032 高月レイコ②
翌日の学校は大騒ぎだった。なにしろ学校裏の小屋から女子中学生の死体が四つも見つかったのだ。
しかも犯人は死体の一つである女子中学生の彼氏であり、殺害を自白した遺書を残してすでに自殺していた。テレビや新聞などの報道によると、警察は痴情のもつれとみて捜査しているらしい。ただ、どうやら被疑者死亡のまま書類送検となって一件落着しそうだとのこと。
まぁ、魔法で操っていたなんて想像もできないだろうしね。
私の学校での立場には変わりはない。いじめグループの四人が全員死んだけれど、それでいじめが無くなるわけではないのだ。でも、私を率先していじめていた四人が死んだことで、直接的な暴力は収まった。今では無視されるくらいで、私にとっては平穏な毎日になったため快適なことこの上ない。
私は自己評価だけど、学業優秀で、運動能力も高く、容姿も優れていると自負している。本来ならスクールカーストの上位に君臨すべきスペックの持ち主なのだ。
なので、次第に少しずつ話しかけてくれるクラスメイトも増えてきた。まだまだ忌々しそうに睨みつけてくる女子もいるけどね。
なお、図書館で魔法のことを調べて分かったのだけれど、私の魔法はどうやら魅了ではないかと推測できた。確証はないけれど…。
なにしろ、魅了魔法の持ち主はほとんど存在しないみたいなので、詳しいことが分からないのだ。過去数千年の世界の歴史を見ても、数人いるかいないからしい…。
魔法阻害装置の影響範囲外で色々と実験してみたのだけれど、判明したのは以下の通りだ。
・対象をピンポイントで目視した状態でなければ発動しない。
・不特定多数への発動はできない。
・魔力の許す限り、何人でも魅了状態にできる。
・女性には魔法がかからない(魔法対象は男性限定)。
・魅了時間は約5時間。ただし、魅了が解けたあと、魅了状態だったときの記憶は(基本的には)思い出せない。
・同じ対象者に何度も魅了をかけていると、洗脳状態になり、魔法無しでも魅了状態になることがある(個人差あり)。
・魅了状態になった者は(基本的に)命令を拒絶できない(これも個人差あり)。
つまり、あの半グレ野郎が私の命令を素直に聞いてくれたのは幸運だったということになる。本当に良かった。
あと、私の魔力量では一日に魔法発動できる回数は3回だ。つまり、毎日15時間は忠実な下僕を持てるということになる。まぁ、そんなことはしないけれど…。
こうして私は中学校卒業までの平穏な日々を手に入れることができた。
高校は奨学制度のある私立高校を受験し、その入試テストで高得点を達成した結果、授業料の支払い免除を勝ち取った。ただし、生活費はアルバイトで稼ぐしかないけどね。
ところが、ここで人生の転機とも言うべき事態が発生した。まさに青天の霹靂だ。
私の母親の父親(つまり、私の祖父)だと自称する人物が現れたのだ。しかもこの人物、日本の大財閥の総帥で政財界にも大きな影響力を持つという、まさに黒幕と呼ばれる大物だったのだ。
ただ、私との初対面は最悪だった。御前様と呼ばれるその男の前に連れていかれた私は、その男から酷い言葉をかけられたのだ。
「お前が儂の孫か。儂の最愛の娘を奪った憎むべき男の子供だが、世間体もあることゆえ面倒だけは見てやろう。だが勘違いするな。お前があの男の遺伝子を受け継いでいる限り、儂がお前を認めることはないということをな」
ふん、金さえ出してくれるなら、私は別に構わない。それに屋敷内で稼働している魔法阻害装置さえ停まってしまえば、そのときは迷わず魅了にかけてやる。そう決心した。
そして、その機会はほどなくして訪れたのだった。
屋敷の大規模なメンテナンスがあった日、電気工事の業者の手違いで屋敷内全てが停電した。もちろん、すぐに非常用発電装置が起動して、電力供給は元に戻ったのだけれど、ほんの10秒間だけ魔法阻害装置が停止してしまったのだ。
そして私にとっては運の良いことに(祖父にとっては運の悪いことに)、ちょうど祖父の執務室に私が呼び出されていて、高校の期末試験の結果を報告していたところだったのだ。
照明で明るかった部屋が一瞬で暗くなり、私は停電が発生したと判断した。即座に祖父に向かって魅了魔法を発動したのは言うまでもない。
すぐに復旧した電力で魔法阻害装置は再稼働を始めたものの、すでにかかった魅了は5時間経過しないと解けることは無い。
「今から私と一緒に郊外の別荘へ出かける。もちろん、複数ある別荘のうち、魔法阻害装置の無い別荘へだ。そう手配しなさい」
祖父は虚ろな目で執務机の上にあったボタンを押して屋敷の筆頭執事を呼び出し、別荘へ出かける旨を抑揚の無い声で伝えていた。挙動が少し怪しいけれど、祖父の言うことは絶対であり、使用人ごときに反論は許されない。
それと同時に、私が一週間ほど学校を休むということを学校へ連絡するよう、筆頭執事に依頼した。私は祖父から邪険にされようとも、この屋敷の中では『お嬢様』なのだ。執事は私の命令を忠実に実行する義務がある。
こうして私は祖父を洗脳するための準備を整えることができた。
なお、一時期、父を刑務所内で殺した犯人は祖父(の手の者)ではないかと疑念を抱いていたけれど、どうやらそれは穿ち過ぎだったらしい。
ならば、父が誤って殺したバカ息子の父親(警察官僚)が手を下したのに違いない。祖父を操ることさえできれば、こいつに復讐することもできるだろう。父の敵討ちだ。今から楽しみでならない。




