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21話 艦隊戦


 ピンクカメオこと、ヒエンがエスランの街へやって来て半年。

 ピンク色の機体のオーバーホールがほぼ完了した。駆動機関まで全バラにした完全オーバーホールである。

 レストアで苦労したのは、制御回路の復元だ。

 驚くべきことに、オリジナルの回路図が、整備書に残っていなかったのである。

 やむを得ず、ゼロの回路を参考にして、新しい回路を組み直した。

 ナンバーズと言われている彼ら発掘マニューバは、思考ユニットを介して機体の制御を行うため、通常の回路はまったく参考にならない。

 レストアにはシュラも参加して、ヒエンの意見も参考にしつつ、新たなる回路を組み上げた。

 マニューバと話しができるシュラがいるからできる芸当だ。


 そのヒエンがエスランの上空を飛んで、自在な軌跡を描いている。


「あはは! すごーい! こんなに自由自在に飛べるなんて!」

 リンが操るヒエンが、連続横転やループを繰り返している。

 その様子を地上で見ていたレオナが叫ぶ。


「こら~っ! 慣らしだって言ってるでしょ! 無茶すんなぁ!」

 当然、いくら地上で叫んでも、上空を飛んでいるマニューバには届かない。


「まぁまぁ、レオナさん。そのぐらい、自由に空を飛べるのが嬉しいんでしょ?」

「それなら、もっと早く修理していればよかったのに……」

「例の工房しかつてがなかったようですし、本人もナイツになるつもりがなかったようですから」

「でも、あの姿を見たら、飛ぶのは楽しそうだけど?」

「彼女がナイツを続けるなら応援しますし、レストアの金が払えないなら、ピンクカメオを俺がもらうだけですから」

 その言葉を聞いたレオナが、腕を組み呆れたようにシュラを見つめる。


「本当に――シュラ君って意外と悪人よね?」

「心外ですね。レストアに必要な人材も資金も提供しているのは、俺ですよ?」

「全部マニューバのためでしょ?」

「はい、それ以外に何かあるんですか?」

「はぁ……それはそうと、例の工房は廃業するそうよ」

「それはよかったですね。可哀想なマニューバたちが増えないで済みます」


(優しいのに、悪人だと平気で撃ち殺したりするし、そのマニューバへの愛情を、もう少し人間に注いでくれないかなぁ……)

 レオナの思いとは裏腹に、シュラの興味はマニューバだけだが、別に女が嫌いなわけではない。

 ただ優先順位が低いだけなのだ。女とマニューバが並んでいたら、マニューバへ駆け寄る。

 それがシュラだ。


「でも、今回のレストアでは、ちょっと心残りはあるなぁ」

「取り外したモータカノンですか?」

「そう!」

 結局、主軸の歪は取れなかったため、モータカノンは取り外した。

 そのかわり機体下面に汎用のリボルバーカノンを装備したのだが、リンは稀人ではないので、使えない魔砲を取り外し、その位置にヤーデン砲を組み込んだ。

 外した魔砲はシュラのところで管理される。

 モータカノンを取り外してできた空間は、荷物室に利用されることになった。

 

 慣らしが終わった後、完調になったヒエンは、リンと共に辺境の仕事をこなしはじめた。


 ------◇◇◇------


 ギュオール運送の滑走路に、白とピンク色のマニューバが並ぶ。

 それを運送屋の親方が眺めている。


「まったく、こんなマニューバまで引抜いちまうなんてよ」

「親方、レオナさんの件は申し訳ありません」

「わはは、ちょっと面食らったが、ウチの仕事もやってくれてるんだ、文句は言わねぇ」

 その言葉に、マニューバの点検をしていたレオナが反応した。


「文句なんて言ったら、ギュオールの仕事なんてしないから!」

「これだ! 拾ってやった恩を忘れたのか?」

「ええもう、綺麗さっぱりと。私にはシュラ君がいればいいしぃ」

「ったく」

 親方も呆れているが――彼女が本気なのを知っているので、それ以上はなにも言わない。


「じ~っ」

 トレードマークのピンク色のジャケットを着たリンが、シュラを見つめている。


「なんだい?」

「あんたって朴念仁かと思ったら、意外と酷いやつよね」

「なぜか、そう言われることが多いんだけど、俺はマニューバを守りたいだけなんだよ」

「はいはい」

 ギュオールからの外注の仕事で、荷物を積み込んだ白とピンクのマニューバが、滑走路から飛び立った。



 ――エスランの街から白とピンク色のマニューバが飛び立ち、日が高くなった頃。

 エスランから300kmほど離れた樹海の上を帝国の巡航艦が3隻、単縦陣で飛行していた。

 のんびりとした遊覧飛行でなく、何かから逃げるように全速を出している。

 駆動機関は唸りを上げて加熱し、船体を赤く塗っている塗料が焼けて、白い煙を多数吹流す。

 この艦は以前、シュラが出会った帝国巡航艦である。

 

 先頭を飛ぶ旗艦の艦橋――壁を埋める機械と無数の配管の中、深緑色の軍服を着た兵士たちが対応に追われていた。

 全速を出している艦は、低い唸り声を艦橋に響かせ、何かのコゲた臭いが充満する。

 艦橋の中央にいた、ロングコートのような軍服を翻し艦長が叫ぶ。


「全艦、最大戦速! とにかく回せ! 追いつかれたら、そこで終了だぞ!」

「ヨーソロー全艦最大戦速!」

 全艦に指示を出した艦長がつぶやく。


「くそっ! なんだって、こんな所でぇ……」

 そのつぶやきに反応して、奥の天蓋の中で胡座をかいていた、白い着物の少女もこぼす。


「ほんにのう――遺跡で特級の遺物を掘り出して、あとは意気揚々と帝都に帰るだけだというのに……」


(畜生! あとは、この皇太女のおもりをして、帝都に帰るだけじゃねぇか! なんだってこんなことに……どうしてこうなった!)

 艦長の思いが、一言口に出た。


「ついてねぇ……」

「ほほほ、艦長――ついておらぬのは、妾かもしれぬぞぇ?」

「いえいえ、そんなことは……」

 皇太女の本気とも冗談ともつかない言葉に艦長が困っていると、艦橋に連絡が入る。


「敵、離れません! 増速、接近します!」

「なんで、こんなスピードが出せるんだ! 奴らの速度は、せいぜい毎時60~70リーグ(約100km)って話じゃなかったのか?」

 それを聞いた艦橋要員の一人が発言する。


「未確認情報では、戦闘中の機動で遥かに高速を出したという話が……」

 現在、この艦は最大戦速で、時速200kmほどの速度を出している。


「全艦、リヒート点火!」

「了解! 全艦、リヒート点火!」

「リヒート点火!」

 3隻の巡航艦の両翼が一斉に火を噴き、空中にもうもうと噴き出す白い煙の筋を残す。

 その加速で、みるみるドラゴンを引き離すが、リヒートは数分しか持たず、時間稼ぎにしかならない。

 すぐに、また追いつかれてしまう。


「くそっ! ドラゴンが高速飛行するなんてのはガセって話じゃなかったのか?! 全艦、魔法装甲起動!」

「全艦、魔法装甲起動!」

「魔法装甲起動!」

「艦長、やるのかぇ? 勝ち目はないぞ?」

 

「勝ち目はなくても、なんとかするしかないでしょう。相手はたかがデカいトカゲです」

「そのデカいトカゲに、帝国の戦艦が尽く全滅しているのだが……」

「それは、ただいま忘れることにいたします!」

「後方のマツシマから発火信号! 『真種ドラゴン接近ス!』」

「もう追いついたのか!」

 そう、この艦隊を追っているのは、真種ドラゴン。

 この世界で最強ともいわれている、生物ピラミッドの頂点に立つ、究極の生物。

 強大な軍事力を持つ帝国軍に、散々辛酸を嘗めさせている、彼らの宿敵である。


「マツシマが、攻撃許可を求めています!」

「攻撃のために、砲座を上げればスピードが落ちるぞ! 砲撃なんかが、奴らに効くと思うか?! 新型の魔法装甲を信じろと返信しろ!」

「了解!」

「ほほほ、このまま逃げきって、妾が帝都に無事に着けば、この艦の乗組員全員が特進じゃのう」

「それは大変心強い、殿下のお約束。兵士一同奮い立ちましょう」

 但し、生きて帰れればの話だ。


 そこから数分、ドラゴンを引き連れての、単縦陣飛行を続けていたのだが――。

 突如、真っ赤な閃光が艦隊を襲った。


「うぉぉぉ!」「うあゎぁ!」

 兵士たちの叫びと、ミシミシと軋む船体――艦長が自席の周りにある手すりに掴まる。


「どうした?!」

「マツシマ被弾!! 戦列から外れます」

「くそっ!」

 先頭を飛んでいる巡航艦の上、そこに小さな風防に囲まれた見張り台がある。

 そこから後方を監視している乗組員が見たものは――しんがりの巨大な巡航艦が黒い爆煙を吐きながらゆっくりと左へずれていく光景。

 進路を外れた艦の上から、チカチカと発光信号が見える。

 それを解読した乗組員が伝導管に向かって叫んだ。


「マツシマより、発火信号! 『我、操舵不能! 我、操舵不能!』」

 それを艦橋で聞いた艦長が床を蹴る。


「なにが新型の魔法装甲だ! 開発部のやつらぁ!」

「ドラゴン増速、本艦の左舷に並びます!」

 慌てて艦長が、艦橋の左舷側へ走ると、巨大な赤い生き物が大きな翼を広げている。

 巨大といっても、真種ドラゴンの全長は50mほど、この巡航艦のほうがはるかに大きい。

 さらに大きさで勝っている帝国の戦艦も歯が立たない、この大空の覇者がこちらを睨む。

 その異様さ、脚がすくむ恐怖心に艦長をはじめ乗組員が固まる。

 それを見据えたかのように、ドラゴンの口が開いた。


「わあぁぁ!」「うぉぉっ!」

 赤い閃光と共に、船体が大きく揺さぶられて艦が傾く。

 破損したパイプからは蒸気が噴き出して、近くにいた乗組員が吹き飛ばされた。


「船体復元いそげ! 状況を報告!」

 近くの手すりに掴まった艦長が叫ぶ。

 この混乱にも、皇太女は天蓋の下の畳の上で、目をつぶって胡座をかいている。


「左舷損傷! 魔法装甲第4層まで持っていかれました!」

「もう一回食らったら、お終いだな。くそ、なぶり殺しにするつもりか」

 真種ドラゴンは、かなり知能が高いことが知られており、それも帝国が苦戦する要因にもなっている。

 黙って胡座をかいていた皇太女がつぶやいた。


「艦長――それで、どうするのだぇ?」

 彼女の質問に艦長が次の手を伝える。


「一か八か、魔法装甲の呪文の組み換えを行います」

 破損した魔法装甲の呪文を組み替えて、新しい装甲を構築しようというのだ。

 それとて時間稼ぎにしかならないが、諦めたらそれで終了。

 少しでも生きている時間を先延ばしするために努力を惜しまない者にこそ、輝かしい未来への扉が開く。

 

「そなたに、任せる」

「はっ! 魔法装甲の呪文組み換えを行う! そのための時間を稼ぐ! 並行戦だ左舷砲雷撃戦用意! 後続のイツクシマにも伝えろ!」

「了解! 左舷砲雷撃戦用意!」

「左舷砲雷撃戦用意!」

「収納している砲座を全部出せ! 戦術魔導師もだ! 出し惜しみするな!」

「了解!」

 戦闘準備に入った巡航艦の腹を横に格納庫が走っているが、その両端には扉などはなく、露出してる。

 吹きさらしの格納庫に集まった作業員たちが外を眺めている。

 彼の視線の先には、この艦と並行して飛ぶ、巨大な赤い怪物。


『全艦、左舷砲雷撃戦用意!』

 艦内に響く命令に、土色のツナギの上に防寒着を着た作業員たちが顔をしかめる。


「あの化物とやるってのか?」

「冗談だろ?」

「だが、速度では振り切れないようだ、一か八かの賭けに出るんだろ?」

「どのみち、さっきみたいのを、もう一発食らったらお終いだ」

 話している作業員の後ろには、固定されたマニューバがある。

 この艦に乗っている皇太女が掘り出した発掘マニューバだが、他にはない特徴がある。

 機体が金色なのだ。機体を覆っている光り輝く金色が本物の金なのか――それとも、それ以外の物質なのかも判別できていないようだ。

 もし本物の金ならば、飛べるはずもない。

 まさに前代未聞の金色のマニューバがそこにあった。


「このハシダテが落っこちたら、あのお宝も樹海の藻屑か」

「いや、軍艦が落ちたら、すぐに救助や回収部隊が動くだろ。なにせ皇族のお姫様も乗ってるんだ」

「そうだな……」

 びゅうびゅうと風が吹き込む格納庫で、男たちが顔を見合わせている頃、艦内では女たちも戦闘準備に追われていた。

 艦内の一室、セラミックの端材でできた壁に覆われた、こじんまりとした部屋。

 粗末なベッドと小さな机がある部屋で、少女が家族に別れの手紙を書いていた。

 黒い長い髪を2つのおさげにまとめて、薄緑色のワンピースに拳銃を装備した黒いベルト。

 その上から、黒い防寒着を着用した――帝国軍、特別年少魔導部隊である。


『お父さん、お母さん、私はお二方の娘として十余年生きてまいりました。この手紙が届く頃には、私はアマテラスに召されているでしょう。でも、悲しまないでください。今まで蕾のまま生きてきた私は、今日やっと花と咲き、散って逝けるのですから。どうぞ、笑ってお別れをしてください』

 彼女は貴族の血統で家名持ちだが、平民と同じ暮らしをしている、いわゆる傍流。

 傍流といえども、貴族には男女ともに兵役が義務付けられており、魔法が使える彼女は、この特別年少魔導部隊に配属された。

 手紙を封筒に入れて少女が通路に出る。

 黒いロングワンピースに長い黒髪をまとめた魔導隊の隊長が、泣いている女の子をなだめていた。


「ほら! いつまでも泣いていちゃ、ダメよ!」

「えぐっえぐっ……」

 泣いてぐずっている女の子の相手をしている隊長に、書いた手紙を渡す。


「あの――隊長、これ」

「ちゃんと書けた?」

「……はい」

 この手紙はセラミックのカプセルに入れられて、規定の場所へ保管。

 艦が墜落した時は、回収部隊のよって家族の下へ届けられる手はずになっている。


『左舷砲雷撃戦用意! 全戦術魔導部隊は所定の位置へ』

 命令を聞いた魔導部隊の隊長が、小さな魔導師たちへ指示を出す。


「皆、所定の場所へ! この艦は高速で飛行中だから、偏差射撃を忘れちゃダメよ!!」

「はい!」

 泣いていた女の子も所定の砲座へ押し込められる。その様子を少女は見ていた。

 

(確かあの子は、農村出身だと言ってた子ね……)

 泣いていようが、なんだろうが、戦わねば死ぬしかない。

 普通は、まともな教育を受けることができない地方出身者でも、軍隊に入れば教育を受けられる。

 帝国への恩義は返さなくては、ならない。今がその時なのだ。

 それを促すような声が、伝導管から艦内へ流れる。

 

『皇国ノ興廃此ノ一戦ニ在リ、各員一層奮励努力セヨ』

 

 本来なら、このような僻地での一戦が、帝国の興廃に関わることはないのだが――。

 この艦には、次期皇帝である皇太女が乗っている。ここで彼女が戦死すれば、皇室のパワーバランスが大きく崩れることは必定。

 それは帝国に混乱と混沌をもたらすため、この戦いの結果が後世へ影響を及ぼすことが大いに考えられる。

 

 轟々と吹き荒れる風の中で、吹き飛ばされないように、魔導師たちは安全帯を装着して砲座に立つ。

 それと同時に彼らの詠唱が始まった。


『暗き闇を照らす炎の道標よ、我が先を照らし、敵を討て!』

 同時に砲身を縦にした砲座も次々に上がってくると、一斉に敵に向かって砲口を向けた。

 船体に凸凹が増えると当然、空気抵抗が増大し速度はガタ落ちになるが、戦うしか道はない。


火球ファイアボール!』

 魔導師の詠唱が終わると、赤い火球が次々とドラゴンへ向けて飛んでいく。

 小さく赤い光を放ち弾ける魔法であるが、敵にダメージを与えている節はない。

 続いて砲座の大砲も火を噴き始めた。


「くそっ! くそっ! こんなところで! 後は帝都に帰るだけだってのに」

 黒い防寒着を着た兵士が黄金色の砲弾を抱えて、砲尾から押し込み――発射しては排莢する。

 2隻の巡航艦から、ドラゴンへ向けて激しい集中砲火が浴びせられるが、空の覇者にはまったく堪えているようには見えない。


「畜生! この弾を撃ち尽くせば、故郷に帰れるんだ!」

 砲座には、この兵士の私物と思われる、家族と故郷の写真乾板がぶら下がり揺れていた。


 船体からハリネズミのように突き出た大砲から砲撃が始まったが、艦橋では魔法装甲の呪文の組み換えに時間がかかっていた。


「まだか!?」

「後1分!」

「ドラゴン接近します!」

「くそ! ダメか!?」

 艦長が諦めかけた時、艦橋を黒い影が覆う。次の瞬間、轟音と共に真っ赤な光が艦橋を包み込んだ。


「イツクシマが盾に!」

 旗艦ハシダテとドラゴンの射線上に後続のイツクシマがリヒートを使用して割って入ったのだ。

 激しく被弾したイツクシマが、真っ黒な煙を吐き出しながら大きく高度を落としていく。


「すまねぇ……」

 赤い光を浴びながら、下を向いた艦長がつぶやく。

 その時にも皇太女は、胡座をかいたまま黙って目をつぶっていた。


(すまぬのぅ……皇族の道楽に数多の兵を巻き込んでしもうた。あの世で、アマテラス様になんと詫びればよいかのぅ……せめて、兵たちの魂が天界へ行けるように、お願いできればよいが……)


「魔法装甲、呪文組み換え完了まであと10秒!」

「いけるか?!」

 呪文の組み換えが完了したとしても、真種ドラゴンの圧倒的な攻撃力にいつまで保つか解らない。

 敵に攻撃してダメージを与える手段がない以上、打てる手はそれほど残されていないのだ。

 わずかな光明を手繰り寄せる努力をしていたのだが――呪文組み換え完了の声を上がる前に、大きな揺れが艦を襲った。

 足元を掬われて、兵士や艦長が床に転がる。両手を床についた艦長が叫んだ。


「状況知らせ!」

 艦橋に次々と損傷の報告が飛び込んでくる。


「か、艦尾損傷!」

「シアンガス発生!」

「反重力炉、動力停止! 高度落ちます!」

「くそ――これまでか?」

 諦めかけた艦橋を下から突き上げるような揺れが襲う。


「また攻撃か?!」

「いえ…………本艦の真下に、イツクシマが潜り込んでいます!」

「なんだと!!」

 その報告を聞いた、皇太女がつぶやいた。


「すまぬのう……」

「こ、これで墜落は免れるかもしれないが、ドラゴンのやつが待っててくれるか……?」

 その時、左舷の兵士が大声を上げた。


「左舷から! 白いマニューバが近づく!!」

「なんじゃと!!」

 黙っていた皇太女が、天幕から飛び出ると、左舷へ向かう。

 そこに見えたのは逆ガル翼の白い鳥。


「あの鳥は、いつぞやの……」

 その様子は、巡航艦の砲座でも見られていた。

 傷つき砲座にしがみついた年少の魔導師が、空を飛ぶ白いマニューバを見上げている。


「白い鳥が……綺麗……」


 マニューバが一機来たとはいえ、戦況が変わるわけではない。

 艦橋では、必死に艦のコントロールが続けられていた。


「ダメです! 不時着します!」

「なんとかしろぉぉぉ!」

 叫ぶ艦長の声など、皇太女には聞こえていない。彼女はずっと、白いマニューバを見上げていた。


(妾を助けにきてくれたか? いや、ここに皇族がおるなどと、誰もしるまい。僻地のマニューバが騒ぎを聞きつけてやって来たにすぎん……)

 皇太女が、諦めの弱音をのぞかせた時、白い閃光がドラゴンを襲った。



 ――時間は少々遡る。

 一仕事を終えたシュラとリンが、樹海の上を飛んで、エスランの街を目指していた。


「ヒエンは、調子良さそうだね」

『そのようだな』

『もう絶好調ですってば!』

 飛んでいてもヒエンの声が聞こえてくる。彼女はおしゃべりなので、いつにもまして賑やかだ。


「でも、この感応なんとかってのを、音声として出力できれば、みんなで会話をすることができるのに……」

『先史の時代には、離れた所と会話をする技術が普通に使われていたぞ』

「それをなんとか再現できないかなぁ」

『遠隔ユニットも、その技術の応用なのだが、基礎技術が失われているこの時代では実用化するのは難しい』

 シュラが持つ謎の記憶にも、離れた所と通信する技術の記憶があるのだが、具体的にどういう原理なのかは解らない。


(遺跡から発掘される遺物に、そういうものがあればいいんだけど……)

 シュラが飛びながら考え込んでいると、ゼロがなにかを見つけたようだ。


『シュラ、戦闘だ』

「え?! どこ?」

『2時の方向』

「確認しにいく!」

 シュラは、座席の横から発火信号機を取り出して、リンへ指示を送る。

 彼女から返答があった、一緒についてくるようだ。


 時速300kmほどで10分ほど飛ぶと、もうもうとした黒い煙が見えてきた。


「赤いのは帝国の巡航艦だと思うけど……被弾している! それに、なんか生き物みたいのがいない?」

『あれは、君たちがいうところの、ドラゴンだろう』

「え?! 巡航艦がドラゴンに襲われているの?」

『そうとしか見えないが……』

「可能か解らないけど、助けに入る」

『シュラ、水の残りが少ない。ここで戦闘すると、帰投できなくなるぞ?』

「そうも言ってられないよ!」

 その光景を、僚機のヒエンに乗っているリンも見ていた。


「ちょ、ちょっとアレってドラゴンじゃないの? どうする気?」

 リンがその光景をみて困惑していると、シュラから発火信号があった。


『助ケニ行ク――君ハ戻ッテ、人ヲ呼ンデキテクレ』

「助けるって、どうやって助けるのよ」

 叫ぶリンに構わず、ピンクの機体は進路を変えた。


「ちょっと、ヒエン! また勝手なことをして!」

 シュラと一緒に仕事をすることになった彼女だが、相棒のことを真名のヒエンと呼ぶようになっていた。

 コンソールに後付された、ランプがチカチカと光り、モールス符牒で教えてくれる。


『水ガ少ナイ』

「そんなの解ってるわよ!」

 巡航艦やマニューバが落ちれば、救助や回収作業にも輸送艦や人手が必要となる。

 そのためにも連絡係が必要だ。彼女もそれを理解しているし、戦闘となれば足手まといなのも自覚している。


「もう! 私が戻るまで、死なないでよね!」

 当然、リンの声はシュラには聞こえないのだが、彼は最大速度を出してドラゴンに向かっていた。

 白い機体が猛スピードで風を切ると、みるみるドラゴンが近づいてくる。


「相手がドラゴンなら、ヤーデン砲なんて効かないだろうなぁ」

『ここで使うのは、理力砲フォースキャノン一択だ』

「そうだね」

 シュラは、急接近するドラゴンの赤い鱗を電影照準器リフレクターサイトに捉えると、引き金を引いた。

 的は巨大だ。どうやっても外れるわけがない。


 白く輝く魔砲の閃光が、ドラゴンを襲った。

 


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