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031 高月レイコ①

 私の名前は高月(たかつき)レイコ。天涯孤独な身の上だ。

 母親は私が6歳のときに病死し、父親はつい最近亡くなった。しかも獄中死だ。


 父ロクロウはある空手道場の師範だったのだけれど、街中の路地裏で襲われそうになっていた若い女性を助けた際、その犯人の一人を誤って殺してしまったのだ。

 女性を強姦しようとしていた犯人は五人もいたため正当防衛は認められたものの、死んだ男の素性が悪かった。この国の警察官僚を親に持つというバカ息子だったのだ。

 結局、過剰防衛ということで実刑を喰らった父は、刑務所の中ですぐに謎の死を遂げた。まさに不審死だ。この死自体にも大いに疑問が生じているのだけれど、(ろく)に調査もされなかったらしい。

 父は報復のため消されたのだと私は確信している。証拠は何も無いけれど…。


 両親は駆け落ち同然の身の上だったらしく、誰一人として親戚のいない私は児童養護施設に送られた。母のほうはそれなりの家庭のお嬢様だったらしいのだけれど、母の実家の人間は誰も名乗り出てはこなかった。

 このとき中学三年生だった私は、これらの要因で壮絶ないじめにさらされることになる。父親が犯罪者の孤児なんて、いじめの標的にならないほうがおかしい。

 それまで仲の良かった友人たちも離れていき、学校では孤独を味わうことになった。しかも私物を隠されたり壊されたりは日常茶飯事で、ときには暴力を振るわれることもあった。女子からのみだったのが不幸中の幸いだったけど…。

 私の容姿が普通以上に整っていることも、女子たちにとってはムカつく要因だったのだろう。


 痛ましそうに同情の視線を向けてくるクラスメイトもいたのだけれど、助けてはくれなかった。見て見ぬふりは、いじめに加担しているのと同じだ。

 しかし、それも仕方ないだろう。かばったがために自分がいじめの標的になるというリスクを(おか)す人はいない。


 いじめの首謀者は、中学生でありながらケバケバしい化粧をいつもしているヤンキー風の女だった。噂によると半グレの彼氏がいるそうで、逆らった者には制裁が加えられるそうだ。

 その女の取り巻きは三人いて、心の(いや)しさを体現したような(みにく)い顔をしていた。要するに、女ボスの引き立て役だ。

 学校の先生は見て見ぬふりで、事なかれ主義を(つらぬ)いている。私が自殺でもしない限り、批判にさらされることはないと確信しているかのようだ。


 そして現在、私は学校の裏山にある壊れかけの山小屋みたいなところに連れ込まれている。

 女ボスは風属性の魔法を使える魔女であり、その暴力で学校に君臨していた。もちろん、学校内には魔法阻害装置(ジャマー)が稼働しているため、魔法は使えない。

 しかし、地方都市であるこの(あた)りは都会とは違い、少し郊外に()れるだけで魔法阻害装置(ジャマー)の影響範囲からは(はず)れてしまうのだ。それがこの女の増長に繋がっていたのだけれど…。

 そして、この山小屋のある一帯も魔法阻害装置(ジャマー)の影響範囲内ではない。おそらく、私を魔法で痛めつけるつもりなのだろう。まさか殺されることは無いと思うけど…。


 山小屋の中には女ボスとその取り巻きの三人、そして私がいる。取り巻き二人に両腕を(つか)まれている状態で、逃げ出すこともできない。

 …っと、壊れかけの扉がきしんだ音をたてて開いた。

 一瞬、助けが来たのかと期待したのだけれど、状況はさらに悪化することになった。

「ケンちゃん、遅かったじゃない。もう少し遅かったら、こいつを魔法で切り(きざ)んでやるところだったわよ」

「おいおい、そんなもったいないことすんなよ。こんな可愛い子、一人一万円で売春させれば大儲けだぜ。いや、二万出すって奴もいるかもしれねぇな」

 こいつが女ボスの彼氏の半グレ野郎か。

 私は男を(にら)みつけてやった。というか、それくらいしかできることが無い。


「さぁーて、それじゃあ味見をさせてもらうとするか。お前らしっかり押さえつけておけよ」

 ズボンのベルトを緩め始めた男を見て、私は心の底から絶望した。まさか犯される?どう考えてもその流れしかない。

 制服姿の私のブラウスのボタンを慣れた手つきで一つ一つ(はず)していく男…。無駄に丁寧だ。まぁ破かれるよりはマシだけど…。

 スカートにも手をかけてずり降ろそうとしてきた男に、私は心の中で『()めて!』と念じた。口に出すのは女ボスに屈したようで嫌だったから…。

 そのとき、私の中で何かがカチリと()まった気がした。


 突然、男の動きが止まった。スカートに手をかけたまま微動だにしない。

「どうしたの?ケンちゃん?」

 女ボスも戸惑っているようだ。私もなぜ男が動かないのか(わけ)が分からない。でも試しに男に命じてみた。

「私のスカートから手を離せ」

 男は私の命令に従った。なので、さらに命じた。

「私の腕を押さえている女たちの顔を殴れ」

 この命令もしっかりと実行された。悲鳴を上げて山小屋の隅に倒れ込む二人の取り巻きたち。


「ど、どうしたのよ、ケンちゃん。なぜこの女の言うことなんか聞いてるのよ」

 女ボスもパニック状態だ。しかし、男は(うつ)ろな目で突っ立っているのみだ。どうやらこの男は私の命令に従っているらしい。何がどうなってこのような状態になったのかサッパリだけど、このチャンスを(のが)すつもりは無い。

「今しゃべっていたその女を私が良いと言うまで殴り続けろ」

 男は躊躇(ちゅうちょ)なく女ボスの顔を殴り始めた。何十発と殴り続け、鼻血を噴き出しながら顔の形が崩れていくのが分かる。息も絶え絶えという感じになったので、停止命令を出した。

 女ボスはもはや魔法を発動するどころではないだろう。ほとんど失神状態だ。

 残ったもう一人の取り巻きは小屋の隅でブルブル震えていた。当然、そいつの顔も一発殴っておくように男に命令した。


 さて、この事態をどう収拾しよう?

 どう考えてもこれは復讐の好機だ。私は覚悟を決めて男に命令した。

「この女たち四人全員、首を絞めて殺しなさい。一人も逃がさないようにね。そのあとは私に命令されたことは忘れて、自宅に帰ってから遺書を書いて自殺しなさい。遺書にはこいつらを殺したことを自白すること。それでは行動開始」

 意識のあった取り巻きたちは泣き叫んで命乞いしていたけど、今までのいじめがそれで帳消しになるとでも?

 女ボスのほうはすっかり静かになっている。すでに死んでいるのかもしれない。まぁ、それならそれで構わないけど…。


 男は対象を一人も逃がさないように淡々と殺していく。まるで機械だ。

 それにしても、私のこの力は何なのだろう?おそらく魔法なのだろうけど、こんな魔法は聞いたことがない。明日、図書館で調べてみようと心に決めた私だった。


 ダークヒロインとも言うべき『お嬢様』高月レイコの登場です。


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