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月次定例ティータイム




「エスくん……明後日、ひま?」

「あー?」


 今日も昼飯を期待してホームに訪れていたエスネッサがラウンジでぐうたらしていたら、珍しく神妙な様子でトーマが伺いを立ててきた。

 用があるにせよ唐突に今日やら今すぐやらの誘いをしてくるというのに、二日後のエスネッサの予定を聞いてくるなんて槍でも降るのだろうか。


「ひまだよね。いや忙しくてもいいんだけどさ」

「無理やり引っ張っていくので……?」

「そんなんじゃねーですよ。忙しいなら俺の方は別にいいよ」

「えー?」


 わがままトーマちゃんがエスネッサを優先して折れてくれるなんてやはり雪が降るに違いない。

 というか、誘っておいていまいち気乗りしてなさそうな雰囲気に俄然興味が湧いてきた。嫌がらせ的な意味で。


「ひまひまチョーひま。なんなら今から行こうぜ〜」

「やっぱヒマなんじゃん。でも明後日じゃなきゃダメ〜っ」


 腕で大きくバツを作ってお断りされ、とにかく明後日の昼過ぎにラウンジ集合、と初めてトーマとエスネッサは待ち合わせをした。どうせいつもいる場所、いる時間帯なので待ち合わせも何もないし、なんなら明後日のその時間にいきなり引っ張っていけば良いのに。

 明後日に何があるのだろうとカレンダーに目を向ければ、その日にでっかいぴかぴか星マークがついていた。とにかく何かがあるらしい。悪いことではなさそうだ。

 せっかくなので予備知識なしで臨もうと、エスネッサはその日何があるのか誰にも聞かなかった。トーマの方もそれっきり話題にしないので、彼らが連れ立って出掛けるのは当日、その時間、ホームを出る瞬間に分かったのだ。







「んじゃーそろそろいってくるね」

「騒ぎ起こすんじゃねえぞ」

「わぁかってるわーい。状況次第だけどな!!」

「トーマ絶対に気を緩めないじゃん」

「当たり前だわ!エスくんいくよ〜」

「ほいほい」

 トーマに声をかけられ、腰を上げるエスネッサにテンライの声がひっくり返る。

「エスネッサくんも行くの?!」

「なんか誘われて」

「よく許可が出たな……」

 心なしかスクルも嫌そうな顔をしていた。

「許可がいるの?」

「これエスネッサくん何も知らないだろ! どこ行くのか分かってないだろ!」

「聞きたくないんでいってきまーす、ほらトーマいくぞぉ〜」

「イェーイ!」

 エスネッサがトーマを引っ張って逃げるように駆け出すと、慌てたテンライが走り去る二人の背中に向けて叫んだ。

「ちょっと待てトーマ! 連れてくの伝えてあるのかー?!」

「ちゃんと言ったー! つーか連れて来いって言われたんだっつーの!!」

 半ギレで答えるトーマはもう振り返りもしなかった。


 方向音痴のトーマに行き先も聞かないで案内させようなんて無茶だろうか。仕方なく場所を聞こうかと思ったのだが、トーマは迷いなく馬車の停留所に向かい、一番乗り場より先の何もないところに立ち止まった。

「ここにお迎えくるよ」

「ほーん。合ってんだろうね?」

「失礼しちゃうわ」

 結論から言えば合っていた。しかしお迎えは只事ではなかった。

 やって来たのはその辺の相乗り馬車とはわけが違う。明らかに作りの良い黒塗りの個室型の馬車だ。

 トーマの前に止まると御者が恭しく扉を開けてくれた。内装もビロードのやわらかシートでお貴族仕様。こんなのに乗る機会があろうとは。

「だいたい読めて来たぞ……」

 浮かれたカレンダーのマークに、豪華な馬車のお迎えに、騎士二人の反応。そして馬車の進行方向。

 これは王宮行きの特別車両だ。トーマが何も説明しないし、服装もいつも通りなもんでわからなかった。よく考えたら分かりそうなものだったのに。



 案の定馬車は城の裏門から大したチェックもされずに入り、車止めで御者が扉を開いてくれて、降りた途端に今度は深々と頭を下げたメイドが待ち構えていた。

 誰も彼も無言で粛々と職務をこなしているだけで、トーマの方も全く声をかけない。馴れ合う気も信用もないという分かりやすいスタンスを示しているようなので、エスネッサも周囲は全部意識から外してただトーマの後をついて歩いた。

 宮廷というのは広大な敷地に国を回す施設が集められており、大勢の人が働いているはずで、その気配はあるのだがびっくりするほど誰にも会わない。トーマのために用意されたこの時間、このルートなのだ。

 やがて人の気配は薄くなり、建物の装飾が派手になって来た。貴人が使うエリアに入ったのだろう。建物の裏手の、道ですらないところを歩いているのにきちんと草が刈られ、植物の手入れがされている。ぐるぐると散々遠回りさせられて、辿り着いたのは大人の背丈を超える垣根が迷路のように入り組んだ庭園だった。季節が良ければ美しいバラ園になるのだろう。アーチを潜って中央部のガゼボが見えたところでメイドは端に避けて立ち止まり、深く頭を下げた。ここがゴールのようだ。

 トーマがいきなりエスネッサの手首を掴んで駆け出した。一目散に、丸いドーム天井のガゼボに向かって。

「スレイ〜!」

「トーマ!」

 案の定、エスネッサはトーマの父ちゃん(仮)との定期会合に呼ばれたらしかった。




 石造りのガゼボにはテーブルセットが置かれており、椅子がピッタリ三脚あった。座った途端に先ほどのメイドともう一人増えて、二人がかりであっという間に美しくお茶会の準備が整えられた。

「ありがとうございます」

「どうぞごゆっくり」

 トーマは無視しているが、スレイは普通にメイドと話すようだ。


「ほらトーマ、紹介しておくれよ」

「あ〜……エスくん、このひと、おれの保護者。スレイ・ベルニクスさん」

「はじめまして」

「あ、どもども」

 スレイが頭を下げて丁寧にあいさつするのでエスネッサも合わせて頭を下げる。

「こっちはエスくん。おれのともだち…」

 トーマが非常に複雑な表情をしている。照れと恥と嬉しさと悔しさとなんか色々混ぜ混ぜした顔で、その辺の子供みたいだった。

「エスネッサです。ども」

「エスネッサくん、今日は来てくれてありがとう。トーマに友達がいるって聞いて、一度会ってみたかったんだ」

「デスヨネー」

「どういう同意よ」

「このトーマが自分から友達作ったとか聞いたらそりゃあ、見てみたいでしょーよ」

「お前人のこと言えないからね?」

「デスヨネー」

「ははは、聞いていた通り、気が合うみたいだねぇ。良かった」


 お茶会は実に和やかに始まった。

 三段のケーキスタンドは普通下のサンドイッチから食べるのだが、エスネッサはマナーを知っていて無視して上段のペイストリーから手を伸ばした。ベリーソースのムースの器が汗をかいていて、早く食えと訴えていたのだ。仕方ない。

「トーマ、ぼくの話なんかしてるわけ? やだなぁ……」

「そりゃあするでしょ。おもろいもん」

「そんなことない。トーマの方が愉快だヨォ」

「いやー、家賃足りなくてライセンス売っ払う大魔法使い大分愉快でしょ」

「なんて話をしてるんだコノヤロウ」

 トーマとエスネッサのじゃれあいをスレイがにこにこ笑って眺めている。なんだか居心地が悪いのでエスネッサはトーマとスレイの方に矛先を向けた。

「せっかくだから二人の話でも聞かせてよ」

「俺とスレイの? 離れて暮らしてるからあんま面白エピソードないよ」

「そうじゃなくて、異世界人のトーマが保護者とまでいうんだからよっぽどでしょ」

「ああ、私とトーマが仲良くなったくだり? おやつが不味くならないかな」

「エスくん災厄級危険因子ってやつだぜ。気にしないよこいつ」

「あ、そう?」


 分かっていたが、トーマの思い出話は血生臭いこと請け合いのようだ。そしてトーマの言うようにそんなことで食欲が減るようなエスネッサではない。

 こんな高級なおやつ、食えるだけ食わないと損だ。最初で最後のチャンスかもしれないのに。と、今度はまだ暖かいスコーンをとって、ジャムとクリームをたっぷり塗る。


「まあ、そんだけ懐いてるんだからさすがに初めて会った時はトーマもこの世界の人類に嫌悪感なかったんでしょ?」

「いやぁ、いきなり呼び出されたら初っ端から嫌悪よ」

「それもそうか」

「でもスレイも同じ儀式の被害者だったからさー、意気投合? みたいな」

「スレイサンも異世界人なの?」

「私はこの世界の人間だよ。儀式の生贄だったんだ」

「オワー……」

「やっぱりやめようか?」

「聞く聞く。めっちゃ聞く」

「めっちゃ興味持つじゃん」

「まあね」


 内心、エスネッサよりもギレェスネルザの方に関わりそうな気がしてここで話を聞いておくべきと判断したのだが、面倒なので声には出さなかった。




 この世界における宗教とは実在する創造主がいる以上単一的な一神教だ。つまり聖王道教会こそが神に繋がる信仰で、それ以外は邪教となる。

 トーマを呼び出したのは異世界の神を崇拝する邪教徒だった。理不尽な世を憂い、破壊による世界の一新を救いとするカルト教団。まあ何かしらの理由で人生追い詰められて騙されやすい信徒が多い。これが金目当ての宗教詐欺ならまだしも、信徒は本気で救いを求めていたのだから厄介だった。


 折りしも五年前に災厄の巨獣という神の試練が勃発したことで、天は人間を見放したのだと嘆いて邪教に鞍替えする者も増えていた。そこで母体が大きくなった教団が考えたことが、彼らの崇拝する異世界の邪神を召喚し、災厄の巨獣を祓い、主神さえも討ち、この世界を浄化するとかなんとか。

 そんなこんなで邪神召喚計画は始まった。

 非常に残念なことに、教団の人材が豊かになっていたので異世界の門が空く儀式の理論が立ってしまった。そこまでなら机上の空論だったのだが、まさかの材料まで揃った。

 一番レア度が高い材料というのが「百度目の死を刻んだ魂の悲鳴」。意味不明だが、作ることができてしまった。このスレイ・ベルニクスという男を捕まえたおかげで。


「スレイは人魚の肉食べて不死身なんだって〜すごいんだよ」

「これナイショね」

「アラマー……色々納得した……そりゃあ、王族がスレイさん囲うよね。為政者は喉から手が出るほど不老不死欲しかろうよ」

「そうだ! この一ヶ月はどうだった? 変な実験とかされてない?」

「ないない。少し血液提供して、虫刺されの治り具合とか、日焼けとか調べたくらいかな」

「ならいいか」


 恐ろしい定期チェックをしている。これトーマの感情的にアウトな実験があったら即何人か死ぬやつだ、と察した。

 しかし通りで。エスネッサからしても、初めて審議場で遠目に見た時からおかしいな?とは思っていたのだ。エスネッサの素体は冥王ギレェスネルザである。その目を凝らすと、あの人間の魂バグってない?という感じだった。


「一巡で百回死ぬとあんな感じになるのか……ていうか生贄がエグい。お疲れ様でした」

「ははは……」

「俺もスレイ初めて見た時は死んでると思ったんだよね。怖かったわ。あの頃は死体にビビってたから」


 かくて儀式は成り、邪神トーマは降臨した。かれこれ十月ほど前になる。


 召喚された後のトーマは邪教徒たちに崇められたり、請われるままに暴走する魔物を斬ってみたり、異教徒こと聖王道教会の神殿を真っ二つにしてみたりして力を推し測られた。この世界でどう生きればいいのか分からないので衣食住のためと思ってやってみたが、平和な世界の学生だったらしい少年は徐々に病んだ。

 邪教徒らの都合に振り回されて、ついに教団を弾圧する組織の排除…つまり殺人を要望されて嫌気がさして、施設内の人がいないところへ逃げ回っていたら牢に転がされていたスレイに会ったそうだ。

 そういえば召喚直後の一瞬しか見なかったが、この組織人殺し全然やるじゃん、やばいじゃん、と僅かに正気が戻ったそうだ。

 スレイが生きていたことに驚いて、事情を聞いて恐怖と嫌悪でめちゃくちゃ吐いて、もうやだとわんわん泣きじゃくった。そうしたらスレイの方が落ち着いてしまってこの迷子をどうにかせねば、と思ってしまったらしい。

 狂気の教団で、ようやく純粋に同情を寄せられたトーマ少年がスレイに依存するのも仕方ないだろう。後は牢をぶった斬って二人で教団から逃げ出した。


 しかし既にトーマは機能的に邪神で間違いなしと判明していたので、敬虔な信徒たちは彼らの神に追い縋る。異端審問官も教団とトーマを狩りにくる。

 ただの被害者であったはずのスレイまで巻き込んでしまって、もし異端審問官に捕まったらスレイは死なないが、死なないことがバレてしまう。もう二人ともこの世界に安息の地はないかに思えた。


 逃亡生活をしている中で、追い詰められたトーマはついに腹を括ってしまった。

 トーマは邪神として呼ばれたからには邪神なのだ。自分を勝手に呼びつけて、この世界がトーマを害するなら、もうトーマだってこの世界に何も期待しない。遠慮もしない。

 覚悟を決めてしまったら後はサクサク、誰でも、いくらでも斬って、逃げて、逃げた先で怪しまれればまた斬った。


 そんな逃避行を三ヶ月もやればやさぐれトーマくんの出来上がり、というわけだ。


「結局は人の出入りが多いでかい街で暮らすのがラクでさ。転々として王都の近くに来たら、いきなり騎士団に囲まれて、テンちゃんが人間のくせに超強くて! びっくりしてる間に失神させられて捕まって現在に至る、みたいな?」

「トーマはなんで大人しく王国に捕まってたの? お前ならいつでも逃げられたんじゃ?」

「逃亡生活って、超〜大変なんだよ。俺程強くてもいつ襲われるか分からんとか、疲れるもんは疲れるし。スレイを付き合わせ続けるのも悪いし……どっかで終わりが欲しかったんだ」

「なるほどね」

「だからとりあえず大人しく捕まっといて、やばくなったら皆殺しにして出ていけばいいかな〜って」

「ナルホドナー」


 いつものトーマ節になってしまった。トーマのなけなしの良心はスレイに全振りされているようだ。話を聞くに仕方ない。


「捕まってる間も一時は夜襲かけられてウザかったんだけど、一人も残さないように捕まえて主犯吐かせて敵対する奴らを丁寧に処分してたらしばらく収まってたからさぁ。場所も牢屋から客室に変わったし。ならしばらく城にいるのも悪くないかなーと」


 どうしようもない人間とトーマのイタチごっこぶりを聞いて、エスネッサはついついスレイに聞いてしまった。


「ここまで吹っ切れる前にどうにかならんかったのコレ」

「無理だよ。トーマが決めてしまったらもうどうしようもないもの」

「まあねぇ…」


 圧倒的に強い存在の決定を覆すのには、同等の強さがなければ戯言だ。物理的な強さでなくても、富でも権力でもなんでもいいが、邪神に匹敵する何かなどスレイにあるわけがない。


「でも油断した頃にまた襲われるんだろうってのは分かってたからなぁ。けーぞく的に安全がホショーされるなら別れて監視生活もやむ無しと思って。特にスレイはなあ……」

「私のことはいいんだよ? しばらく人が入り込めないような僻地に引きこもっていればそのうち情報も途絶えてまた普通に暮らせるようになる。いつものことだよ」


 なんだかサラッととんでもないことを言ってるな、とエスネッサは引いた。前人未到の辺境ってつまり、それだけ自然環境が過酷だったりやばい魔物の生息域だったり、そういうことだ。


「それこそスレイサン、しょっちゅう死にながら数十年みたいな引きこもりすることになるんでは?」

「しー、しー! そういうこと言わないで!」

「スレイ〜!! なにが大丈夫なんだよ!」

「まあとにかく!」


 怒れるトーマがスレイの肩や脇腹をポカポカ叩いているが、スレイはトーマよりでかい声で無理やり糾弾を遮った。


「トーマはトーマの好きに生きていいんだ。人は誰しも自分の意思で生まれてくるんじゃない。誰かに望まれてこの地に存在するんだから、その点はトーマも同じだよ。今ここにいるんだから、お前の望む幸せを求めていい。難しくても、苦しくても、いけないことじゃないと私は思う」

「わーかったよ」


 なるほど、こうしてトーマが堕ちきらずにいられたのだろう。トーマがこの世界に来てしまったのは最悪だったかもしれないが、スレイに出会ったのは幸運だった。

 勿論トーマにとって幸運だったし、この世界の全ての人間にとっても幸運だった。スレイがトーマの精神を保たせていなかったら、それこそ際限なくデストロイして邪教団が望んだように世界が一新にされていたかもしれない。

 こいつも災厄だ。主神の試練以外の災厄でうっかり人類が滅んだら主神は悔し涙でも流すのだろうか。

などと、現実逃避気味につらつら考えていたら、スレイがエスネッサを見つめていた。


「エスネッサくん、きみもだよ」

「ぼくはそういうんじゃないんで」


 スレイに何をどこまで話しているのだろうとトーマをジト目で見たものの、特に口止めもしていないので仕方ないかと思い直した。エスネッサもスレイの秘密を知ったのだからフェアってもんだろう。


「君も、好きな居場所を作って、望むままに生きればいいさ」

「スレイサンも?」

「もちろん。だから私は、君たちの味方でいるよ」


 それはたぶん、この先何をやらかしても変わらない確約だった。契約魔法など使わずとも違えることはないのだろう。

 邪神、災厄級危険因子、元冥王、不老不死者、対象aだのbだの、三者三様、人間社会からはみ出てヤバめな代名詞をいくつも付けられている彼らは、昼下がりの王宮の秘密の庭で、のんびりと茶などしばく。

 少なくとも今この時、彼らは誰からも排斥されることはない。


「とはいえ私にできることはほとんどないんだけどね」

「スレイは元気に生きてりゃいいよ」

「それは得意。まかせて!」

「たのもし〜あんしん〜」


 自称親子が似たような表情で普通に笑っていた。安心に暮らせることはなんとも尊い。





 三時間ほどお茶会を楽しんで帰ることになった。お土産に班の人たちと分けなさいと日持ちするお菓子や瓶詰めなんかもくれて。

 二人来るのが分かっていたのでいつもより多くて重いと文句を言いながらトーマが重い方を持ってくれて、軽くて嵩張る手提げをエスネッサが預かった。


 スレイの姿が見えなくなるまで手を振ってぴょんぴょん跳ねて、やっとトーマが大人しくなったところでエスネッサがポツリと言う。


「トーマの父ちゃん、いい人だったね」

「そうでしょうそうでしょう」


 行きは友達を紹介するのが気恥ずかしいのかぶすくれていたが、帰りのトーマはご機嫌だった。


「また一緒に行こうぜ、うまいおやつ食えるし」

「いいよ〜」


 やはり案内のメイドを完全無視でエスネッサと二人かのように話しているのが微妙だが。





 エスネッサは終始穏やかに談笑していたスレイを思い返す。


 やさぐれ邪神トーマや、荒れ放題の冥界を放置して地上で気ままに暮らしているエスネッサを気にも止めずに、味方でいると断言する。さすがトーマの父ちゃん、なかなか異常な人物だった。

 まああれは、スレイ・ベルニクス本人もとっくの昔に諦めて、人間社会に何も期待してないからなんだろうな。と、エスネッサは心の内で結論づけた。

 無力な不老不死者の人生は想像を絶するものがありそうだ。スレイにとっても、トーマという拠り所を得たのはきっとしばらくぶりの人間性の回復だったに違いない。

 精々のんびりと余暇を楽しんでもらいたいものだ。


「ああ、たぶん向こうもそう思ってんのか……」

「なにが?」

「いや、なんでも」


 自分もエスネッサという人生を余暇として、好きに楽しめたら良い、そう思えた。


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