第一章 いつかの春③
入学式が終わって教室に戻る。
僕の席は、真ん中の列の廊下側、後ろから二番目の席だった。同じように教室に戻ってきた永井は、僕のすぐ後ろの席に腰掛けた。
「あれ、さっきの……」
僕は椅子に肘をかけて、半身だけ振り向いた。
「永井遥花です。これから、よろしくね」
「こちらこそ、よろしく。仲良くしてくれると、嬉しいな」
「うん。私も、遠野くんと仲良くなれたら、嬉しい
永井は、そう言うと、またにこりと笑った。穏やかで優しい笑い方をする女の子だなあと、僕は永井の笑顔を見ながら思っていた。
しばらくして先生が教室に入ってきて、ホームルームが始まった。最初に、一人一人自己紹介をすることになった。
僕は他の生徒の自己紹介の声を聞きながら、机に肘をついて、遠く窓の外に目をやった。この席からでは、グラウンドに咲く桜は見えない。
前の生徒の自己紹介が終わる。次は、僕の番だ。椅子から立ち上がる。さっきまで呑気に外を眺めていたが、本当は、心臓が破裂しそうなほど緊張していた。
「え、ええっと、遠野誠太です。この高校までは電車で来ています。中学までは野球をやっていました。一年間、よろしくお願いします」
言い終えると、軽く頭を下げて、すぐに椅子に座った。ふうっと、息をはいて、無事に終わったことにほっとして、胸を撫で下ろした。
次は、永井の番だった。僕は後ろを振り返り、永井を見つめた。
「え、ええっと」
上擦ったような裏返った声が、教室に響いた。永井も緊張しているようだった。永井は「ご、ごめんなさい」と慌てて頭を下げると、恥ずかしそうに両手を顔で隠した。
「その、私は、永井遥花って言います……。文芸部に入ろうと思っているので、いっしょに文芸部に入ってくれる人がいたら、嬉しいです……」
最後の方はどんどん声が小さくなってしまった。少しだけ泣き顔に近い顔になってうつむいてしまう。よほど恥ずかしいのか、「えっと、その……」と体の前で、指をもじもじとさせている。
そして、永井は、意を決したように思い切り顔を上げて、「わ、私のモットーは、今を一生懸命に生きることです!」と目をつむりながら叫ぶように言った。




