092 ある土産物店店主の回想③
「おい、タイマンなんてやってられっか!囲んでボコって、そのあと裸にひん剥いてやらぁ。お前ら一斉にかかれ!」
金髪ヤンキーはそこそこ上の地位にいるのか、リーダーを差し置いて周りの不良たちに命令した。
「俺は見学させてもらうわ。お嬢さん、危ないからこっちで一緒に応援しようぜ」
リーダーが美人さんを誘って公園内の端っこにあるブランコに向かった。座って観戦するつもりだろう。美人さんは女の子…たしかツバサちゃんって言ってたかな?…に目を向けたけど、その子はあっさりとこう言った。
「多分、その人に付いていっても大丈夫だと思うよ。逆にこいつらに人質にされないように、そこで守ってもらったほうが良いかもしれない」
「分かったわ。それじゃあツバサちゃんも頑張ってね」
美人さんはリーダーと仲良くブランコに腰かけて応援モードに入ったよ。いやいや、1対11なんだよ。どう考えてもヤバいでしょ。
不良たちはお互いに目配せをして、襲いかかるタイミングを計っているようだ。
女の子は平然と不良たちの輪の中心に立っているけど、なんという胆力だろう。普通は怯えて、しゃがみこむ場面だと思うぞ。
そしてついに三人の不良がほぼ同時に掴みかかっていったのだが、女の子に近付いた瞬間、なぜか前のめりに転んだよ。女の子は地面に手をついた男たちに対して、前蹴りを順番に叩き込んでいった。これで残りは8人。
殴りかかろうと右手を振り上げて近づいた男もいたのだが、こいつもいきなり地面に膝をついた。当然のことながら女の子の蹴り技で気絶したよ。これで残り7人。
金髪ヤンキーが命令した。
「お前ら、一斉にかかれ!」
…って、命令した金髪ヤンキー本人は傍観するつもりのようだ。
残った六人が一斉に輪の中心に向かっていったのだが、やはり同じ状況になった。地面に手をつくか、膝をつくかは人それぞれだが、女の子のもとまでたどり着くものは一人もいなかったよ。これって、いったいどうなってるんだ?
そして残りは金髪ヤンキーのみ。
「お前、なんなんだよ。まさか魔女なのか?」
「だとしたらどうする?」
金髪ヤンキーは恐怖の色を顔に浮かべて、逃げ出そうとした。
「逃がさないよ」
まさにデジャブだよ。さっきと全く同じように、女の子の拳によって金髪ヤンキーが10メートルくらい吹っ飛ばされた。
「終わったよ~。でも準備運動にもならなかったよ。さて、それじゃ本命のお兄さんとやりますかね」
女の子が右腕をグルグル回しながらブランコのほうへと近付いていった。
「その前にあいつらの手当てを先にしたいんだが…」
リーダーのセリフを聞いた美人さんが立ち上がって、倒れている不良たちの近くまで行って、右手をかざしていた。
「あのマイって女は、いったい何をしてやがるんだ?」
「あれ?マイさんってば自己紹介したの?じゃあ僕もしておこうかな。僕の名前はツバサだよ。マイさんがやってるのは治癒魔法をかけてあげてるだけだよ」
「ああん?あいつは治癒の魔女ってことか。そいつはすげぇや」
「でしょでしょ。それに高校生のときの話だけど、ナイフで刺されて死にそうになった人を助けたこともあるんだよ。すごいよね」
「そりゃ警視総監賞ものじゃないか?てか、それよりも『お前が倒してあの女が治療する』って、なんだか怖いコンビだな」
「褒められると照れるよ」
「褒めてねぇ!」
美人さん…マイさんという名らしい…が和やかに会話するリーダーとツバサちゃんのもとへと戻ってきた。
「ちゃんと手加減したみたいね。高度治癒が必要な人はいなかったよ」
「当然だよ。弱い者いじめなんてしないからね」
「いやいやお前も魔女だよな。何の魔女なのかは分からなかったが、おそらく戦闘系の魔法を使えるんだろう?」
「今から戦う相手に手の内をしゃべるわけないじゃん。殺すよ」
ツバサちゃんの目が細められ、リーダーを睨んでいるのが遠くからでも分かるよ。本当に殺すつもりなのか?いや、まさか…。




