宿命
「珈琲のいい香りだけが するんだけど〜」
その声でハッと我に返ると
どうしよう どうしよう 薬が入った・・・
いや そうぢゃない これでいいのよ これで
自分にそう何度も言い聞かせると
私は 薬入りの珈琲をトレーに乗せて
首を長くして待つ 青年の元へと運んだのです
青年に近付く程 バクバク心臓が波打ち
珈琲を乗せたトレーを持つ手にも 力が入った
そして青年の目の前に 珈琲カップを置いた
これで全てが終わるのよ これでいいのよ
私は自分にそう 何度も言い聞かせた
青年はカップを手に取り 鼻に近付けると
「いい香りだ〜 頂きます〜」そう言って
青年の口元にカップが 近付いた
私の心臓は 張り裂けそうな程に高鳴った
そしてカップに口が付いて 珈琲が注がれ
ようとした時 私は無意識に 口を開いていた
「あの!」
その声に 飲もうとした青年の手は止まった
「何?」
「いや 何も聞かないんだなって 思って」
私のその言葉の意味を 直ぐに悟ったのか
カップを置き 私を一瞥すると
「君が道端に血だらけで倒れてた事?」
私は何も言わず ただ頷いた
すると青年は 少し困った様な顔をして
「それは 俺から君に聞く事じゃ無くて
君から 聞く事だと思ったからかな?」
「ぢゃあ私が 言わないままだったら?」
すると肩を竦める格好をして
「それでいいんじゃない?」
「え⁈ 本当にそれでいいと思ってるの?」
「だって君から言わないって事は 言い換える
と 俺に言えないって事だよね?」
青年の的を得た返事に 私は言葉に詰まった
そ そ そりゃあ その通りだけど・・・
何も言えず俯いてる私に気を使ったのか
「王子様の戴冠式楽しみだよね〜」
「そ そうね」
私は相槌を打つのが精一杯だった
「豪華な王冠なんだろうね〜」
「そうね〜」
青年は目を輝かせて言ったが 私にはどうでも
いい事で あまり耳には入らなかった
私が適当に返事をしていると 青年は
少しムッとした顔をして
「ちゃんと聞いてる?」
「あ 聞いてるよ」
「戴冠式が終われば 王様なんだよ!」
「そ そうね 王様よね」
そしてこの時 ある事に気付いた
この人が本物だとして ここで殺めたとしても
そのまま王の座には あの偽者がなるんじゃ?
飾りの王様で 実権を握るのは 側近や大臣達
そうか だから本物には消えて欲しいのかも
そう考えると 王子がとても不憫に思えた
だけど私にはどうする事も出来ない
指令に従わなければ・・・ そうしなければ
村はきっと焼き払われる
これが私の役目で宿命なんて・・・
そしてふと青年の顔を見ると さっき迄
輝いてた青年の瞳が 今はとても寂しそうに
まるで自分の宿命だと 覚悟してる様に思えた
その瞬間私の目から涙が零れ落ちたのでした




