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それぞれの能力




 教会側での諸々の手続きや引き継ぎが完了し、オレストが正式にファミリーの一員としてホームの空き部屋に引っ越してくることとなった。2階の一室の荷物を片付け、あとはオレストが来るばかりだ。

 これまでも教会の宿舎からホームに通ってくる日々ではあったのだが、先日のエテの一件から軸足を移すことになったらしい。

 エテでのオレストの働きはパーティーにとって非常に大きかった。彼の支援と分析力なくしてあの場は凌げなかったし、戦闘後スクルは再起不能だっただろう。全員がそれぞれの仕事を100%以上でこなしてなんとか無事に帰還できたのだ。

 これから第三の巨獣はいつか現れる。トーマとエスネッサ、それに代償魔法の使い手たちの監視だけでなく、災厄のときのために普段から彼らの側にいて、しっかりと信頼を築いて連携をとれるようにする必要があるとオレストから上層部に掛け合った。教会もその意見に同意し、今回の引っ越しに至った。


「ここに出入りする人間も五人か。すっかり馴染んでるな」

「正式にギルドにファミリー登録してもいいかもね」

「ファミリー登録ってなにそれ」


 ギルドには集まった依頼をこなすのに個人、チームを組むパーティー、組織単位で活動するファミリーという括りが存在する。固定パーティーとファミリーの境目としては連絡がつく拠点を持ち、ファミリーとしてギルドに登録することが条件となる。

 この隊特務班も十分条件は満たしており、あとはギルドの登録だけしてしまえば正式にファミリー扱いとなるのだ。


「ファミリーで登録しとくと受けられる仕事の範囲が広がったり、ギルド側からこっちの力量に見合った仕事回してきたりするんだよ。とはいえ、俺とスーちゃんはあくまでも騎士団所属だからギルドにあんまり首突っ込むのも良くないんだけどね」

「騎士団とギルドって仲悪いのん?」

「いや、単に守備範囲の違いだよ。騎士団の手が届かないところをギルドが有志の力でカバーしてくれてるって感じ」


 騎士団は王国守護のために存在する組織であり、王都に配属されている以上主な役割は王族、王都民および王都周辺の安全ということになる。緊急性の低い都市部から離れた集落での魔物被害は後手にまわりがちだし、国家施策の大規模計画でない限り素材調達などは埒外だ。そういう穴を埋めてくれるのがギルドになる。

 ギルドに集まる情報は騎士団にとっても有益なものが多く、情報交換も密に行なっているため両組織の仲は決して悪くない。ただ、どちらも構成員単位では互いを目の敵にする者もいるが。


「俺たちはどうしても騎士団の仕事優先するからギルドから仕事振られても結構断ることになるんだよ。あんま印象良くないでしょ。わざわざ対立煽るようなもんだからギルドに深入りしないんだ」

「オレストが常駐になるなら誰かしらこいつらの付き添い出来て仕事受けられるかもしれんし悪かないな」


 トーマとエスネッサの二人を野放しにするのはそれこそ大人たちには職務放棄だ。あえてファミリーに登録する必要もないが、危険物×2が暇を持て余して勝手に冒険に出かけてそこらを破壊してくるよりは、ギルドの仕事でも受けさせていた方がまだ行動を縛れる。悪くはない選択だった。


「オレストくんが来たら相談してみようかね」

「おー、なんか、なんかわからんけど、ワクワクするな!」

「お金になりそうだから僕は賛成〜」

「エスくんもこの機に越してきたら? 部屋まだあんじゃん」


 彼らが拠点としているのは騎士団が買い上げた下町の元宿屋だ。家族経営だったため小規模だがラウンジとバーまであり部屋数は5室。全員一室ずつ使っている。

 住んでいるのはトーマ、スクル、テンライの三人で今日からオレストが加わる。エスネッサは自宅は別にある通いだ。とはいえ帰るのがめんどいと泊まっていくことも多い。


「さすがに魔道士が住むには狭すぎんよ……お前は研究職の荷物量と必要設備を舐めとる」

「エスくんに……研究者の側面などあったのか……?」

「失礼しちゃうねどうも。僕はライセンス荒稼ぎ生活を諦めてない」


 エスネッサの得意分野は戦争規模の大魔法。ライセンスが一つでも売れれば実入りはでかいが、用途がほぼない。宝くじみたいなものだ。ライセンスで安定した生活ができる研究者というのはもっぱら一般普及の生活魔術である。エスネッサの夢が叶う見込みは限りなく低いだろう。


「まあライセンスは半分冗談として、僕他人と暮らすの向いてないんだよね。無理」

「エスくんがいたら楽しいのにな〜」

「寝てると制御どうしても雑になるから魔法が暴発すんのと、最近は直径2メートルくらい冥界に抜け落ちるのがたまーに、いや、週3くらいであるけどいいかな……」

「こんな危険物とは暮らせねえ。一生孤独に生きて」

「だよねぇ」

 ばっさり切り捨てたトーマを見てエスネッサは笑っているが、これはどう聞いても笑い話ではない。

「今の話マジなの? 大丈夫なのきみ……」

「んー、教皇の事件で封印解けてっからねぇ。僕は人類の枠に入れた存在だけど表裏一体だもんでふと漏れたりするね」

「やっぱこいつもやばいな……」

「冥府の主としては機能不全だから冥界に落ちやすいだけの人間だよ。大丈夫だよー」

「半死人じゃん。ゾンビじゃん」

「へへ、トーマ語がわからんやつ。馬鹿にしてんだろ」


 危険物×2がケラケラ笑ういつもの平和的不穏な空気の中、玄関扉が開いてオレストが顔を出した。


「なにやら盛り上がっているね」


 四人掛けのテーブルで話していたのでオレストの席が足りない。すかさずテンライがさっと予備の椅子を一脚引っ張り寄せて席を作っていた。


「オレストくーん! こんちゃーす!」

「こんにちは、トーマ。今日も元気そうでなによりだね」


 上機嫌なトーマに笑顔で返すオレスト。トーマがこの教会からの監視役をあっさり受け入れたのは本当に幸いだった、とつくづく思う一同である。


「やー、オレストくんがこっち来てくれて助かるよ〜。荷物はそんだけ?」

「ああ。随時買って揃えるよ」


 オレストが持ってきたのは横長のダッフルバッグひとつだけだ。引越しの荷物にしてはやたら少ない。

 同じ魔法職でも全然違うな、とトーマはエスネッサとオレストを交互に見やった。うん、見るからに生き方も何もかも違そうだった。




「人数が増えたところで共同生活のルールを再確認、更新します!」


 テンライの宣言に全員が面倒臭そうに目を逸らした。


「こら! もっと積極性出して! エスネッサくんは帰ろうとするな!」

「ええ……ぼく、ここ住みじゃないし……関係なくない……?」

「ここに仮部屋持ってて毎日居座ってんじゃん。逃さねえぞエスくん」

「うぇぇ……」


 まず、2階の個人部屋は各自が管理するが、ゴミの日に合わせて最低でも週2回は掃除をすること。ゴミ部屋が一つでもあると建物全体に影響するためだ。主に、害虫的な意味で。

 共有スペースの掃除は当番制。ラウンジとバー、廊下と階段と玄関、キッチン、風呂トイレ、休憩日の5種類に分けてローテーションとした。

 洗濯は各自だが週1回はやること。このあたりはまだいい。問題は炊事だ。


 これまではトーマ、スクル、テンライの三人暮らしの名残りでなんとなくテンライが主に台所に立っていた。それも決まって毎日毎食というわけではなく、気分で作ったり作らなかったり。飯のない日は各々調達してこいというフリースタイルだったのだが、この人数になると少しはルール化が必要だろう。


「共同体の基本として、毎日最低一食は共にするべきだ。朝食が理想的だね。朝の時間が決まって、自然と規則正しい生活になる」


 さすが白魔法士はきちんとしている。怠惰に朝寝坊を繰り返すような暮らしは許されない。


「いいんじゃねえの。じゃあ朝食は当番制にして必ずラウンジで摂ること。時間は朝6時」

「早いよ! 8時!」

「私はちょうど良いと思うよ」

「騎士団の方に仕事があるときは6時でギリだ。異論は認めねえ。寝坊したやつは飯抜き」

「横暴だ!」


 トーマの嘆きは誰にも通じなかった。スクルとテンライは騎士団員、オレストは教会の司祭。大人たちは全員規律の厳しいところで働いており早起きが身についているのだ。同じく朝寝坊派になってくれそうなのはエスネッサだけだが、彼はあくまでも通いであり、朝食は関係ないのでぼんやり窓の外を眺めてスルーしている。


「んじゃ当番だが」

 すでにトーマの反対を完全無視で話は進んでいる。

「トーマも朝食くらいならできるよね」

「おれ、切ると剥く以外できない。エスくんは?」

「僕その辺吹っ飛ばすしかできないってば」

「魔法じゃなくて家事!」

「料理してて魔力引火事故起こしたことあるんだ〜家が吹っ飛んだ」


 逃してなるものかと追求していたらとんでもないことを言い出した。全員ドン引きした。


「お前は一生火の元に近寄るな」

「エスくんだけずりいよ!!!」

「ふへへ、さーせん」


 そしてものの見事に逃げおおせられてしまった。もうトーマにはエスネッサの脇腹をビシビシ突くことしかできない。

 一方でエスネッサにさっさと見切りをつけたテンライは新人の戦力を測ることにした。


「オレストくんは家事スキルどんなもん?」

「掃除は好きだよ」

「あー、そういうの厳しそうだもんな」


 騎士団も清潔感を求められるが、なんとか頑張っているという感じでギチギチに厳しい訳ではない。

 その点、日々の生活の中に戒律が直結している教会は整理整頓清潔は徹底しているはずだ。そこまでのものここに持ち込まれても困るが、あちこちに出向してばかりのオレストは郷に入りては郷に従えを弁えている。だから掃除は【好き】に留めた。


 だが、彼の家事スキルの課題は別にある。


「炊事は禁止されている」

「禁止されている?!」

「食材や生産者への冒涜である。一生調理場に立つな、と昔同僚に厳しく叱られたので遵守しているんだけれど、どうしようかな?」


 顔色ひとつ変えずに悪びれもなく過去の事実だけを述べてくるのが何のバイアスもかかっていないリアルを感じる。これにはじゃれあっていたガキどもも固まった。


「こわ……っ」

「なんか嫌な予感しかしない。怖いもの見たさも起きない」


 満場一致でこいつもキッチンに入れるな、が決まった。人数だけ増えて当番の頭数が増えていないのでは話にならない。


「仕方ねえ、お前は炊事除外の分ほかの当番増やすぞ」

「申し訳ない」


 スクルの決定に唯一文句を飛ばしたのはトーマだった。


「なんだよー! 二人ともずるい〜! 俺だって包丁使ったらキッチン台ごと真っ二つにするもん〜!!」

「トーマは普通の刃物は普通に使えるでしょうが」

「わーん!」


 同じ境遇の奴がいるのならまだ頑張れたが、似たような料理できないマンが免除されて自分だけ学べというのは納得がいかない。仕方ないことはわかるような気がするが面白くない。つまりは駄々をこねているだけだ。


「いきなり一人で任せたりしないよ。少しずつ作れるようになろう」

「はぁい」

 やれやれとテンライが宥めると、優しみに満足したかトーマは折れた。子供だ。

「エスネッサくんも火を使わないことは一緒に覚えていこう」

「あー……まあ、はい……」

「へへ、逃さねえよ」

「トーマに言われるとこわいな〜」


 こうして穏便に会議は終了した。かに思われた。


「なるほど。私も下拵えとかは手伝えるかもしれない」

「オレストは保留だ。まずはお前の身内から話を聞く! ヤバい匂いしかしねえ!」

「そうかい?申し訳ないな」

「オレストくんこわいな〜」


 なぜ劇物を生成するものに限ってチャレンジ精神が高いのか。チャレンジ精神が高いから劇物を生成するのか。異世界でもこの世の謎だった。


 後日、情報を仕入れての判断として「不穏分子はお湯を沸かす以外のことはやるな」という結論に至った。トーマはキレた。

トーマ、方向音痴。切る以外何もできない男

エスくん、燃料タンク。吹っ飛ばす以外何もできない男

テンライ、家事スキル全般が高い。正直こいつに全部やってほしいと全員思ってる

スーさん、そこそこ。家事はできるが嫌い

オレストくん、綺麗好き。メシマズ

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