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第1話「残り火」⑤

 

かがり火を焚いている薪が音を立てて崩れた。

 サンツはそこに新しい薪を足そうとして当たりを見渡し薪がないことに気付いた。


「あー、ちょっと薪とってきまーす」


 そう言って森の周囲を離れ、中央に積まれている薪のもとへと歩み寄る。

 サンツが2,3本の薪を手に取り乾き具合を確かめ持ち場へ戻ろうとしたときだった。


「ぐぎゃあああ」


 悲鳴とどさっと人が崩れ落ちる音が背後から聞こえてきた。

 慌てて振り返ると、さきほどサンツの横で見張りをしていたものが地面に倒れ血を流していた。

 敵襲だ。

 ハッ気がついたものの、足がすくんでしまう。

 隊の一人が慌てて警鐘に近づいて他の場所へと連絡をしようとするが、更に森の中からでてきた別の野盗の魔術によって射られてしまう。

 森の中から機敏な動きで姿を現した夜盗は20名いるかいないか。

 しかしここの見張り番として残されているのは10人もいないのだ。


「敵襲だ! 他の場所へ連絡しろ! 背後を突かれた!」


 残っている隊員のなかでも年配の男がそう叫んで抜剣する。

 それにつられるようにして他の者も抜剣する。数人は同時に魔術の展開準備もする。

 サンツも震える手で慌てて槍を構えた。

 そうして両者は息を吸う暇もなく、激突した。










 剣同士がぶつかり合う金属音が夜の森に響いている。


「サンツ! お前はここから他の所へ襲撃があったことを知らせにいけ! 貴様はここにいても役に立たん!」

「は、は、はい!」


 見張りの指揮をとっていた男がサンツへと怒鳴る。

 しかしその直後切り結んでいた相手に首をはね飛ばされる。

 鮮血を噴き出しながら首のない死体が地面へと倒れこんだ。


「あ、ああ、ああああ」


 サンツは歯がガチガチというのを感じた。

 指揮を執っていた男は自分の隊のなかで2番目ぐらいの実力を持っていたのだ。

 それがあっさりと殺された。

 足がすくみそうな恐怖の中で槍を抱えたまま必死に駆けだす。


「逃がすな」


 そのサンツの前に夜盗の一人が躍り出てきた。


「うわあ! くそっくそっくそ!」

「くっ…」


 必死に手に持った槍を突き出して応戦する。

 最初はその槍に手間取ったようだった夜盗もあっさりとリズムをつかんだのか剣で捌いてくる。

 ガギン、という音がして槍の穂先が強烈に弾かれた。

 その衝撃が手元にまで伝わりサンツは槍を手放しそうになる。

 なんとか落とさずに済んだと思ったが、その態勢が崩れたところを逃す夜盗ではなかった。


「終わりだ、死ね」


 銀色の幅広の剣が振り上げられる。魔術が得意でない自分では剣を防げるだけの魔術障壁を瞬時に展開することはできない。

 終わりだ、と思った。死ぬんだ、と。

 自分に訪れる痛みと死を予感してサンツはぎゅっと目をつぶった。

 しかし、その衝撃は予測していたところとは違うところからやってきた。


 ――ドン


 サンツの体は横からの衝撃を受け、激しく揺さぶられながら地面を転がった。

 顔の表面に地面の感触を感じながら、目を開けると数刻ぶりに懐かしい顔が見えた。

 いつも眠そうにしていた黒髪の青年。


「ライ!」

「よう。どうにか間に合ったようでよかったよ」


 相手の剣を短刀で受け止めながら、サンツの体を弾き飛ばした張本人は状況にそぐわないほど飄々とした感じでそう言い放った。










ぎゃりっと嫌な音が短刀と剣が交差しているところから聞こえてきた。

 ライは素早く剣を跳ねあげて距離を取る。


「助っ人は一人、か。まだ他の援軍が来るまでまだ余裕がありそうだな」


 盗賊が剣を構え直しながら呟く。

 背後では盗賊によって守備隊がほぼ全員が倒されていた。

 絶命しているものもいれば大けがをして動けないものもいる。

 同僚の惨劇にサンツは思わず目をそむけた。


「残りはお前ら2人だ。さっさと片付けて中央へ突破させてもらう」

「どうぞ、できるんなら」


 凄む盗賊に対しライは短刀をヒラヒラさせながら相変わらず飄々とした様子である。余裕があるというよりは関心がない、という方が正しい。

 盗賊が素早くライへと踏み込んだ。

 強力に振られた剣をライは受け留めることはせず、脇へと捌く。

 まともに受ければ短刀が一度で折れてしまうため、相手の剣は全て脇へと捌いていく。

 サンツはその光景を後ろで呆然と見ていた。

 どちらもレベルが高い。


「なるほど、できるな」

「そりゃ、どーも」


 守備隊が簡単に撃破されたことからこの盗賊団は相当な戦闘力をもっているらしい。先ほどの剣技や魔術をみていてもそれが伺える。

 その盗賊とライは互角に戦っている。

 あのぼーっとしてたライが、である。サンツは何かの冗談のように思えた。


  ヒュオッ


 鋭く振るわれた剣を避けようとして一歩下がったライを追撃するように盗賊は前に出た。振り切った後の勢いを利用して肘うちが打ち込まれる。


「うおっと、おっと。危ねっ!」


 後ろへ押されるようにして下がっていく。

 短刀というリーチ差のある獲物で長剣を捌くのもやっとというように見える。

 と、足元のバランスを崩したのかライが地面へと尻もちをつくようにして腰を落とした。


「死ねッ!」

「ライっ!」


 その上から剣を振るわれる光景をみてサンツが心配の声をあげる。

 しかし――


「危なかったー」


 飄々とした調子を崩さずにライは盗賊の長剣を右手にいつの間にか持っている長剣で受け止めた。


「いやね、やっぱりリーチが違うからさ。ちょっとこの人の長剣を借りようと思って」


 ライが尻もちをついた場所の横に転がっていた長剣を掲げて見せる。

 その横では既に絶命した隊員が横たわっており、ライはその長剣を借りるために後退したり転んだりしていたようである。

 相手の剣を受け止めながら器用に立ち上がると、今度は打って変わって猛反撃に出た。

 ライの剣がしなり、鞭のように相手へと迫った。

 実際は剣は曲がっていないのだが、サンツにはそのあまりにも早いスピードによって歪んで見えた。


「ぐっ、バカな」


 盗賊の顔が苦戦に歪む。

 もの凄い勢いで迫ってくるライの剣にカウンタ―のように剣を滑らせる。

 しかしそのどれも避けられてしまう。


「チェックメイト」

「ぐおっ」


 そうしてライは一人目をあっさりと切り捨てた。

 残っていた盗賊が唖然としてサンツとライに注目した。

 そして徐々に彼らの殺気が膨らんでいく。

 当り前である。自分たちの仲間の一人が目の前で死んだ。

 その事を彼らが理解すると、彼らはそれぞれ各々の武器を手にじりじりと距離を詰めてきている。


「なんだ、まだ突破していなかったのか」

「ふ、ふ…ダジリスさん。すみません」


 そんな空気を森の中からでかい斧を担いだ男が現れて回りを一喝した。


「頭領たちが本部に突っ込む前に俺たちでいくらかかき回せって言われてんだぞ。急げよ」

「それが…」

「あん?」

「たったいまノールの奴があの小僧に倒されまして」

「ほう」


 斧を持った大男がそのままライとサンツのほうを睨む。その眼力の強さにサンツはビビりライのほうを助けを求めてみるが、ライは「あいつ今俺のこと小僧って言ったよな」などとどうでもいいところに怒っていた。


「たかが2人だろ。人数で潰せ。5人くらいでかかってさっさと仕留めて次の段階に行くぞ」

「し、しかし副長…」

「バ、バカ!」


 盗賊の男の「副長」の呼びかけにダジリスと呼ばれていた男が慌てる。

 そしてチラリとライとサンツのほうを伺う。

 サンツが疑問符を頭の上に並べたのに対し、ライは意味ありげな笑みで微笑んだ。


「なんとなく知ってた」


 そして剣を持ち前方へ構えながら、相手を挑発するように言い切った。


「あんたら盗賊団は―――練兵団出身なんだろ?」





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