一話アサルト、巫女を守る
アサルトは霧が立ち込める竹藪を駆け抜ける。
『タケノコタケノコニョッキッキ~♪︎』
竹精霊の歌も聞こえる中、アサルトは光るものを認識できた。黄緑色の透明感がある人間の子供のような存在、竹精霊である。
下級か。
アサルトは即座に雑魚だと判断し、手に持ったモップサイズの黒い竹、硬竹で邪魔な竹を斬り進む。
『タケ~!』
対する竹精霊は竹を伸ばしアサルトの進路を塞ぐ。その隙に竹精霊は竹をすり抜け、逃げる逃げる。
しかしアサルトは逃げる個体も見逃さない。竹を斬りながら竹精霊を追う。
するとあっという間に追い付いた。
『うぎゃーーー!!』
硬竹を振るうと竹精霊の体は竹のように裂け、空気に溶けていった。
さて、次はどこか?
アサルトは次に斬るべき竹精霊を探すため、目を閉じ心のなかで【風探知】と詠唱する。それによって風が起こり霧が晴れた。
これでキノコ形の巨大樹の頂上部分が見えるようになった。アサルトはそこに住む人々を守るため竹精霊を狩り続けているのだ。
アサルトは目を開けた。
次の竹精霊は、巨大樹のすぐ近くか……っ! 順番間違えたっ!
普段は巨大樹に近づく順番を予想し、早い順に竹精霊を斬っていたのだが、足が速い個体が混じっていたようだ。
アサルトはすぐに駆け出した。
昔、あの人が言った。
「人を守れ、それがお前の使命だ」と、
アサルトはその言葉に従い、今日も竹精霊を斬り続ける。
『タケノコタケノコニョッキッキ~♪︎』
一方、巨大樹の近くでは、霧が立ち込める竹藪の中、巫女服を着た黒髪の少女、輝夜美琴は姿が見えない竹精霊に交渉を持ちかけていた。
「竹精霊さん! 私たちに敵意はありません! だから仲良くしましょう!」
「美琴逃げよう、まだ間に合う」
それを止めようと美琴の足に掴まる巫女服の少女、初瀬柚奈は美琴に引きずられここまでやってきていた。
「それなら一人で逃げればいいよ、私は死なないけどね」
そう言う美琴の足は震えている。竹精霊によって仲間が命を失うところをこれまでに何度も見てきたからだ。しかし意志は揺るがない。みんな仲良くが彼女の最も大切にしている価値観なのだ。
『タケノコタケノコニョッキッキ~♪︎』
そこに淡い緑色の竹精霊が現れた。美琴は以前にも竹精霊に交渉を持ちかけていた。しかし以前は色が薄い未熟な個体だったため話が通じなかった。
だが、今回の個体は前の個体より色が濃い。果たして話が通じるのだろうか?
「逃げるよっ【閃光】」
光魔法が得意な柚奈は竹精霊に目潰しをして二人で逃げようとする。しかし美琴は動かない、なので仕方なく一人で逃げた。さすがに自身の命には代えられないからだ。
美琴はそのことを気にせず説得に移る。
「竹精霊さん! 私は……」
『タケタケーー!!』
美琴が竹精霊を説得しようとした瞬間、鋭い竹を高速で伸ばし始めた。その竹は美琴の首筋を貫こうとしている。
どうやら意志疎通できるほどの個体ではなかったようで、美琴は死を悟った。
しかし、美琴を貫く寸前、目の前の竹がスパッと切れた。
「!?」
目を丸くした美琴の前に、一本角の鬼が立っていた。
──アサルトである。
ギリギリで間に合い、少女の命を救うことができた。あとは竹精霊を倒すだけだ。
色が淡いから中級だな、人がいるし技を使うか。
「あっ、あなたは……」
後ろから人の声が聞こえるが無視だ。
アサルトは【旋風】と念じ、手から小さい竜巻のようなものを発生させた。中には回転する風の刃が組み込まれている。それを竹精霊にかざす。
『タケェー!』
対する竹精霊は後ろに下がり直撃を避けた。そしてアサルトへ向け必死に竹を伸ばす。
──だが、旋風によって竹は切り刻まれた。
「すごい……」
美琴は言葉を失った。緑色の竹精霊は他の竹精霊と比べ竹を伸ばす速度が速く、速竹と呼ばれるが、それを簡単に完封したからだ。
『タケタケェ!』
そして追い込まれた竹精霊は両手に竹を持ち、アサルトに直接攻撃を始めるつもりだ。
しかしアサルトは無謀にも突っ込んだ。やられる前に仕留める戦法である。
「【風切鬼斬】」
風を纏わせた硬竹で一閃、中級竹精霊を亡きものにした。これがアサルトの必殺技だ。
「嘘でしょ……簡単に倒しちゃった……」
──そのとき、
アサルトの後ろから声が聞こえた。
「【炎焔】」
その声に振り向いたアサルトの目に赤いものが映った。アサルトは咄嗟に反応し、硬竹を横にして防ぐ。
しかし炎は溢れアサルトの両手に火が燃え移る。すぐに手を払い消火したが、皮膚がただれてしまった。
人間……なぜ俺を攻撃する? 俺はお前たちを守っているんだぞ?
「大丈夫か、美琴!」
「茜ちゃん、その人は敵じゃないよ! その人は私を守ってくれたんだよ!」
アサルトを背後から襲ったのは、両手で炎の斧を持った巫女服の少女、生駒茜であった。
「そうなんか?」
茜は炎の斧を構えたまま、アサルトに訊ねた。
するとアサルトは静かに頷いた。
「いやなんか喋れや!」
「茜ちゃん! 初対面の人にツッコミ入れたらダメだよ!」
「別にええやろ。それでお前は何者なんや? その見た目、人やないやろ?」
アサルトは敵対されるのも面倒なので答えることにした。
「俺は鬼だ」
「喋れるんかお前……」
「普通に喋れるが?」
「うん、さっき喋ってた」
「先に言え!」
そこに柚奈が戻ってきた。
「美琴、無事でよかった。さっきはごめん」
「柚奈ちゃん! いいよ」
二人は抱き締めあった。柚奈は美琴を見捨てて逃げたのではなく、茜を呼ぶために逃げたのだ。
守れてよかった。
アサルトはホッとした。それと同時に、今度こそ竹精霊を斬る順番を間違えない、と決意した。
依然として斧を構えたままの茜は、アサルトに問いかける。
「それよりお前、鬼ってなんなんや?」
「鬼は鬼だが?」
茜は鬼という存在を知らないらしい。まあアサルトもよく知らない。
「まあええわ、ほんでお前はなんで美琴を助けたんや?」
「俺には人を守る使命があるからだ」
「え……それだけ?」
「そうだが?」
「「「え……」」」
三人は困惑した。この世界では自分の命を守ることが最優先事項だからだ。美琴も少しおかしいが……。
「まあ美琴助けてくれたんは感謝するわ。じゃあ帰るぞ、お前も帰れよ」
茜はアサルトを冷たくあしらい去ろうとした。
「茜ちゃん! 助けてもらったんだからお返ししないと!」
「それに手をケガしてる、治療しないと」
美琴と柚奈はそれぞれ反論する。
「帰る」
そしてアサルトは帰ろうとする。しかし柚奈が止めた。
「その前に治療しないと」
「寝たら治る」
「はやく治療するから!」
アサルトは困惑した。だが、あまりに面倒くさいので、しょうがなく治療を受けることにした。
「わかった、すぐ治療してくれ」
柚奈はアサルトの手に手をかざす。
「【治癒の光】」
白い癒しの光が発生した。だがそれだけでアサルトの手の火傷は治らない。
「あれ? 私じゃ無理か、じゃあ本格的に治療しないと」
アサルトは柚奈に腕を掴まれ、巨大樹に連れていかれそうになる。
「いや……」
「治療!」
アサルトは柚奈の圧に負けついていくことにした。
鬼なのに……




