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10話 空賊襲来


 シュラが発掘したマニューバが飛んだ。

 ゼロと一緒に、シュラの行動範囲はドンドン広がっていったが、人間は慣れた時が一番危険。

 他のナイツからもそう言われる。

 空の上を飛びながらゼロと会話をする。1人でも平気なシュラだが、話し相手がいれば楽しいのは間違いない。


「やっぱり、基本は大事だよね」

『そうだ、慣れてくれると間を端折ったりする。それが危険だ。物事の順番には意味があるのだから』

「俺もそう思うよ」

 シュラは汎用の地図を広げて、メモと航路を書き込んでいく。

 計器盤にある定針儀の方向と、対気速度○○○kmで○分~○時間飛行すれば、目的地に到着する――といった具合。

 遠い場所へ向かう場合は、街々と道の駅ならぬ森の駅を梯子しながら飛行しなければならない。

 緊急時に着陸できる場所や、水場も教えてもらった。

 仕事がない時は、他のナイツに迷惑がかからないように、街から離れた樹海の上で習熟訓練を行う。

 空戦のために、ちょっとアクロバティックな挙動の練習もしなくてはならないのだ。

 普通の内燃機関の飛行機ような爆音ではないが、リヒートなどを使用すれば、それなりに大きな音がする。


『シュラ、現在も空戦は存在しているのか?』

勿論もちろん、虫との戦闘もあるし、空賊だっている」

『虫とやらの大きさは?』

「マニューバと同じぐらいの大きさから、輸送機と同じぐらいの大きさのものまで様々だよ」

 この世界の大型甲虫と竜種は、生物ピラミッドの頂点に立つ存在。

 それを狩る事で辺境の人々の暮らしは成り立っているのだ。

 虫や竜種を狩る人間の力ではどうにもならない種類もいる――それが真種ドラゴンだ。

 実際に帝国の駆逐艦隊や、巡航艦隊が全滅する被害を出しており、皇帝に辛酸を舐めさせた。

 真種ドラゴンは防御結界を有しており、通常兵器ではこれを突破できないのだ。

 この世界の絶対的存在ともいえる真種ドラゴンに対抗しゆる唯一の手段は、発掘マニューバが装備している魔砲――いにしえ理力砲フォースキャノンだけとなる。

 

「さて――そろそろ帰ろうか?」

『承知した』

 帰路の途中、左側に3つの点が見える。少々距離が離れているのに、見えるということは、かなり大型の艦船だ。


「ちょっと寄り道していいかい?」

『ああ、君に任せる』

 相手を刺激しないように、平行に横滑りして、ゆっくりと近づく。


「帝国の軍艦だ。巡航艦だね」

 大きく羽根を広げた、3隻の赤い怪鳥が悠々と大空を飛び、沢山の銃火器がハリネズミのように空を向く。

 艦首には、ぴょこんと飛び出た遠くまで見渡せる艦橋――片翼には大きな穴が8つの口を開け、その中に大型の2重反転のプロペラが隠され唸りを上げる。

 大型の艦砲はすべて収納されており、空気抵抗を下げて航行の邪魔にならないように配慮されている。

 軍艦といえ与圧はされておらず、デッキは全て開放され――中に乗り込んでいる軍人が全員防寒着を着用しているのは民間と同じ。

 大型の反重力炉を多数搭載して、両翼で16基ものプロペラを備えていても、その脚は遅く最大戦速でも時速200kmが精一杯。

 巡航速度は民間の輸送機と然程変わらないのである。


「あんな大きな大砲を持ってても、ドラゴンに敵わないなんて」



 ――シュラが横目で見ている帝国巡航艦の艦橋内部。壁には沢山の機器が並び、網の目のようにパイプが走る。

 ハッチは閉まっていても、どこからともなく入ってきた冷たい風が流れ、兵隊たちの手足を凍えさせる。

 赤く塗られた外観に反して、暗い青に統一された艦橋内部は一層寒く感じる。

 その艦橋には10数人の防寒具を着た軍人が勤め、慌ただしく自分の責務を果す。

 一般の兵士と隔てるように中央の一段高くなった場所で手すりを握る――この艦の艦長らしき男。

 金糸の刺繍が施された暗い緑色の軍服に身を包み、その上から黒いロングコートのような防寒具を着用。

 黒いツバの幅の広い帽子を被り、背は高く少々タレ目がちな目が軽薄な感じを漂わす。

 見かけではそう見えても、帝国の将校で艦長になるほどの人物なら、実力は折り紙つきであると思われる。

 その実力の片鱗を伺わせるような大任を背負い、この辺境へやってきた。

 彼の後ろには、金色の天蓋の中に敷かれた畳の上に胡座あぐらをかいている1人の少女。

 丈の短い純白の着物を着て振り袖を揺らし、真紅の帯には白い帯紐。そして太腿には虫糸シルクの白いニーソックス。

 その上に防寒の為のファーがついたちゃんちゃんこのようなものを羽織り――艶のある黒髪のショートボブに、純金の飾りが光っている。

 前髪パッツンの下から覗く鋭い目が艦橋に存在感と緊張を強いる。


 ――その時、艦橋に連絡が入る。


「イツクシマから発火信号! 『右舷ニ、マニューバ見ユ』」

「マニューバ? 空賊か?」

「いいえ艦長、翼を振っていますので、近くの街の機体でしょう」

 艦長の問いに、艦橋要員の1人が穏やかに答えた。


「何? マニューバとな?」

「畏れ多くも畏くも、皇太女殿下――真っ白な機体ですので、セラミック製の発掘マニューバかと……」

 一般の兵士が皇族と会話をするなど、普通では考えられないのだが、この少女は少々違うようだ。


「なんじゃと!?」

 白い着物を着た少女が、望遠鏡らしきものをもって側面のガラス窓の側へ行くと――近くにいた兵士が緊張した面持ちで3歩下がる。

 それを気にも止めず、少女は黒い髪をかきあげると、筒を覗きこんだ。


「ほう! 確かに、発掘マニューバのようじゃな! なんという美しい機体じゃ」

「このような辺境にも発掘マニューバがいるのでございますな」

「マニューバから発火信号! 『航空ノ安全ヲ祈ル』」

 マニューバは反転――白い腹を見せると、離れていった。


「ふむ――美しい機体じゃったが、妾たちが向かう先で待ち受けているのは、もっと素晴らしい機体じゃぞ?」

「何やら――噂ですと、黄金のマニューバだとか」

「その通りじゃ、艦長! まさに、まさに! 遺跡を発掘するという、皇族の仕事にふわさしい! いにしえの言葉で言えば、ライフワークじゃ!」

 艦長はニコニコと笑っているのだが、内心は不満があるようだ。


(なんで、この俺が、こんな仕事につきあわされにゃならんのだ――とはいえ、皇族のお姫様を送り迎えするだけで特進も望めるのだから、愚痴は言うまい……)


「なんじゃ、艦長。不満そうじゃの?」

 少女が、鋭い視線でジロリと艦長を見た。


「いいえ! とんでもございません! 皇族方のライフワークとやらにご同行できるとは、至福の喜びであります!」

 艦長は背筋を伸ばすと、わざとらしい気をつけと敬礼で皇太女に返答した。


「ふん……」

 少女は、畳の上に戻ると再び胡座をかいた。



 ――巡航艦と別れたシュラは、そのまま30分程飛び、街の近くまで戻ってきた。

 のんびりと飛んでも30分あれば、100km以上は飛べるのだ。車とは比較にならない行動範囲である。


「ふう、やっぱりマニューバだと、あっという間だなぁ」

『シュラ、街の様子がおかしい』

「えっ!?」

 ゼロの言う通り――街に近づくと、あちこちから黒い煙が上がっているのが見えてきた。


「なんだ? 火事かい?」

『いや、火事にしては同時多発的に火の手が上がっているようだ。なんらかの襲撃と考えて間違いないだろう。私の目から見ても、上空を飛んでいるのは街のマニューバではない』

 それに、黒い大型の輸送機が見える。


「今日は、親方は出かけて留守のはずだし、あんな輸送機がやってくる予定はない」

『あれは、敵の母機だと考えるのが妥当だろう。どうするシュラ?』

勿論もちろん、戦うに決っているさ!」

『それでは、初空戦は私がサポートしよう。私の記憶には、【ファルゴーレ(電光)】と呼ばれた先代マスターの戦闘情報が蓄えられている』

「頼むよ、ゼロ!」

『任せ給え。シュラはリヒート用のコンプレッサーを回してくれ』

「よし! コンタクト!」

 駆動機関後部にあるタービンが甲高い高周波音を上げ始める。


『先ずはリヒートに点火して、敵の上を取る』

「太陽をバックにして、降下するんだね?」

『そうだ、訓練でやった通りにすればいい』

 シュラはリヒートに点火すると、青い火炎を引きながら急上昇を始めた。

 この加速は、普通のマニューバでは真似ができない。

 そのまま急上昇を続け、街の上まで来ると反転急降下を行う。


 街の上では黒い3機のマニューバが我がもの顔で飛び回っており、街の対空砲は全て潰されてしまった模様。

 黒い甲虫の翅をそのまま外板に使っている普通の機体だ。通常は塗装を行い、黒いまま使うことはないのだが、この連中はそのまま使用しているらしい。


「ヒャッハー! 今日はマニューバが出払ってて、手薄ってことは解ってるんだぜ!」

 デカいゴーグルを装着して、頭をモヒカンにしている男が叫んだ。

 仲間の機体に発火信号で合図を送る。


「さて! お宝だという、発掘マニューバはどこかな~乗っているのもヒヨコらしいからな、へっへっへ、ボロ儲けだぜぇ!」

 この連中は空賊だ。通常、ナイツ同士でも、私闘での空中戦は行われる。

 墜ちた機体は、撃墜した者の所有物になるのだが――武士の情けならぬ、ナイツの情けで機体を取られることはない。

 その紳士協定を破り、本当に撃墜して機体を奪ってしまうのが、この空賊連中。

 樹海の奥に潜伏して、近隣の街や輸送機を襲い強奪を繰り返すゴロツキどもだ。

 帝国の軍隊も、こんな僻地のことなど、歯牙にもかけない。さすがに軍艦が襲われれば、帝国も重い腰を上げるのだが、奴らも馬鹿ではない。

 基本は弱い者いじめで金が稼げるのだから、軍隊にちょっかいを出す必要などないのだ。


 奇襲に成功した彼らだが――こいつらの目標であるシュラは、仕事がなくても暇さえあれば飛んでいるので、駐機場にはいない。


「おい! いたか?」

 隣にやって来た空賊の僚機に手振りでサインを送る。声は聞こえないので、こうするしかない。


 ――その時、隣にいた機体の左主翼が吹き飛ぶと、直後に白い機体が急降下で通り過ぎた。

 翼がなくなった黒い鳥は、コントロールを失い、錐揉みをしながら地面へ落下した。


「あいつか! くそっ! やりやがったな!」

 外板に使われている虫の翅は弾力があり丈夫だとはいえ、30mm砲の直撃を受ければ大穴が開く。

 急降下してきたシュラは、すぐに操縦桿を引くと、再びリヒートに点火――左斜めに上昇を始めた。

 そして、コクピットから左下方に見える黒い機体に次の目標を定める。


「いけぇぇぇ!」

 機体を捻り反転すると、降下スピードを利用して敵の旋回半径の内側へ潜り込んだ。

 後ろから猛スピードで迫り来る白い機体に、敵のナイツはパニックに起こした。


「うわぁぁ! た、助けてくれ! 俺は雇われてるだけなんだ!」

 一つ目の水中メガネのようなゴーグルのつけた黒い髭面の男が、後ろを見ながら叫んだが――当然そんな声がシュラに届くはずもない。

 次の瞬間――機体の尾翼が吹き飛び、黒い破片がバラバラと飛散。


「ぎゃぁぁ! 落ちる! 助けてくれ!」

 断末魔の声を上げ、黒い機体が森の中へくるくると回りながら墜落した。


 その光景を街の人間が、下から見物していた。


「おお~っ! やれやれ~っ!」「空賊なんて、みんなぶっ殺してもいいからなぁ!」「いけ! いけぇ!」

「「「おおおお~っ!」」」

 敵の黒い機体が落される度に、街の人間から歓声があがる。


「いけいけ~! シュラ君やっちまぇ! ぶっ殺せぇ!」

 運送屋の屋上で、レオナが大きな胸を揺らしながら、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。

 街の住民と同じようにシュラのマニューバを見つめている少女がいた。

 シュラの家の屋上で空中戦を見ている、マキである。


「シュラ!」

 風が吹き、マキの黒い髪がなびく。

 マニューバー同士の激しい決闘の証である轟音が空に響く中――彼女は、両手を胸の前で合わせると、ぎゅっと握りしめた。


 シュラとゼロのコンビが、空賊と空戦を始めた頃――樹海の上を飛び、ギュオール運送の輸送機が街へ近づいていた。

 輸送機のコクピットでは、運送屋の親方が腕を組んでいる。


「はは、予定より早く着いちまったぜ。帰ったら飯だな」

 その時、機体上部で望遠鏡による警戒を行っていた者から、伝導管で連絡がやってきた。


『親方! 街で多数の煙が上がってやす!』

「なんだとぉ! 火事か?!」

『いいえ、黒いマニューバと、白いのが空中戦をしているようです! デカい輸送機らしきのもいやすぜ!』

「くそっ! 空賊か?! 俺の留守の時に、好き勝手やりやがって! 野郎共! 戦闘準備だ、ぶちかませ!!」

「「「へいっ!!」」」

「よ~し! 両舷最大戦速!!」

「ヨーソロー最大戦速」

「砲撃戦用意~!」

 輸送機の前上部と後下部に、2門の40mm連装機関砲が装備されている。

 部下の復唱に、親方が追加の指示を出す。


「炸裂弾を使え! 相手は空賊だ遠慮する事はねぇぞ!」

「わかってやす!」

 通常、私闘でも炸裂弾は使用しない。

 マニューバはデフォルトでセラミック製の軽量弾を装填しているが、飛んでいる最中には弾種の交換が不可能。

 これは、輸送機だからできる芸当だ。


「くそっ!! どこだ! どこへ行った!」

 最後に残ったモヒカンの男が、コクピットから身を乗り出し、青い空の中でシュラとゼロを探している時――彼は、すでに次の目標を捉えていた。

 彼の目の前にある電影照準器に、葉巻型の黒い輸送機が浮かび上がる。

 躊躇なくシュラが引き金を引くと、輸送機のコクピット部分が丸ごと吹き飛んだ。

 魔砲の直撃である。バラバラと黒い破片が散らばり、コントロールを失った大きな円筒形はゆっくりと、街の外へ軟着陸。

 機体の真ん中辺りから折れ曲がった。


「なんじゃ、あの威力は!? かすっただけでバラバラじゃねぇか!?」

 モヒカンの男が叫び、この場から逃げるか迷った瞬間――小爆発が彼の機体を包み始め、機体を地震のように大きく揺さぶる。

 輸送機から行われた、40mmの近接信管砲弾による攻撃である。

 たまらず逃げようとしたモヒカンのマニューバにシュラの放った砲弾が直撃した。


「ぎゃぁぁ!」

 コクピット近くに命中した砲弾と機体の破片が、モヒカンに襲い掛かり――露出しているコクピットはあっという間に血の海となった。

 フラフラと街の外れまで飛行して斜めに着陸しようとしたが、脚を引っ掛けて激しくバウンド。

 そのままひっくり返った。


 その様子を上空から、シュラが旋回しながら見ていた。


『シュラ、初陣は上出来だ』

「やったよ! ゼロのおかげさ!」

『いや、どんな時でも冷静に、基本を実行できる者が勝つ。シュラには、それを確実にこなせる能力があるのだ』

「でも俺って応用が苦手なんだよね……」

『それも、経験でクリアできる問題だ』

「そうかな……あっ! 親方の輸送機だ! お~い!」

 シュラはコクピットから手を振ると、続いて発火信号を送った。


 その発火信号を受け取った輸送機の内部では――。

 コクピット内から、輸送屋の親方が街の様子を確認していた。


「白いマニューバーから発火信号! 恐らく坊主のマニューバーだと思いやすが――『マニューバの回収作業ヲ頼ム』」

「了解だと伝えろ!」

 バシャバシャと発火信号機を使う乗組員の横で、別の乗組員が望遠鏡を覗き込み、街の様子を確認している。


「街の様子は火事が少々と、対空砲の損傷だけでやんすね」

「おう! それにしても、シュラの奴は何機落としたんだ?」

「見た限りは――3機じゃないすかねぇ。それと輸送機が1機」

「しかし親方。あの輸送機は前が吹っ飛んで、真ん中から折れてやすが、直りますかね……」

「あれが魔砲の威力か――あんなんで、撃たれたくねぇ……」

 魔砲の威力に、乗組員たちが股間を縮み上がらせている。


「モノコックなんだから、繋げりゃ使えるだろ。炉が壊れることはないしな。それにしても……わっはっは! おい、お前等――今日は徹夜だぞ!!」

 マニューバーに載っている無尽炉や反重力炉は、火災になっても燃え残り普通に使える。

 そのぐらい頑丈で壊れない。


「あ~、あの坊主がウチに来てから、忙しすぎる……」

 コクピットにいる運送屋の従業員が計器盤を操作しながら愚痴をこぼす。


「何を言ってやがる! 金を稼ぐのが嫌なら、辞めろ!」

「そうは言ってやせんけどね。あ~徹夜で金が稼げて嬉しいな~っと」

 乗組員は少々ヤケクソ気味だ。


「マニューバー3機に輸送機だぞ? 大金を目の前にして愚痴をこぼすなんぞ、お前等ぐらいのもんだ。わっはっは!」

 空戦ではナイツ同士の暗黙の了解がある。空賊たちは、それを破っているのだから、落とされて機体を取られても文句は言えない。


 親方の輸送機は、すぐにマニューバーや輸送機の回収作業に入った。

 輸送機は大破しているが――反重力炉が生きているので、自力で動けなくても牽引することが可能だろう。

 つまり浮かばせて、輸送機で引っ張るわけだ。


 輸送機が回収作業に入ったのを確認して、シュラが着陸姿勢に入った。

 戦闘で無茶をしたので、水が少ないのだ。リヒートも使いまくったので、燃料タンクも空に近い。

 戦闘で高ぶった気持ちをクールダウンするように、ゆっくりと降りてきたシュラだが、滑走路には街の人々が待っていた。


「「「わぁ~!」」」

「やったな!」「久々にスッキリしたぜ!」「この街の英雄様だ!」

 機体のすぐ側まで、住民たちがやって来て危険なのだが、その人混みを分けて、レオナがやって来た。

 機体から降りたシュラに抱きつくと、大きな胸を押し付けた。


「すご~い! シュラ君! もうお姉さん感動感激しちゃって、お腹の下辺りがキュンキュンしちゃっているんだけど!」

「あ、はい。ありがとうございます」

「あ~もう! そうじゃなくて!」

「なんです?」

 レオナはシュラに抱きついたまま、くねくねし始めた。


「いま――やったらぁ、確実に妊娠しちゃうんだけどぉ」

「はぁ? 意味が解らないんですけど?」

「もう! マニューバーが3機も手に入ったんだよ! 私のぉ子供もぉ、ナイツにできるじゃない?」

「何言ってんですか」

 訳の解らないことを言い出すレオナにシュラが困惑していると、人混みを抜けてマキがやって来た。


「人の亭主を誘惑しないでください!」

「ああん、少しぐらい分けてくれてもいいじゃない?」

「ダメです! ……シュラとぉ私の子供がぁ、ナイツになるんだからぁ……」

 マキが真っ赤な顔をして、モジモジしはじめた。


(そりゃ、やることやっているんだから、いずれは俺とマキの子供ができるよなぁ。でも彼女の言うとおり、3人子供ができても、ナイツにしてあげられる)

 もちろん、ナイツになるには才能も必要になる。高度な三次元空間把握能力や、メカニズムの知識、計算力、空を飛ぶ孤独への耐性が必要なのだ。

 巷でもそう言われているのだが、ナイツの子供は高い素質を持っていることが多い。

 シュラのように、ある日突然にマニューバーを手に入れて才能も持ち合わせている――というのは珍しいことなのだ。

 ちなみに、この世界で重婚は問題ない――とはいっても、複数の妻を持つのは貴族か、大店の商人が普通だ。


「おお~っ! いいぞ! やれやれ!」「英雄の取り合いだ!」

 野次が飛ぶと、急に恥ずかしくなったのか、マキが離れてしまった。


「子供の件はおいといてぇ、マニューバーのことでやってみたい改造あるんだけどぉ」

「なんでしょう?」

「3機も手に入ったんだから、1機を複座に改造しない?」

「いいですね、それ! そうすれば、マニューバーの教練がしやすくなる」

「それに、急なお客を乗せるのにも便利だよ」

「そうですね」

 マニューバーに人を乗せる時は、無理やり機体へ押し込めないとダメなのだ。


(用途によって、使い分けもできるようになるな)


「でも、俺の落とした機体は修理可能でしょうか?」

「駆動機関にはヒットしていなかったから、大丈夫っしょ」

 彼女はメカのプロだ。そこら辺は彼女に任せるしかない。

 普通のマニューバーは、ゼロのような診断プログラムを持っていないのだ。

 それに、シュラが乗っているような発掘マニューバーと違い、汎用のマニューバーは構造が簡単。

 リヒート機能すらないものもある。

 レオナの話では、ゼロに比べたら改造は簡単だと言う。


「私が図面を引いて、外注の業者に出してあげるよ」

「よろしくお願いします」

「もう! シュラ君と私の仲なんだから、もっと砕けていいのにぃ」

「だから、止めてください!」

 シュラに抱きついてくるレオナとの間に、再びマキが割って入った。


「「む~っ!」」

 シュラが観客の方を見ると、他にも熱い視線を送っている女性が多数いる。

 なんといっても、彼は街を守った英雄となり、1人で3機、輸送機1機を撃墜して、一気に撃墜王エースとなった。

 一目置かれるのも当然で、シュラに住民たちの視線が突き刺さる。


(俺は、マニューバーで空を飛びたいだけなんだけどなぁ……)

 彼の望みとは裏腹に、これだけの偉業ともなれば、人の噂は千里を走る。彼も有名人になるだろう。

 もしかしたら、売名の為の私闘も多くなるかもしれない。


 それを考えると、シュラは少々鬱々としてしまうのだった。


 

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