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22話 ドラゴンスレイヤー


 帝国の巡航艦がドラゴンに襲われている現場にシュラが駆けつけた。

 赤い巡航艦は2隻が重なっている状態で、高度を下げており、もはや手の施しようがない。

 シュラの目標は、ドラゴンただ1点のみ。


 彼は、眼の前の電影照準器(リフレクターサイト)に、ドラゴンの赤い鱗を入れると、引き金を引いた。

 閃光が走り、ドラゴンの前から何かピンク色のキラキラしたものが飛び散るが、ダメージを負ったようには見えない。

 無傷のように見えた巨大生物だが、突然やって来た白い鳥を敵だと認識したのだろう。

 身体に近づいたマニューバに牙を剥いて、噛み付くような仕草を見せる。

 その攻撃をスルリと躱し、シュラは一旦距離を取った。


「うわぁ! デカい口! レッサーとは比べ物にならないよ!」

『データがまったくないが、攻撃力も段違いのはずだ』

「ゼロが生まれた時代には、ドラゴンはいなかったの?」

『存在はしていたが、隔離された土地で細々と繁殖していたにすぎない』

「それじゃ人間の力が弱くなったので、侵略をしてきたのか」

『おそらく、そうだろう』

 

 シュラがひらりひらりと、ドラゴンの攻撃を躱していると、化物が大きな口を開けた。

 白く鋭い、硬そうな牙がずらりと並んでいるのが見える。


『シュラ、ドラゴンのブレスだ!』

「えっ!?」

 彼はリヒートに点火すると、錐揉みをしながら左下方へ躱した。

 ドラゴンの口から吐き出された短いブレスが、連発で白い機体を襲う。

 

「おっと! あぶない! あんな攻撃もできるのか!」

 吐き出された火炎の熱線が、チリチリと肌に伝わってくる。


『いや、多分ブレスの燃料切れなのだろう』

 ドラゴンは巡航艦に攻撃を繰り返したため、ブレスの燃料が枯渇していたのだ。


「これで諦めて、帰ってくれればいいけど……」

『シュラ、ドラゴンというのは執念深い生き物だぞ』

 シュラとゼロが、ドラゴンの周りを飛び回っていると、2つ積み重なった巡航艦が、高度を下げ――。

 もうもうと黒い煙を吐き出しながら、いまにも樹海へ不時着しそうになっている。

 下になっている巡航艦の腹が、樹海の木々に接触して、次々と大木をなぎ倒す。

 そこから沢山の鳥たちが飛び立ち、地上の生き物たちが追われた虫の群れのように溢れ出す。


 巡航艦の艦橋では、激しい揺れの中で必死の操艦が続いていた。


「なんとかしろぉ!」

 床にへばっている艦長が叫ぶが、もはやどうしようもない。


「反重力炉、反応戻りません!」

「下にいるイツクシマが、地上に接触します」

「全員、衝撃に備えろ!」

 最後の司令を出した艦長が、皇太女の手を掴んで引き寄せた。


「ご無礼お許しください!」

 皇太女を抱えてしゃがみ、身体を丸くすると、その周りに下級の兵士たちも集まってきて、次々と肉の壁となる。

 下の巡航艦が地面に接触すると、上になっていた艦が発射されて樹海の上を滑っていく。

 艦橋を激しい振動が襲い、天井の構造物がガラガラと崩れ始めた。

 天井を這っていた太いパイプのつなぎ目が外れて、皇太女の周りに集まっていた兵士たちの上に落下する。


「ぐぇ!」「ぎゃ!」

 落下する構造物の下敷きになり、悲鳴をあげる兵士たちにも、皇太女は黙って下を向いていた。

 突き上げるような揺れも収まり、辺りが突然沈黙に包まれた。


「止まったようじゃの……なんとか助かったか」

「そ、そのようでございますね……」

 艦長の言葉で、覆いかぶさっていた兵士たちが、よろよろと皇太女の周りから退く。

 中には、落下物の直撃で動けない者もいる。

 それを見た、皇太女が指示を出す。


「動ける者は、けが人の救助に当たるがよい!」

「承知いたし……ぐぁ!」

 床にひざまずいた艦長が復唱しようとしたのだが、その場でへたりこんだ。

 天井から落下した鉄材が、背中に突き刺さっていたのだ。


「名誉の負傷じゃな。帝都に帰ったら、ここにおる兵士たちと一緒に勲章をくれてやるわ」

「はは……ついているのか、ついていないのか、解りませんなぁ……その前にあいつが見逃してくれればいいんですけどね……」

 艦長が指差す方向に、巨大なドラゴンが広大な翼を広げて、樹海の中に降り立った。

 地震のような重低音が艦を揺さぶる。


「しつこいトカゲじゃな」

「……まったくもって……あたた!」

 艦長の足元の床には血溜まりができていた。


「動かず、そこで寝ておれ!」

 皇太女が見上げる空には、白いマニューバが飛び回っている。


「それにしても、あのマニューバ――魔砲が使えるとは……」

「……魔砲が使える発掘マニューバでも、1機だけでは……」

「その通りだの」

 皇太女が見上げる白い機体を操るシュラは、着地したドラゴンの周りを飛び回っている。

 まるでまとわりつく虫のような白い鳥に、空の覇王はイライラしている様子で、ブンブンと腕や尻尾を振り回している。

 それに追い打ちをかけるように、不時着した巡航艦から再度、攻撃が始まった。

 赤い火球もドラゴンの前で弾けているのが見えるので、生きている砲座や魔導師もいると思われる。


「ゼロ、こちらも攻撃を仕掛ける」

『承知した』

 一旦ドラゴンの前から離脱すると、攻撃コースへ入る。

 シュラは操縦を握り精神を統一――引き金を引くと閃光が走る。

 ドラゴンの周りにピンク色の破片が散らばり、敵の巨体は首を仰け反らせた。

 この世界での最強生物を退ける強烈な攻撃の反面、使用者には反動が大きい。


「はぁはぁ……」

『シュラ、大丈夫か?』

「うん、でもちょっと疲れた」

『こちらも悪い知らせがある』

「なんだい? もしかして、故障?」

『いや、水が切れた』

 マニューバの燃料は水である。水が切れれば飛行できない。

 リヒート用の燃料は残っているが、たかがしれている。


「どこかに降りられる場所は……」

 着陸地を探して上空を旋回しているシュラの目に、ちょうどいい場所が飛び込んできた。

 不時着している、巡航艦の翼の上である。


「ゼロ、あの艦の上に降りよう――できるかな?」

『……』

 珍しくシュラの問いかけに、ゼロが答えない。


「ゼロ? どうしたの?」

『シュラ、信じられないものがある』

 どうやら、上空を旋回中になにかを見つけたようだ。


「信じられないもの? 君でも驚くようなもの?」

『驚くという感情は持ち合わせていないが、確率とデータからして不自然だと言わざると得ない』

 いつも淡々としている思考ユニットのゼロが驚くもの……シュラはそれを聞いてみた。


『ライデンだ』

「ライデン? もしかして、マニューバなのかい?」

『そうだ』

「それじゃ、この機体の代わりに使えるかもしれないね」

『そうだ、その機体に水が入っていれば使えるだろう』

 彼の話では、マニューバは巡航艦の中にあるようだ。


「たしかに……この手の巡航艦は真横に走る、格納庫を備えているけど……ほら!」

 巡航艦の横を旋回するシュラの目に、船体に横穴が開いているのが見える。

 ゼロは、オーバーテクノロジーの目を使って、穴の中にあるマニューバを見つけたらしい。


『あの格納庫へ着陸しよう』

「え~っ!? そんなことできるの?」

『不確定要素が多いが、いままで積み重ねたデータから推測するに、十分に可能だ』

「う~ん、もう水はないし、ドラゴンは目の前にいるし、代わりのマニューバがあるなら、しょうがないか」

 ドラゴンは虎視眈々と、こちらや巡航艦を狙っているのである。

 爪や牙を使って艦体を引き裂き、中の人間を食うつもりなのか。


「ゼロに任せるよ」

『任された』

 ゼロの操縦で、フラップを降ろし失速ギリギリまで速度を落とすと――フラフラと巡航艦の横っ腹に開いた真っ黒な穴に突っ込んでいく。


 このシュラの一連の動きを、不時着した巡航艦の艦橋から皇太女が見ていた。


「おおっ! マニューバからの攻撃が真種に効いておるぞ! なんというやつじゃ!」

 驚天動地、ドラゴンを仰け反らせた攻撃をした白いマニューバであるが、その後フラフラと巡航艦のほうへ向かってきた。


「どうしたのじゃ? 被弾でもしたか?」

 フラフラと巡航艦の上を通り過ぎた白いマニューバを追って、皇太女は艦橋の右舷を回った。

 艦橋のガラスに皇太女がへばりつくと、旋回して、こちらに向かってくるマニューバが見える。


「何をする気じゃ?」

 彼女が、そのまま白い機体を目で追うと、船体の影に隠れて見えなくなった。

 皇太女の声が艦橋に響く。


「白いマニューバがどうなったか、報告せよ!」

 艦橋要員が、各部署に確認しているが、応答がないようだ。


「艦内が混乱しており、連絡系が働いておりませんが――未確認情報では白いマニューバは格納庫へ入ったと……」

「なんじゃと?!」

 その報告を聞いた皇太女が、通路へ走っていく。


「ちょ、ちょっとお待ちを……殿下」

「そなたは、そこで寝ておれ!」

 動こうとした艦長であったが、激痛のあまりその場にひっくり返った。


「あいたた……お~い、元気なやつは殿下にお供しろ……」

「了解!」

 数人の拳銃を構えた兵士と共に、皇太女は格納庫へ向う。


 皇太女が向かった先の格納庫では、シュラとゼロがマニューバを突入させていた。

 ゼロがリヒート用のコンプレッサーを接続すると、シュラの耳に高周波音が響く。

 

(ゼロはなにをするんだろう?)

 フラフラと失速寸前で侵入した機体は、ドスンと大きな音をたてて、格納庫の床へ着艦。

 そのまま、格納庫内でくるりと180度転回して、リヒートに点火した――逆噴射である。

 操縦席に押し付けられるような強烈なGがシュラを襲うが、機体は静止した。


「凄い! 俺も、これを練習しよう!」

『尾輪が壊れる可能性大なので、非常時以外は使わないことを、お勧めする』

「もちろんだよ」


 もともと整備されていない滑走路での運用を想定されているマニューバなので、このぐらいの乱暴な着艦でも、びくともしない。

 

「ふう……暗いね。君は暗くても見えるかもしれないけど……」

 艦内は電源が落ちているので真っ暗なのだ。


『そういう場合に備えて私がいるのだが、私を頼ればいいのだ』

「そりゃそうだけど……」

 軍艦に着艦したはいいが、ゼロはどうしようというのか。


『シュラ、目の前に目的のものがある』

「眼の前?」

 彼に言われて目を凝らすと、マニューバらしきものがある。

 暗闇に徐々に目が慣れてきたようだ。


「ええ? もしかして、金色なの!?」

 滑らかで、少々太い金色の胴体と、普通のマニューバより短く緩い後退角がついた翼。

 

『そうだ、あれがライデンだ』

 ゼロの話では、白い機体に積まれているゼロの思考ユニットを移植すれば、起動できるかもしれないという。


「以前やったように、君の本体を機体から取り外すの?」

『そうだ』

 シュラは、計器盤の下に潜り込むと、ゼロの思考ユニットを取り外した。

 作業をしている間にも、地響きが船体に伝わってくる。


(徐々に近づいてきているな)


 円筒形のゼロの本体を抱えると、機体から飛び降りた。

 格納庫の床には、ここにいた整備兵らしき人たちがひっくり返っているが、動いているので、死んではいないようだ。


「お、おまえ、何をするつもりだ……」

「すみません~! 俺のマニューバが、水切れを起こしたんで、これを借りようと思って」

「な、なんだと……」

 整備兵の一人が立ち上がろうとしたのだが、そのままひっくり返った。


「ああ、あまり無理をしないほうがいいですよ」

 けが人を助けたいのは山々だが、彼にはやるべきことがある。

 マニューバの大きなタイヤについている頑丈そうな車止めを外すと――シュラは、思考ユニットを抱えたまま金色のマニューバに乗り込んだ。

 コクピットの下に潜り込み、外したのと逆の手順で、ゼロのユニットを取り付ける。

 作業をしていると巡航艦がグラグラと揺れ、船体の構造物が落下して、大きな音が響く。


(何かに掴まれて、揺さぶられている感じだ)


「ドラゴンが船体に取り付いたのかな?」

『急いだほうがいいな』

「機体の見た目はしっかりとレストアされていて、凄く綺麗だけど……」

 シュラがつぶやくと、計器盤が点灯する。それを眺めていた、シュラだが、あることに気がついた。


「ゼロ! これってプロペラがないよ!?」

『これは、噴進機ジェットだからな』

「ええ~っ!?」

 機首にプロペラなく、主翼の根本には空気の取り入れ口が開いている。

 ゼロが診断プログラムを使って、機体のチェックを始めると、上方から大きな声が響いた。


「そなたは何者じゃ!?」

 シュラが上を向くと、機体の直上のキャットウォークに丈の短い白い着物を着た女の子が立っていた。

 手すりを掴み、その横には護衛と思われる兵士が付き添い、こちらに拳銃を向けている。

 皇太女は船内に侵入したマニューバがなにをするのか確認をするために、艦橋から走ってここまでやって来たのだ。


「怪しい者じゃありません! 俺はエスランのシュラ! ナイツです!」

「人のマニューバを盗もうとするのは、空賊ではないのかぇ?!」

「違います。俺の機体の水がなくなってしまったので、コレを借りようとしているだけです」

「理由になっておらぬぞ!?」


(彼女の言う通り、俺の言い訳がめちゃくちゃなのは、理解しているけど――それどころじゃ……)


「あの――それどころじゃないんですけど」

 その時、巡航艦の船体が激しく揺さぶられて、上にいた皇太女が大きくバランスを崩した。

 手すりを乗り越えて、彼女がキャットウォークから落下しそうになっている。


「ぬぉぉ!」

「あぶないっ!」

 慌てて、シュラがコクピットから這い出て、翼の上に落ちてきた女の子の所へ行ったのだが――。

 彼女は、不自然な落下スピードで、ゆっくりと落ちてきた。


「わ! わ! わ!」

「ちょ、ちょっと待て! どくがよい!」

 シュラは手を伸ばしたのだが、目測を誤り彼女の真下へ来てしまい――そのまま落下した白い着物の裾の中へ、シュラの頭がすっぽりと入った。


「わーっ! 真っ暗!?」

「こ、この痴れ者が!!」

 シュラと皇太女がバタバタと暴れると、そのまま後ろに引っくり返る。

 当然、その恰好になれば、シュラの目の前に皇太女の股間が――。


「なんか柔らかいものが……」

「こっこっこの――」

 顔を真赤にした皇太女がなにかを叫ぼうとすると、ゼロの声が聞こえてきた。


『シュラ、診断機能全部問題なし、水も満タンだ。飛べるぞ』

「なんじゃ!? 誰の声じゃ?」

「君! ゼロの声が聞こえるの?」

「ゼロ? 誰じゃ、それは!?」

「このマニューバだよ」

「マニューバ? そなた、このマニューバを盗んでどうする?! これは機関始動もできなかったのだぞぇ?」

『機関始動』

 バルブが開き、無尽炉に水が送られると瞬時に機関が起動して、高周波音が格納庫に響く。

 普通はプロペラを回して飛ぶマニューバだが、こいつは水を炉に入れ高圧の蒸気をそのまま噴射して飛ぶ噴進機。

 推力はそれだけではなく、軸流式圧縮機を回し圧縮された空気を使うダクテッドファン推進も備える混合動力機だ。


「なんじゃと!? 動いただとぉ!?」

 顔を上に乗った、皇太女をどかしシュラが答える。


「俺を捕まえるのはいいけど、外にいるドラゴンを仕留めるか、追い払わないと皆死んじゃうよ?」

「ぐぬぬ……」

『シュラ? どうした? 急がないと、ここも破壊されて残骸に埋もれてしまう』

「解った!」

 皇太女に構わず、シュラはコクピットへ乗り込んだ。

 シュラが機器のチェックをしていると、上からやっと起き上がった兵士たちの声が聞こえる。


「殿下!」

「妾に構うな!」

 護衛の心配する声を無視して、シュラの膝の上に皇太女が乗り込んできた。


「うわっ!」

「妾も行くぞぇ!」

「こ、こんな状態じゃ飛ぶのは無理だよ!」

「無理でも飛ぶがよい! これを盗まれでもしたら、大変じゃからの!」

「そんなことしないけど。ここには俺のマニューバもあるんだし」

 シュラは、着艦している白いマニューバを指さした。


「よいから飛ぶがよい! 本当に飛べるものならの!」

「ゼロ行ける?」

『大丈夫だ、危なければ私がサポートする』

 金色の機体が両翼のフラップを上下に開き、白い水蒸気を上げてバックすると、その場でくるりと回って方向転換した。


「ええ?! そんなこともできるの?」

『この機体にはジェットフラップが装備されている』

 シュラが翼を見ると、フラップが2重構造になっていて、その間から水蒸気が噴き出している。

 翼から噴出する水蒸気を制御することで、方向転換や通常ではできないような高機動も可能なのだ。


「でも、こんな短い格納庫から飛び出すなんてできるの?」

『可能だ――いくぞ』

 フラップの間から水蒸気を噴射することで、優れたSTOL性能も発揮できるらしい。


「これをつけて!」

 シュラは膝に載っている女の子に、自分のゴーグルを渡したのだが――。


「いらぬ! 妾には風よけの魔法がある故」

「君、魔法を使えるの? それじゃ、ゼロの声が聞こえるのも……」

 先程、キャットウォークからゆっくりと落ちてきたのも、なんらかの魔法のようだ。


「無礼者! 妾は、カミヨ大帝国皇太女カミヨ・サクラコなるぞ!」

「ええ~っ! お姫様だったの!?」

 コクピットで会話している二人に構わず、ゼロは金色のマニューバを発進させた。


「「うわぁぁ!」」

 ものすごく加速で、コクピットの二人がシートに押し付けられると、瞬時に金色の機体が大空へ飛び立った。


「凄い加速だ!」

「待つがよいぃぃ!」

「もう、飛んじゃったんだから無理だよ! 後で、お叱りは受けるからごめんね」

『主脚を収納する』

 この機体は引込脚らしく、大きなタイヤが後ろに倒れて、翼の出っ張りの中へ収納される。

 完全にフラットにはならないが、固定脚よりは空気抵抗を軽減できる。


「そんなことより、ドラゴンはどこじゃ?!」 左に旋回しながら、左下方にいる敵を見る。

 キラキラと輝く赤い鱗のドラゴンが、巡航艦の翼を鋭い爪で破壊している真っ最中だ。

 金色の機体は、それを眺めるように矢のように空を駆け抜ける。


「機体の速度が速すぎて、上手く感覚が掴めない」

『それは慣れるしかないな』

「喋るマニューバなど、テンプルナイツのマニューバしか知らぬ」

 皇太女は風よけの魔法を使うと言っていたが、確かにいつもよりコクピットに吹く風は穏やかだ。


「ヒエンの話だと、テンプルナイツにもゼロの仲間がいるって話だったな」

「喋るマニューバが、まだいると申すのか?」

「うん」

 ゼロの話では、この金色の機体の速度は白いマニューバの倍。燃費は3倍だと言う。


「そんなんじゃ仕事には全然使えないよ!」

『これは、局地迎撃戦用の機体だ』

「キョクチ? あ!」

 ゼロと話をしていると、ドラゴンが大きな口を開けた。

 この機体は速度は出るが小回りがまったく利かない。

 シュラが、思いどおりにならない操縦に手間取っていると、ドラゴンが金色の機体に単発のブレスを吐いた。


「ちょっと! まだブレスが使えるの!?」

聖なる盾よ(プロテクション)!!」

 金色の機体に迫る赤い炎の玉を、寸前のところで透明な盾が防ぎ、赤い散り散りになって空に消える。


「それって、魔法!?」

「そのとおりじゃ!」

 敵の攻撃を防いだが、燃費の悪いこの機体で、いつまでも飛び回っていることはできない。

 この機体に、武器は魔砲しか装備されていないのだ。


「ゼロ! このままじゃどうしようもできない! 魔砲を使って攻撃する」

『1日に3回の魔砲使用になるが、大丈夫か?』

「俺が気を失ったら、このお姫様を乗せて、なるべく遠くへ飛んで逃してあげてね」

『承知した』

「待つがよい! 妾のことは無視かぇ?!」

 シュラは操縦桿を引くと上昇を始めた。この機体は噴進だけで十分な推力があるので、リヒートは装備されていないようだ。

 そのまま宙返りして反転急降下を始めると、電影照準器にドラゴン姿を捉えた。


「よし! いけぇぇぇ!」

 シュラが操縦桿の引き金を引くと、閃光と共にドラゴンの左肩を吹き飛ばし、後方に巨大な土煙が上がる。

 剥がれた赤い鱗がキラキラと舞い、翼をもがれたこの世界の覇者が、耳をつんざくような断末魔の叫びを上げた。

 身体の左側を大きく抉られ、血を噴き出したドラゴンは、大きく口を開けたまま残った肩のほうへ倒れ込む。

 腹に響く低音とともに巨体で樹海の木々をなぎ倒した。


 その様子を巡航艦の上で、見ている者たちがいた。

 対空のために駆り出された年少魔導師や、砲座で大砲を撃っていた兵士たちだ。


「凄い!! 発掘で金色のマニューバが発見されたって聞いたけど、ドラゴンをやっつけちゃうなんて!」

 砲座の手すりに必死にしがみついていた魔導師の女の子が叫ぶ。

 巡航艦が不時着した際、振り落とされないように、手すりに身体を結びつけていたのだ。

 また砲座にいた兵士たちが、家族の映った写真乾板を持って泣いている。


「俺、助かったよ母ちゃん! これで故郷に帰れるんだ……」


 大勢の兵士が見上げる中――敵がいなくなった大空を、金色のマニューバが威風堂々と飛び、黄金の翼を輝かせて、その勇姿を誇示している。


「なんと! 本当にドラゴンを……屠る……とは……」

 大声を上げた皇太女であったが、そのまま気を失った。


「え?! ちょっとお姫様! どうしたの?」

理力砲フォースキャノンの威力が理論値を遥かに上回っている。おそらく、シュラの理力だけではなく、その皇族の理力も使ってしまったのだろう』

「そうか……とっ、俺も目眩が酷い。ゼロ、巡航艦の翼の上にマニューバを降ろせる?」

『この機体は逆噴射ができるので、白い機体よりは楽なはずだ』

「頼むよ」

 シュラは操縦桿を離すと、機体の制御をゼロに任せた。

 フラップの間から、白い水蒸気を噴き出し、ゆっくりと脚を出した金色のマニューバが、巡航艦の翼の上に進入してくる。

 タイヤが赤い船体に接触すると、2重になったフラップを上下に開いて逆噴射。

 金色の機体は、巡航艦の上に降りた。

 砲座にいた兵士たちが、そこから這い出ると――巡航艦の翼の上に着陸したマニューバに、歓声と共に集まってきたのだが――。


 シュラは皇太女を抱えたまま、その場で意識を失った。


 

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