089 加藤ハヤト-2④
いつの頃からか御前様のレイカお嬢様に対する態度が軟化した。
ただ単に孫に対しての情に絆されただけなのか、それともレイカ様の魅了魔法が成功したのかは不明だ。
俺としては、屋敷に帰省したレイコお嬢様への御前様の態度が以前と全く変化していないことに安堵している。もしもレイコお嬢様に冷たくなっていたのなら、御前様がレイカ様に操られている可能性を考慮したかもしれない。
「加藤さん、おじい様とレイカさんは随分仲良くなったみたいね。私も嬉しいわ」
「はっ。レイカお嬢様は今ではこの屋敷から都内の大学へ通われているくらいでございます。御前様とのご関係は大層良好かと…」
「魅了魔法を使った形跡はあるのかしら?」
「私を含む使用人への魔法使用は確認できておりますが、御前様への魅了魔法は確認できておりません。申し訳ありません」
レイコお嬢様が屋敷に帰省された際にこっそりと問いかけられたことなのだが、実際よく分かっていないため曖昧なことは言えない。
「あなたは魅了魔法をかけられた際、何らかの影響は受けていないの?」
この質問にはどうお答えするか悩んだ。正直に俺の能力を明かすべきか?
「レイカ様のことは好ましく感じておりますが、命を投げ出すほどではございません。これは百地総隊長も同様であると見受けられます」
俺の持つ魔法回避能力というのは転生者として与えられたチート能力だ。やはり秘密にしておこう。レイコお嬢様は魔女ではないから別に明かしても構わないんだけどな。
「そう。レイカさんの魔法は本当に魅了魔法なのかしら?精神系の魔法であるのは確かでしょうけど、あまり強力なものでは無いように感じるのだけれど…」
「はい。その件につきましては私も同意致します。国を傾かせるような魔法には思えません」
レイコお嬢様は右手の人差し指を頬に付けて、しばらく考え込んでいた。そして俺への指示を下された。
「加藤さん、三番隊に対して罪の無い人間を暗殺するような指令が下された場合、分かっているわよね?」
このときすでに俺は『三番隊』の隊長職にあったので、悩むこともなく即答できた。
「もちろんです。レイコお嬢様の御心のままに」
レイコお嬢様はにっこりと微笑んでから最後にこう言った。
「私は自分の中の正義を貫きたいと思っているのだけれど、もしもそれが間違っているとあなたが感じたなら、諫言して貰えると嬉しいわ。私の指令を絶対のものとは思わず、あなた自身の正義と突き合わせてね」
俺の中のレイコお嬢様に対する忠誠心がさらに増した瞬間だった。お諫めすることを推奨してくるような上司が果たしているだろうか?
本当に素晴らしいお方だ。
更新に時間がかかってしまいましたが、これで第1章の状況につながったと思います。
魅了魔法を阻害しない魔法阻害装置の普及がいよいよ始まりますが、実はレイコさんの魅了魔法は阻害されてしまいます。なぜならレイカさんとレイコさんの魔法は異なるので…。




