18話 重大案件
「ラージラット2体、ダンシングバニー1体、ラビッドラビットの突然変異種1体、合わせて75万3千ドルクになります」
そのセリフを聞いてズッコケた。
ちょ。え?
ナナジュウゴマン?
「な、あ、ありがとう…ございます?」
「なんですか、その反応は」
「いや、だって」
「間違いではありませんよ。ラビッドラビットの討伐報酬は50万ドルクです。突然変異種は通常報酬の5割増しですので、75万ドルクです」
ええええ。
無茶苦茶な金額なんだけど。
30分森の中歩いてこれって、つまり時給150万か?
リーマンの年収の半分以上が時給って。
これ年収にしたらいくらになるの。
1日12時間勤務、週6日、残業なし、休祝日無しだと仮定して。
時給が150万。
日給が1800万。
月給が4億3200万。
年収が51億8400万…だと…?
いや待て。
そもそも暗算で時給を年収に換算しようとする事自体おかしい。
こんな単純な計算式ではないはずだ。
それに今日はたまたまだ。
たまたまBランクモンスターの、それも突然変異種に遭遇しただけだ。
毎日こんなモンスターに出会えるわけがない。
Bランクモンスター討伐の機会自体、珍しいんじゃないか。
その上どれくらいレアか分からない突然変異種だ。
「ちなみに、突然変異種ってどのくらいの頻度で現れるんですか?」
「年一回くらいですかね」
ですよねー。
たまたま宝くじに当たった、ぐらいに考えておこう。
「それにしても基本50万って多すぎません?一体だけですよ?」
「そんな事ないです。先ほども言いましたように、ラビッドラビットは通常、数組のパーティーが手を組んで討伐にあたるモンスターです。4人パーティーが3組だとして、一人あたり4万ドルク強になります」
一気に色気がなくなった。
そうか、そうやって計算すると妥当な金額なのかな。
リイナが書類をまとめ、奥へ消えるとトレイを持って戻ってきた。
金貨7枚、大銀貨5枚、銀貨3枚乗っている。
あれだけの大金でもこうして見たら少なそうだ。
それでも大金に変わりはない。
周りの冒険者たちに気づかれないように硬貨を一気に鞄に入れた。
もちろん実際はアイテムボックスに収納したわけだが。
礼を言ってから離れようとすると、ギルド職員の話し声が聞こえた。
「聞いた?王都付近でモンスターが凶暴化してるって噂」
「聞いた聞いた。討伐クエスト張り出しても失敗報告ばかりらしいじゃん」
「怪我人でまくりで、受ける人減ってるんだって」
「えー、怖い。ここは大丈夫なのかな」
「王都からかなり離れてるし、平気なんじゃない?」
「でもさー、なんかやっぱり数増えてるらしいんだよね」
物騒な噂だな。
俺の倒したギガントラットやラビッドラビットと関係あるのだろうか。
掲示板の近くに鬼のような形相をしたロイがいた。
ギルド職員が誰も近寄らない。
俺も逃げようっと。
「ユウキ」
ちっ。
「…ロイ、さん」
「実は最近、この辺りでモンスターが大量発生していてな」
おおい、いきなり本題に入るなよ。
世間話から入るのが普通でしょう。
ていうか第一声でこんな重大案件を振ってくるって。
常識を知らない大人とか嫌だわー。逃げたい。
「はあ」
「それ自体は問題ないんだが、低ランクモンスターの討伐クエストに行った冒険者が怪我をして帰ってくることが多くなってきててな。怪我なんかは日常茶飯事なんだが。何が言いたいかと言うと、とにかく重傷者が多い。ブリーフィングしてみても対峙したモンスターは間違いなく依頼書に載ってるモンスターなんだ…どうした、変な顔をして」
露骨に嫌な顔をしてみせたのだが、伝わらなかった。
なんでこんな人がギルマスなのかな。
図太いだけじゃ責任者は務まらないと思うんだけどな。
「念のために職員に調査に向かわせたんだが、気になる報告があってな。ベルモント近辺にいないはずの高ランクモンスターと遭遇したそうなんだ」
「高ランク?あ」
「ん?何か思い当たることでもあるのか」
ちぃっ。しまったっ。
声が漏れてしまった。
「あー…実は昨日、同じような事があったんですよ。ダンシングバニーの討伐クエストを受けたらラビッドラビットの突然変異種と遭遇しまして」
「なんだって?よく五体満足で生きてたな」
まじまじと見られている。
遭遇したら五体満足で生還できないこと前提みたいな言い方。
怖っ。
「生きてるどころか倒しましたよ。さっき換金を済ませてきたところです」
「ふはは。おいおい、冗談きついぜ。ソロでラビッドラビットの突然変異種を、え、殺ったってのか!?」
ロイがカウンターの反対側を見たらリイナが’両腕でマルをした。
ギルド全体がざわついた。
「この間の練習試合から評価してもBランクだぞ。一体どうやったらラビッドラビットを一人で殺せるんだ」
練習試合て。
こっちは免許剥奪の危機だったんですけど。
空気読めないわ、話聞かないわ、自分に都合の良いように記憶改竄するわ。
もー、この人ノーセンキュー。
「まあ、色々ありまして」
ロイと会ってからスキルを色々とラーニングしたし。
ジョブも3つぐらいラーニングしたし。
でもそんなことを暴露する義理はない。
あ、でも建前上戦闘奴隷の手柄にした方が良いのかも。
「ていうか俺じゃなくてアイカが」
「どういうことだ。ラビッドラビットは北の山奥に生息しているモンスターだぞ。それに突然変異種はダンジョン奥深くでしか発生しないはずだ。こんな離れのベルモントにいるはずがない」
おい、無視しないでおくれよ。
ロイが右往左往しながらブツブツ独り言を呟き始めた。
興奮しているのか声を抑えようともしていない。
もはや実況だ。
「王都近辺のモンスター凶暴化と関係があるのか?ウチの管轄での大量発生も偶然か?待てよ、そういえばユウキはこの間ギガントラットを殺ったな。それに続いてラビッドラビットと遭遇…」
いきなりロイの首がギュンと回転した。
あ、なんか嫌な予感が。
「おい、ユウキ。調査を手伝ってk」
「はいそこまでー」
パコーンといい音がした。
ジュリアが丸めた雑誌でロイの頭を叩いたのだ。
ギルド全体がまたざわついた。
ギルマスの頭を叩くとは、ジュリアさんあなたは一体何者ですか。
「なんだおめえか。なんだよ」
「ずいぶんな言い方だな。頼まれてた古城の調査、終わったぜ」
「あー、お疲れ。報告書にまとめておいてくれ」
犬を追い払うようにロイが手を振る。
「いいから聞けって」
今度はギルマスを足蹴に。
え、ロイLv80越えのSランクじゃなかったっけ。
ジュリアさんつええ。
「わーったよ。なんだなんだ」
「突然変異種に遭遇した。しかも入り口付近で」
一瞬にしてロイの顔が引き締まった。
張り詰めた空気が流れる。
「…あんたもか」
「やっぱり増えてるらしいな」
「ああ、ベルモントでも近いうちに大規模な調査が必要になってくるぞ。今さっき、ユウキも手を貸してくれると言ってくれたところだ」
「「言ってねーし」」
あ、珍しくジュリアさんとハモった。
「ていうかロイさんはどうなんですか。結構な重大案件ですよ。突然変異種が出てくるとなると、ギルマスの力が必要になると思うんですが」
「俺は無理だ」
「だからなんで」
「王都からお呼びがかかったからだ。来週出発する」




