3話 そこにマニューバはある!
シュラの親友――キラが商会を起こして、1ヶ月が過ぎた。
順調にサンドイッチとマヨネーズの売り上げは伸びており、マヨネーズを他の街へ運ぶ輸出も始めたようだ。
あまり日持ちしない調味料だが、冷蔵ポッドに入れてマニューバで運べば数時間で届けることができる。
このように、マニューバで荷物を運ぶのは、ここら辺ではごく普通で生活の一部。
車はあるのだが、道がない。樹海に道を切り開いても、すぐに木で覆われて、元の樹海に戻ってしまうのだ。
地上が使えなければ、空を飛ぶしかない。
「ちょっと隣町まで頼むよ」
「まかしとけ~」
マニューバに乗っているナイツに手渡しで荷物が預けられる。そんな会話は日常茶飯事――もはや自転車感覚。
ちょっと多めの荷物を運ぶ時は、後ろに曳航グライダーを装備することもある。車でいうトレーラーだ。
航空機の運営方法にも法律などはないので、落ちても事故っても、全て自己責任。
自転車でコケて怪我をしたぐらいの感覚だ。
シュラは親友の商売成功に喜びながら、自宅で作業をしていた。彼が工具を弄っているのは、父親の部屋。
キラの商売が上手くいっているので、契約金の金貨5枚(100万円)も入ってきた。
各種の発明をして、キラの商会で扱ってもらうためだ。彼が持っている謎の記憶が、発明の役に立つ。
幸い――彼の父親も工作好きだったので、工具等は全て揃っている。
ところ狭しと並んでいる工具や加工機械の山。そして本棚に入っている多数の本――これも一財産だ。
小さな頃から余り入れさせてもらえなかった部屋だが、今は自由に出入りができる。
(ちょっと嬉しいけど、こんな感情は父さんに悪いだろうか?)
彼は父親のことを尊敬しているし、育ててくれたことを本当に感謝している。
その感謝とは裏腹に、妙な隔たりを感じたりすることがあったのも事実。正直な話――シュラと父親は全く似てないのだ。
父の知り合いに母親や昔のことを聞こうとすると、皆が口ごもりよそよそしくなるので、薄々は感づいていた。
(やっぱり、そういうことなんだろうか? 遺品を探せば、何か裏付けが出てくるかもしれない)
部屋には父親の遺品が放置されたままだ。そろそろ落ち着いたので、遺品を整理しようかと思っている。
カチャカチャと工具を弄っていると、勢いよく玄関の扉が開いた。
「いるか~!」
「いるけど、商会の主が油を売ってていいのかい?」
「これも、大切な仕事さ!」
商売が成功しているせいか、彼の身なりもかなり良くなっている。
基本的には変わっていないが、布地に良い物を使ったり、凝った刺繍が入っているものを着たりしている。
彼曰く――それなりの恰好をしてないと、舐められるらしい。
「商売は順調?」
「ああ、順調も順調! ウチの親父も目を白黒させてるよ」
「親父さんには、俺のことを言ったのかい?」
「言うはずないだろ? そんなことを言ったら、親父がここへ押しかけてくるぜ」
「もう、キラと契約を交わしてしまったから、他の商会と契約を結びはしないけど」
「もっと高い金額を提示してきてもか?」
彼は腰に手をあてて、それを心配しているようだ。
「別に、食べるに困らない金額があればいいよ」
「そうだな……お前はそういう奴だった」
キラがやって来て、シュラと肩組をする。
(俺は、これがあまり好きじゃないんだけど……)
やたらとスキンシップを取りたがる男がいるが、シュラはそれが嫌いなのだ。
どうせ抱きつかれるなら、美女の方がいい。彼も男である。
「それはそうと――ウチの開発部長さんは何を作っていたんだ?」
「これだよ」
シュラが見せたのは、ハサミのような器具。ハサミとは違い先が平らになっている。
持ち手の所にフックがついており、それを引っ掛けることで――チューブなどを挟んで固定することができる工具だ。
「へぇ~」
「管虫管を外したり交換する時に内容物が駄々漏れになっちゃうだろ? 予めこれで挟んでおけば中身が漏れない」
この世界にゴム製のチューブなどは存在しない。その代わりを担っているのが、管虫管だ。
この世界で管虫の需要は多い。子供達の恰好の小遣い稼ぎの的になるし――産業がない町では、管虫管の生産だけで食っている所もある。
森に行けば至る所に無尽蔵にいるので、材料には困ることがない。
「こりゃ、機械の整備やってるやつらに売れるぜ。ハサミを作っている所に頼める」
「ハサミより細くしなやかに作らないとダメだよ。それに、すぐに複製を作られちゃうかも」
「構うことはないさ。もっといいものを作りゃいい」
この世界に特許はなく複製は作られ放題。実際、サンドイッチのコピーは既に出回っているのだ。
「ははは、パンに物を挟むのはできても、マヨネーズをどうやって作っているかは解らねぇだろ」
キラの言う通り、マヨネーズの複製品は未だに見かけない。
今は独占状態の商品でも、そんなに難しい製造法ではないので、いずれはコピーが作られてしまうだろう。
「シュラが最初に作った可変レンチも良い売上げになってるぜ! 輸出も始めた」
可変レンチというのは、ナットやボルトを掴むところが可変式になっていて、色々な規格に対応できる物だ。
この世界には、ミリ(メートル)規格やインチ規格なんて目じゃないぐらいの、多種多様な規格が存在するので、1本で賄えるシュラのレンチは大ヒット商品になっているのだ。
「でも――キラの商売が上手くいっているようでよかったよ」
「まぁ、ここで気を抜くわけにはいかないけどな」
キラも、あっという間に転落した商会を何軒も見ているのだ。
「幸福と不幸ってのは、撚った縄のように絡み合って、常に背中合わせなんだよ」
そんな言葉が、シュラの頭の中に浮かぶ。
「う~ん、本当にそうなんだよなぁ……浮かれた所を足元掬われて――はい、それまでよってのが結構多いぜ」
「うん」
キラの商会ではマキも働いている。主に女性用の商品を考えているらしい。
「いや、確かにマキの作るものは突拍子もない物が多いんだが――たまに凄く良い物があるんだよ」
「そうだね。俺達には考えつかないような組み合わせを考えたりするし」
「まぁその分、暴走されるとまずいんで、手綱はしっかりと握らないとダメなんだけどな」
キラは腕を組んで唸っている。
マキは強引にシュラの唇を奪い恋人宣言した後、そのまま押しかけ女房になってしまうのかと思われたが――。
今のところは、押しかけてきてはいない。彼女も生活を安定させる為に必死なのだ。
(彼女のことは好きだが、俺にはやりたいことがある。果たして、それに彼女を付き合わせていいのだろうか? もう一度、2人で話し合ってみよう)
悩むシュラであるが――キラの商会が順調なら、彼にも金が入ってくる。
「余裕ができたので、父さんの遺品整理でもしようかな……」
彼は作業机の前で、工具をいじりながらつぶやいた。
------◇◇◇------
天気の良い日。シュラは窓を開けて、父親の遺品の整理を始めた。
マキと一緒に住むことになれば、彼女の部屋も用意しなくてはならない。
(俺は父さんの部屋を貰って、俺の元部屋をマキに使ってもらおう)
そして昨晩やって来たマキと、蛍草の放つ薄緑色の明かりの下――小さなテーブルを挟んで今後について話し合った。
「ひっどーい! 私の言ってることを本気にしていなかったのね?!」
「いや、本気なのは理解しているんだけど、俺の先が見ない状態で一緒に住むってのはまずいんじゃないかなぁ――と思って」
「だから! 私が働いて食べさせてあげるって言ってるでしょ!」
「だからそれは、男としてどうなのかぁ……と思ってさ」
「女1人を平気で犠牲にするぐらいじゃないと、本当の夢なんて叶えられないと思うよ?」
「君が、そんなことをいうの?」
シュラは頭を抱えた。好きな女の子だからこそ巻き込みたくはないのだ。
彼1人なら、何があっても自己責任。例え文無しになっても、森で管虫を食べれば、飢えて死ぬことはない。
「うちの父ちゃんなんて、いつも革命! 革命! って言っているけど、母ちゃんの尻もどけられないのに、革命なんて無理に決まってるじゃん! 私や母ちゃんを犠牲にまでして帝都へ向かったりする決意があれば、夢が叶う芽も出てくると思うけどぉ」
「マキのお父さん、とても良い人なのに、そんなことを言っちゃダメだよ」
「母ちゃんがいつも言うんだよ、できもしないことを言うんじゃない! ってね」
「でも、俺は諦めていないんだよ?」
「わかってる! だからぁ――私はここで、シュラのことを待ってるから戻ってきてね」
「うう……」
(ダメだ――マキが真っ直ぐすぎて怖い……)
彼は、マキの説得が無理だと悟った。
その夜、居間にあるベッドで一緒に寝る。真っ暗なベッドの上で裸で抱き合う。
彼女の肌とピタリと合わせて、お互いの体温を感じ合う。
(これで俺達は、夫婦ってことになるんだろうか? 小さい頃から一緒で手を握ったりしてたのに、裸で抱き合ったこの瞬間から夫婦ってのも、なんか変な感じ。でも、本当にいいのかな?)
「シュラ……」
「マキ――子供を作るのは、もうちょっと後にしよう」
迫ってくるマキをシュラが押し止め、放った彼の一言にマキが真顔になった。
「私、シュラの赤ちゃんが欲しいんだけど……」
「こんな状況で子供なんて作ったら、マキの親父さんに撃たれるよ」
「そんなこと、私とお母ちゃんがさせないから、大丈夫」
真顔でそんなことを言うマキを、なんとか説得した。
------◇◇◇------
――マキと肌を合わせた次の日。
彼女がキラの商会へ出勤した後、シュラは父親の部屋を整理することにした。
整理といっても捨てたりするわけでない。使わない物は物置に移動させ、そこにシュラの荷物を持ち込む。
彼が使っていた部屋をマキに明け渡すのだ。
彼女も少しずつ、この家に荷物を運び込むという。本格的に夫婦生活の始まりだ。
この世界には結婚式はない。正式にはあるが――余程の金持ちや地元の名士とかいう連中でなければ祝い事をしたりしない。
新郎は新しい家を――新婦は家の前に嫁入り道具を並べて、通行人にアピールするのだ。
その後は、親戚と近所の連中を集めてどんちゃん騒ぎ――。
そんな金はないし、シュラは天涯孤独なのだ。彼の父親も旅の末に、この街に流れ着いたと言っていたので、親戚もいない。
マキの嫁入り道具も服や私物が少々だけらしいし。
(でも、マキと一緒になるってことは、マキの一族が親戚ってことになるのか……)
そう考えると――流れ者の息子の彼も、この土地に根を下ろしたと実感するのだった。
梯子を使って、高い場所にある本の整理を行う。
古そうな本を取って、ペラペラと捲ると――それは日記だった。かなり前から、父親はずっと日記を付けていたようである。
「父さんの日記か……読んでもいいのかな?」
父に悪いと思いつつ、シュラもちょっと興味がある。それは――彼が生まれた時の話だ。
シュラの母親については彼は何も知らないのだ。彼を産んだ時に亡くなったということしか聞いておらず、写真も残っていない。
(父さんごめんよ)
シュラは、一番古そうな日記を漁り始め――該当するものを見つけた。
彼の父親が、この街へ流れ着いた時の日記だ。だがページを捲れど、シュラの母親についての記述が全くない。
ページを捲るうち、ある一文を見つけた。
『○月○日 森の中で赤ん坊を拾う。髪の黒い男の子だ』
『○月○日 森で拾った赤ん坊のミルクのため、街中の子持ちの家を訪ねて歩く。こんなに頭を下げたのは人生で始めてだ』
『○月○日 赤ん坊に名前がないと不便だ。悩んだ挙句【シュラ】と名づけた』
「ふう……」
彼もなんとなく、そう思っていたので、それほどショックではなかった。
だが日記を読めば、突然手元に舞い込んだ赤ちゃんに苦労した父の苦悩が読み取れ、彼は心の中で頭を下げた。
(やっぱりなぁ――なんとなくそんな気はしていたけど……)
そうなると、一体シュラはどこの誰なのか? ページを捲っても、出自を示すような物があったという記述はない。
とにかく、森の中へ放り出されていたようなのだ。
(捨て子ってことはこの街の誰かが捨てたのかな……)
シュラは自分が捨てられていた光景を思い浮かべるが、一番近い隣の街までも100kmは離れている。マニューバで飛んできて捨て子でもしない限り、それは無理だ。
そんなことをする人間はいないだろう――と思うし、この小さな街なら、噂の片鱗ぐらいは聞こえてきてもおかしくない。
(そんな話は全く聞かなかったんだよなぁ……。父さんが俺に話したい秘密って、このことだったのか……)
シュラは更に古い日記を漁り始めた。
沢山並ぶ日記、その一冊に一枚の写真乾板が挟まっていた。ネガなので、白黒反転しているが――。
「これは……!」
写っていたのは、木の根と草に覆われた、黒いマニューバの機体。
白黒反転しているので、実際の色は白、鳥が翼を広げたような逆ガル翼が見える。
白いということはセラミック製なので、失われた技術で製造された物だと思われる。
(でも、写真――ウチに写真機なんてなかったけど……)
その日の日記を読む。
『森の中でさまようこと、1週間。ギョヨの1つに未発掘のマニューバを発見した』
走り書きされた文字から、父が興奮している様子が見て取れる。
ギョヨというのは、深い森の中に無数にある小高い山のことだ。
タダの山や、昔の遺跡の名残だったりすることもある。それが果てしない樹海に埋もれて区別がつかなくなっているのだ。
マニューバを使って上空から見ても、まったく区別がつかない。
地道に調査するしかないのだが、危険を伴うこともあり、未発掘地域はとても多い。
(でも、未発掘のマニューバがあるってことは、鉱山クラスの未発掘遺跡になるけど)
日記を続けて読む――。
『大発見に俺の心は踊ったが――ここら辺はレッサードラゴンの巣になっており、命からがら逃げてきた』
森の奥だと、こういうこともありえる。
『ドラゴンに襲われたおり、カメラを完全に壊してしまった……修理不可能だ。乾板だけ箱に入れて逃げ帰った』
『だが、ナイツになる俺の夢を叶えられるかもしれない。いつか掘り出してやる!』
父親の日記には、救助された地点から割り出した、遺跡の正確な場所。
そして何回か試算された、機体の運搬、そしてレストアに掛かる費用の試算が行われていた。
(断念したってことは、予算が足らなすぎたんだろうな。見つけた機体を担保にすれば金はなんとかなりそうだけど、レッサードラゴンの巣じゃ……父さんの秘密って、これも含まれていたのか)
「だけど、レッサードラゴンをなんとかすれば、ここまで運ぶぐらいは、できるかもしれない!」
父親が残してくれた蓄えプラス、キラと交わした契約金。そして売上から入ってくるロイヤリティ。
(ドラゴンが巣を移している可能性もあるし、なんとかなるかも!)
彼の希望的観測とは裏腹に、ドラゴン亜種の寿命は数百年――その可能性は薄い。
数々の不安要素はあれど、シュラの心は決まった。運搬が不可能でも、憧れを一目見たい心が不安を打ち消した。
ナイツになる、などという漠然とした目標ではない。森の中で、憧れと希望のマニューバがシュラの訪れを待っているのである。
彼の期待は高まった。
――その日の夜。彼は、森のマニューバのことをマキに話した。
2人で夕飯を食べながら、今後の説明する。
「うん、いいよ」
シュラの話を聞いた彼女は、いつもの明るさを失ったまま頷いた。
「いいのかい? 俺の手持ちの金を全て使い切ると思うんだけど……」
「うん、シュラが決めたことだし。でも、それだけやってダメだったら、どうするの?」
「……こんな素晴らしい機会が巡ってきたのに物にできないんじゃ、俺には無理ってことになる。すっぱりと諦めるよ」
これ以上、彼女におんぶにだっこはできない。シュラは椅子から立ち上がると、マキを抱きしめた。
「でも、絶対に戻ってきてね。そうじゃないと、私はここで一人ぽっちになっちゃうから」
「解った……約束するよ」
親子2代で紡いだこのチャンスを物にできないのであれば、もはや縁がなかったと諦めるべきだろう。
データをなるべく集めて――その後は、彼の子供か孫に託すしかなくなる。
涙を流すマキを抱きしめながら彼は思う――。
(俺も、自分の人生と向き合わなきゃ。その時が来たんだ)
------◇◇◇------
――それから数ヶ月後。乾坤一擲、シュラの全財産を投げ打っての一世一代の大勝負が始まった。
先ずは、運送会社の親方を訪ねて、打ち合わせを行う。
駐機場には、潜水艦をひっくり返したような黒く大きな輸送機が浮ぶ。
普通のマニューバ約4機分の長さで、大量の荷物を積み、都市間を行き交い皆の生活を支える。
外側が黒いのは甲虫の甲殻を使っているためだ。
中心部分に円筒形の出っ張りがあり、そこに普通の無尽炉よりも貴重品な反重力炉を設置。
高価な反重力炉があっても、それだけでは浮かんでいるだけなので、普通の炉も使ってプロペラなどで推進力を得ている。
この輸送機は前後左右に4機のプロペラを備えており。それを使って超信地旋回ならぬ、超信空旋回も可能だ。
武装は上下に40mm連装砲が2門、空と下に睨みを利かせている。
「なにぃ? マニューバの発掘だって?!」
黒く大きな輸送機をバックにして、男が大声をあげた。
シュラの話を聞いて驚いたのは、運送会社の親方。禿頭で、左右に伸びた白い口ひげと顎鬚を生やした爺さんだ。
深緑色のツナギに、黒いベルトをしていて、シュラが発明した可変レンチを振り回している。
「場所は、ほぼ特定しているので、そこまで俺と荷物を運んで欲しいんです」
「正気か坊主? 行って、それからどうする?」
爺さんは訝しげな顔をしているので、信用していないようだ。
「マニューバを発見したら連絡をいれますので、引き上げを頼みたいんです。ここの大型輸送機なら可能でしょう?」
「そりゃ、マニューバの1機ぐらいどうってこたぁねぇが……」
腕を組んで顎に手をやり、乗り気じゃない爺さんに前金を渡す。
「本気か?」
金貨が入った袋を見た親方がつぶやく。
「ええ、もちろん」
「引き上げた後はどうする?」
「可能な限りレストアして、金が足りなくなったら働いて金を貯めます」
「それでも、間に合わんかもしれんぞ?」
「その時は――俺の息子か孫に託します」
その言葉を聞いた爺さんが、ニヤリと笑った。
「はっはっはっ! こいつは気に入ったぜ! 最近、お利口さんばっかりで馬鹿な奴がいなくてよぉ。退屈してたところだぜ」
爺さんは腰に手を当てて、大笑いをしている。
「それじゃ、引き受けていただけるんですか?」
「ああ、本当にマニューバを見つけたらな」
「ありがとうございます!」
この世界に通信機はない。マニューバによる郵便が最速の通信手段。
また近場や、マニューバ同士の通信には――シャッターがついた懐中電灯のような発光信号機が使用される。
この発光信号には強力な光が必要となるので家庭で使っている蛍草などは使用できず、電球が使われている。
信号にはモールス符号が利用され、これが頻繁に使われるため、子供の頃からの必須学習となっているのだ。
「マニューバのレストアもウチでやってやるぜ?」
「本当ですか?」
「ああ、つまらん仕事ばかりで飽々していたところだし、爺の老後の趣味ってやつよ」
シュラと爺さんの間に、ツナギを着た他の作業員が口を挟んできた。
「親方本気ですかい?」
「あたりめぇよ! それに発掘品のマニューバなんて、滅多にいじれねぇしな。わはは!」
発掘されるマニューバだが、その姿は千差万別。あまり同じ機体は存在しない。
一体どうやって使われていたのかも、一切不明なのだ。
この世界を飛ぶ数々のマニューバだが、オリジナルとなる発掘品と、コピーされ新造されたものとの間には、大きな違いがある。
機体下部に魔砲と呼ばれる武器が装備されている点だ。
この魔砲も複製するのには成功しておらず、使用するためには、操縦者――ナイツが魔力を有していることが必須となる。
魔力持ちで、しかも発掘品のマニューバに乗っているナイツは数えるぐらいしか存在しない。
白い壁の3階建ての営業所に移り、詰めの打ち合わせを行う。
机が沢山並び、事務方が仕事している片隅に、ソファーが置かれた応接室がある。
どんな夢みたいな話であろうが、前金で金をもらえば、運送会社としては仕事をせざるを得ない。
(でも俺の夢に一歩ずつ近づいていることを実感できる)
シュラは打ち合わせをしながらそう思ったのだが、レッサードラゴンのことは秘密にしている。
親方を騙していることになるのだが、ドラゴンのことを話すと断られるかもしれない。
そう思った彼は口をつぐんだ。
そして、お膳立ては揃った。
後は行動あるのみ。





