表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/52

第24話:想いを夜空に馳せて

国立第一魔法学園、記念すべき第一回魔法学園祭。

 二日間にわたる喧騒が、夜のとばりと共に緩やかに熱を帯びたまま沈下していく。グラウンドを囲むように設置された巨大な篝火かがりびが、パチパチと爆ぜる音。夜風に乗って運ばれてくる、祭りの終わりの名残惜しさと、勝利への期待。


「――お待たせいたしました! 栄えある第一回、クラス総合優勝の発表です!!」


 実況の声が夜の空気を震わせた。スタジアムの電光掲示板に、眩い金色の文字が躍る。


『優勝――第一学年、10組!!』


 その瞬間、10組のエリアから爆発的な、地鳴りのような歓声が上がった。陽向ひなたが泣き出しそうな笑顔で雷翔ライトの肩を激しく叩き、クラスメイトたちが互いに抱き合って喜びを爆発させる。

 本来、10組は学園でも指折りのエリートが集うクラスだ。だが、その実力ゆえに周囲からの期待という目に見えない重圧に晒され続けていた彼らにとって、この勝利は単なる「点数」以上の、自分たちの絆を証明する宝物となった。

「……やれやれ。本当になんとかなっちゃったね」

 れんは人混みの端で、満足げなクラスメイトたちの姿を眩しそうに見つめていた。10級という「お荷物」を抱えながらの優勝。だが、その10級が理論クイズで圧倒的な知略を見せ、裏方として全競技を支えたことを、10組の仲間たちはもう、魂の深いところで理解している。

 

「――一ノいちのせくん。……ううん、蓮。ありがとう」

 隣に立つかりんが、いつもの不敵な笑みを消し、潤んだ瞳で蓮を見つめた。彼女はそっと、蓮の制服の裾を震える指先で掴む。

「君がいなければ、私たちはここまで笑えなかった。……今日は、君が私たちの『誇り』よ」

「……大袈裟だよ、雪城ゆきしろさん。僕はただ、買い出しのついでにちょっと計算しただけだから」

 蓮は照れ隠しに頬を掻いたが、心の中では、この賑やかな日常を守れたことに、確かな安堵を覚えていた。

『ふん。謙遜もそこまで行くと嫌味ね、蓮。……まあ、あの子たちの喜ぶ顔も、たまには悪くないわ』

 銀髪を夜風になびかせ、人型の姿で蓮の隣に立つレイが、満足げに鼻を鳴らした。


「――さあ、フィナーレです!! 七賢者三名による、一夜限りの魔法披露!!」


 アナウンスと共に、スタジアムの中央ステージに三人の影が立った。不知火 煌々(しらぬい きらら)、藤田 紫苑しおん、そして大岩 たけし。現代魔法の頂点に立つ三人が、同時にその膨大な魔力を解き放つ。

「展開てんかい――『爆華(ばっか)・星屑のカーテン』!!」

「展開……『深緑・天頂の揺り籠』……っ」

「ガハハハ! 展開――『千岩・星海の礎』!!」

 炎、草、岩。三つの異なる属性が空中で複雑に編み上げられ、スタジアムの上空を覆い尽くしていく。本来、現代の夜空は浮遊する魔素の乱れによって、真の星影を失っている。だが、賢者たちの圧倒的な術式は、一時的に大気そのものを浄化し、失われたはずの『古代の星空』をそこに再現していった。

 濃紺の天幕に、ダイヤモンドを散りばめたような無数の瞬き。かつての人類が見上げ、神話を描いたであろう、真実の夜天よぞら


(……少し、繋ぎ目が不安定だな。つよしさんの出力が強すぎるんだ)

 蓮は誰も見ていないところで、そっと指先を動かした。目立たない程度の微弱な風――ロスト・マジックによる干渉。それが賢者たちの術式の隙間に滑り込み、複雑な魔素の循環を完璧な安定感へと導く。スタジアム全体が、そのあまりの美しさに息を呑み、静まり返った。

「……綺麗。……古代の夜空はこんなに綺麗なのね」

 かりんが呟く。蓮の隣で星空を見上げるレイの瞳には、懐かしさと、どこか遠い切なさが宿っていた。

『……そうね。……でも、今の私には、この偽物の温もりの方が、心地よく感じるわ』



 そんな奇跡のような輝きの下で。喧騒から少し離れた、静かな校舎の影。

 雷翔が、真っ赤な顔をして陽向の前に立っていた。

「……おい、陽向。……さっきの続きだ」

「え……? 続きって……」

 陽向が首を傾げる。雷翔は後頭部を激しく掻きむしり、意を決したように彼女の肩を掴んだ。その瞳は、どんな魔法戦の時よりも真剣で、激しく燃えていた。

「……俺は、不器用だから、気の利いたことは言えねえ。……でもな、お前が作ったもんを一番近くで守れるのは、俺でありたいんだ。お前の隣には、俺がいなきゃダメなんだよ!!」

「ライト……」


「――やっぱり好きだ! 陽向ひなた!! お前のことが、世界で一番好きなんだ!!」


 ぶっきらぼうな、けれど魂を削り出したような叫び。

 陽向は呆然と雷翔を見つめ、やがて、その瞳から大粒の涙を零した。

「……バカ雷翔。……遅いんだよ、そんなの、ずっと前から分かってたでしょ……!」

 陽向が雷翔の胸に飛び込み、雷翔がその小さな身体を壊れ物を扱うように抱きしめる。それを物陰から覗き見していた10組のクラスメイトたちが、一斉に「ヒューヒュー!」と囃し立て、二人が慌てて離れるのを笑い飛ばした。

 笑い声、歓声、そして降り注ぐ光の粒子。

 世界から魔法が消える運命など、誰も知らない。この場所には、ただ確かな絆と、未来への希望だけが満ち溢れていた。







 ――

 場面は一変する。賑やかな学園から遠く離れた、魔法省最深部――秘匿地下実験棟『エリア0』。

 無機質な金属音と、冷徹な電脳の走査音が響くその空間。軍拡派の賢者たちの手引きによって、厳重に封印されていた『古代遺物アーティファクト』が、水槽の中で怪しく脈動していた。

「――エネルギー充填、98%……。各回路、正常。……起動します」

 研究員の震える指先が、最期のスイッチを沈めた。その瞬間。


 ――ドクン。


 それは音というよりも、魂に直接響く重低音だった。不気味な赤黒い光が遺物の心臓部から溢れ出し、空間を、理を、魔素の法則そのものを歪めていく。鳴り響くのは、警報ではない。それは、新しい時代の――あるいは終焉の始まりを告げる、産声うぶごえ

「……っ!?」

 スタジアムで、蓮の隣にいたレイが、突如として空を仰いだ。彼女の銀髪が微かに逆立ち、その瞳が恐怖に似た驚愕に染まる。

(……何だ、今の音は。……理が、軋んでいる?)

 蓮もまた、胸の奥に走った正体不明の悪寒に眉をひそめた。

『蓮……。……今の、聞こえたかしら。……世界のどこかで、何かが「目覚めた」わ』

 レイの震える声。再現された美しい星空が、一瞬だけ、ノイズのように揺れた気がした。

 最高の祭りの幕が下りる。それは、これから始まる「魔法なき世界」への、血の匂いのしない宣戦布告。少年と精霊が紡ぐ、偽りの平穏は。秋の夜風に解けるように。消えていく。

 魔法が消える、その瞬間まで。空に浮かぶ偽りの星々だけが、彼らの行く末を静かに見下ろしていた。

こんにちは!よつばです!

第4章、学園祭編これにて完結となります。

学園祭は書いていてとっても楽しかったです!

これから物語は結末に向かって加速していきます。蓮たちはこの世界で最終的にどんな判断を下すのか。まだまだ続くこの物語、ぜひ楽しんでいってください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ