091 ある土産物店店主の回想②
「おいおい、こりゃいったいなんの騒ぎだ?」
一際体格の良い若い男がこの場に現れた。短髪で精悍な顔つきだが、身長は2メートル近い。この不良グループのリーダーだ。私を含めた野次馬たちの間に緊張が走る。
配下を5、6人引き連れてきたため、この場にもともといた不良たちを合わせると10人以上の集団になった。
すると弟さんが返答した。物怖じしない様子は見てて小気味良い。
「そこに転がってる金髪ヤンキーからしつこくナンパされたからぶっ飛ばしたよ。集団で囲まれたうえ、後悔させてみろってタンカ切られたからね。これは正当防衛の範囲内だよね」
「観光客か?」
「そうだよ。さっき来たばかりだけどね」
それを聞いたリーダーは気絶している金髪ヤンキーの胸倉をつかんで往復ビンタを始めた。
「…っ、ぐうぅ。あれ?兄貴?へぶっ、痛っ、や、やめて…」
目覚めてもまだビンタを止めないリーダー。金髪ヤンキーはすでに涙目だ。
「おい、観光客には手を出すなって言っておいたよな?」
「す、すみません。許してください。あの女があまりにも美人だったもので…」
これを聞いたリーダーが弟さんの横に佇んでいた女性に気付いたのだろう。驚いた顔になっていた。まぁあれだけ美人なら驚くのも無理はない。
立ち上がったリーダーは弟さんに向かい合ってから頭を下げた。
「怖がらせたようだな。謝罪する」
「ああ、良いよ。割といつものことだし」
…って、いつもなのかよ!心の中でツッコむ私だった。いや、きっとツッコんだのは私だけじゃないと思う。
「だが、手下がやられて『はい、そうですか』じゃすまねぇんだわ。この一帯を仕切っている俺たちのメンツってものがある」
「ふーん、どうするの?集団でリンチでもする?それともお兄さんとのタイマンかな?」
「とりあえず場所を変えるか。おいっ!警察には通報するなよ!ちょっと話し合いをするだけだからな」
後半は大声でしゃべっていたが、これは見ていた私たちへの警告だろう。私は携帯電話を引っ掴んで、ぞろぞろと移動する集団のあとを追った。あの姉弟に危害を加えるようなら、さすがに警察に通報するつもりだ。たとえ後で報復されようとも。
ある公園に入っていった観光客の姉弟と不良グループ構成員たち(リーダーと金髪ヤンキー含む手下が11名)。
もともと公園にいた家族連れや遊んでいた子供たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。私は物陰からこっそりと観察し、いつでも110番通報できるように携帯電話を握っている。
「さて、どう始末をつけるかな?」
リーダーの言葉に金髪ヤンキーが即座に答えた。
「兄貴、姉のほうは皆で輪姦して、弟のほうはボコボコにしてやりましょうや」
「ふむ、こんなことを言ってるがどうする?」
リーダーが姉弟に問いかけると、弟さんが信じられないことを言った。
「誰が弟か!僕は女だよ!てか同い年の友達同士であって、血縁関係じゃないよ!」
は?女?同い年?隠れてこっそり見ているだけの私ですら混乱した。当事者のリーダーはもっと混乱してるだろうな。
「くっくっく、お前、こんな小さな女の子に気絶させられたんだとよ。二度と表を歩けねぇな」
金髪ヤンキーが真っ赤になって俯いた。そりゃ恥ずかしいよな。
「さっきは油断していただけで、そうでなけりゃ俺が負けることなんてあり得ませんぜ。兄貴頼んます。もう一度タイマンで勝負させてください」
「うーん、この子が勝負してくれるって言うなら良いけどよ。頼む相手が違うだろが」
リーダーが目線を弟さん…じゃなかった妹さん…でもないか、見た目が中学生の女の子のほうへ向けた。
「そうだなぁ。土下座してお願いするのなら、もう一度相手をしてやっても良いよ」
女の子が金髪ヤンキーをめっちゃあおっていた。思わず笑いがこみあげてくる。
「だとよ。どうする?土下座すっか?」
屈辱でブルブル震えている金髪ヤンキー。面白そうに見ているリーダー。ニヤニヤと悪い笑みを浮かべている女の子。仏様のような笑みを浮かべている美人さん。
なんとも異様な空間が生まれていた。




