を反射して、あたり一面がきらきらと輝いて見える。

 僕たちは並んで歩き出す。正門を抜けて、住宅街を通って、巡り川沿いの遊歩道に差し掛かったところで、巡り川が水を弾く音が聞こえた。慌てて空を見上げると、太陽の光は差し込んでいるのに、ぱらぱらとみぞれみたいな雨が降ってきた。

「あれ、雨だ」

 永井が手のひらをかざしながら言った。突然の雨に困った様子はなく、むしろ、どこか喜んでいるようにも見えた。

「本当だね。僕、傘持ってきてないよ」

「それじゃあ、私の傘にいっしょに入ろっ。折りたたみだけど、傘持ってきてるから」

「さすが永井。準備がいいね。でも、永井が一人で使いなよ。折りたたみ傘じゃあ、小さくて二人も入れないでしょ」

「でも、誠太くんが濡れちゃう」

「僕はいいんだよ。永井が濡れて風邪引いちゃう方が心配だし……って、前にもこんな会話あったよね」

「そうだったね。誠太くんが、この世界にタイムループしてきてすぐ、くらいだったかな? だから、今度は私に言わせて。私は、誠太くんが濡れて風邪引いちゃうほうが心配だから、いっしょに傘に入ろっ」

「でも、この傘小さいから、二人は入りきらないよ」

「もう、そういうこと言わないの。せっかくいい雰囲気だったのに!」

 永井が、ぷくっと頬を膨らませる。

「ごめん、ごめん」

「じゃあ、言い直すよ。誠太くんが濡れて風邪引いちゃうくらいなら、私は二人で風邪を引きたいな。だから、二人で傘に入って、いっしょに濡れよう?」

 綿毛が飛ぶようなふんわりとした永井の微笑みに、僕は改めて思った。永井は、やっぱり可愛いなあ、と。

「もう、それでいいよ。二人で濡れようか」

「うん! はい、どうぞ」

 永井が傘を開く。やっぱり傘は小さくて、僕の右肩も、永井の左肩も、雨に濡れてしまう。でも、これが、いい。

 日の光に、雨の水が反射する。晴れと雨が同時にある光景は、何とも言えず美しかった。でも、だとしたら、苦しみと喜びが同時にある人生も、また美しいのかもしれないな、なんて恥ずかしいことを考えたら、永井と隣り合って、くっつき合って歩いていることにも、嬉しさと恥ずかしさでいっぱいになってしまって、それを隠すかのように、僕は口を開いた。

「こういうの、狐の嫁入りって言うんだよね。晴れてるのに、雨が降ってて」

「うん。天気雨、とも言うよね。何か、不思議な光景だよね。誠太くんは、狐の嫁入りって、本当はどういう意味か、知ってる?」

「え? 本当の意味なんてあるの?」

「うん。もともとは、天気とは全く関係のない言葉なんだよ。怪奇現象みたいなものかなあ。狐火って言ってね、狐が灯したと言われる淡紅色の怪火があるんだけど。闇夜の山の中や川原とかで、狐火が無数に連なっているのを、狐が嫁入りするときの提灯と見立てていたものが、狐の嫁入りって言うんだよ。だから、狐の嫁入りって、狐が婚礼のために提灯を灯している、っていうことなの」

 永井は、照れたように小さくうつむいて、僕を下から見上げるように「えへへ」と笑った。

 永井が何を言いたいのかが分かって、僕も永井と同じように赤く染めた頬を、照れたように指先でかいた。

 天気雨は――狐の嫁入りは、降り続ける。心の通い合った僕たちを祝福するかのように、雨が、光る。僕は、この世界を受け入れる。受け入れよう。

 傘の羽に雨滴が当たって、傘の中は優しく響く。僕は永井の横顔を見て、今はまだ言えない一言を心の中で呟く。

雨の日も、好きだよ。君の傘は、あたたかいから。この気持ちは、永遠に続く。誓おう。神様にでもなく、世界にでもなく、永井と僕に。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ