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ひっそりと生きたい最強女子の転生譚  作者: 双月 仁介
第2.5章 閑話集
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093 ある土産物店店主の回想④

 意識は回復したものの、まだ立ち上がれない手下たちに向かってリーダーが言った。

「お前ら、そこでこの子と俺のタイマンを見学してろ。絶対に手を出すんじゃねぇぞ」

「お兄さん、なんか武術をかじってそうだね?」

「さっきのお前の言葉をそっくり返すぜ。自分の手の内を教えるわけがねぇ。あ、そうだ。開始の合図はマイが出してくれや」

 マイという名の美人さんがにっこりと微笑んだのと対照的に、女の子がいらっとしていたのが面白い。

「おい、馴れ馴れしいぞ。気軽に呼び捨てすんなや。まじで殺すぞ」

「ツバサちゃん、大丈夫よ。お二人とも準備は良いですか?…それでは始めっ!」


 ああ、女の子に伝えたい。あのリーダーが古流柔術の達人だってことを。

 柔道と同じように投げ技や関節技があるのはもちろん、柔術には打撃技もあるんだよ。なにより、あの体格差で組まれたら一巻の終わりだよ。

 リーダーは両手を斜め上に出した構えをとっているが、女の子は右(こぶし)を握って腰に当て、左手を心臓の前に突き出している。空手だろうか?

 …っと、突然リーダーが顔を(しか)めた。何かに耐えるような表情だ。

 女の子は縮地(しゅくち)と言っても過言ではないくらいのスピードでリーダーに接近し、右手で正拳突きを出したようだ。というか、離れたところから注視していたからこそ分かったのであって、近くだったら多分見えなかっただろうな。

 でも体格差を考えるとパンチが通用する相手とは思えない…。


 ところが次の瞬間、私は目を見張った。物陰に隠れているのも忘れて、思わず身を乗り出したよ。

 女の子のパンチをリーダーが両腕をクロスした状態でブロックしていたのだが、なんと踏ん張っているリーダーの両足が後方へ30センチくらいずれたのだ。あり得ない…。

 2メートル近い身長を持つリーダーは体重も100kgは優に超えているはず…。対して女の子はどう見ても40kgくらいに見える。

 作用・反作用を考えるとパンチを出した女の子のほうが逆に跳ね飛ばされる体格差だ。


「おいおい、めちゃ重い攻撃だな。てか、攻撃が当たる瞬間までは俺の身体も重くなっていたぜ。これがお前の魔法ってことか?」

「さてどうだろうね。どうする?降参する?」

「馬鹿言え。まだまだやれるぜ」

 リーダーがなんとか女の子を捕まえようと両手を振り回しているけど、小柄で敏捷な女の子を捕まえられない状態が続く。ただ、女の子のほうもリーダーの(ふところ)へ入り込むことが難しいようで、攻めあぐねているみたい。

 捕まった瞬間、勝敗は決する。手に汗握るすごい攻防だ。周りの手下たちも呆然と観戦しているよ。私もだけど。


 そしてついにリーダーの左手が女の子の服にかかった。間髪入れず引き寄せてからそのまま投げをうつリーダー。くっ、これで終わりか…。

 投げられた女の子は空中に放り上げられた。上空4~5メートルってところか。いやいや、この光景もおかしいだろ!

 さらに次の場面がまた目を疑うものだった。女の子は上空で体勢を整えると、ゆっくりと地上に降りてきたのだ。

 って、なんだよ、あれ。いくら体重が軽くても重力加速度は同じなんだから、月面でジャンプしたときのようにゆっくりと降りてくるなんてこと、到底あり得ないだろが!

「体術だけでは体格差もあってお兄さんには(かな)わないか…。仕方ないね。もう終わらせるよ」

 その女の子の言葉と同時にリーダーが地面に両手をついた。苦悶の表情を浮かべて何かに耐えているかのようなリーダー。

 時計を見ていなかったから正確には分からないが、1分くらい()っただろうか。リーダーがついに降参した。

「ま、参った。お、俺の負けだ。ま、ま、魔法を止めてくれ」

 女の子がにっこりと笑った次の瞬間、リーダーは地面に突っ伏した。はぁはぁと荒い息を吐いている。

 どうやら警察への通報は不要になったみたいだな。私もこっそりと安堵の溜め息をついたよ。


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