表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
31/41

暗黒騎士さん、兄と会合する

「はっ……はっ……はぁ……っ」


 暗黒騎士さんは独り。

 森の中を走り続ける。

 背後には誰もいない。ただ、熱量のみが離れない。あの炎の熱量は、怒り。誰かの為に、怒れる彼女は、本当にいい人なのだろう。

 烈火のような感情を、自分は抱いたことがあっただろうか。

 

 わからない。

 けれど、進まなくてはならない。

 自分の為に。


 自分の、為に。


 脚が縺れそうになる。

 息が荒く、呼吸がし辛い。

 それでも、足を止められない。

 

 一緒に訓練した彼らは、既に戦いの最中だろう。

 彼らが死んでいくのを、暗黒騎士さんは見捨てることなど出来やしない。

 彼らが戦っているのに、間に合わないということなど、あってはならない。


 だから足を進める。

 どれだけ苦しくても、どれだけ辛くても。

 足を止めることなど出来やしない。


「っは……っは……ぁ!」


 目の前に光が見える。

 それはきっと、森の出口。


『――――――――――――――――――――――――………ぉぉぉっ!!!!』


 向こうから声が聞こえてくる。

 それはきっと、鬨の声。

 

 戦う兵士たちが上げる、号砲が、薄っすらと聞こえてくる。

 まだ間に合うと、暗黒騎士さんは駆け抜けた。

 希望を胸に、前へと向かった。


 だから気付けなかった。


 光の中に、誰かがいた。

 黒い、誰かは、漆黒の大剣を、振りかぶって。

 暗黒騎士さんに向けて。

 振りかざして。


「――――ッ!?」


 気付いた瞬間、暗黒騎士さんの脚から力が抜ける。


 転倒するように、その場に崩れ落ち、転がった。

 その頭上を、大剣が通過した。

 間違いなく、致死の一撃であった。


「……躱したか、いや、偶然か」


 漆黒の鎧姿。

 禍々しきそれは、暗黒騎士のものに他ならぬ。

 漆黒の大剣は、魔剣であり、暗黒騎士の象徴。

 暗黒騎士さんの前に、暗黒騎士は立ち塞がった。


「……に、い……さん」


 見上げるようにして、口を開く。

 小さく呟いた言葉は、空間に溶ける。


 自分が転ばなければ、その大剣は丁度首の位置を通過していた。

 その結果、どうなるのかは説明しなくてもわかる。


 兄は、自分を殺そうとしたのだと、暗黒騎士さんが理解するまでに時間はかからなかった。


「……な、何故、ここに?」

「何、貴様が近付いていることは知っていたからな」


 兄が大剣を担ぎ上げる。


「ついでに、殺しておこうと思ってな」


 その言葉は冷たい。

 何よりも、誰よりも冷たい言葉が、暗黒騎士さんの胸に突き刺さる。


「貴様は魔族の恥である。ならば身内である俺が、貴様を殺すのが道理だろう。我が妹よ」


 ふらつきながら、暗黒騎士さんは立ち上がる。

 兄の視線は、真っ直ぐに彼女に向かっている。


「さぁ、剣を執れ。俺はそこまで優しくはないが、せめて抵抗する程度には、機会を与えてやろう。喜べ、貴様と初めて戦ってやる」


 無理だ、と思った。

 勝てる筈がない、と思った。

 自分はここで、死ぬ。

 それが道理だと、思った。

 思ってしまった。


 けれど。


「……た、確かに、に、兄さん……と戦うの、初めて……」


 その背中を追っていた。

 彼を見続けて、ここに来た。

 自分よりも遥かに優秀である兄。

 魔王軍にして、信頼の厚い彼を、どうすれば打倒出来るのかはわからない。

 けれど、どうにか出来なければ死んでしまうのだ。


 剣を構える。

 それは暗黒騎士の使う剣術。

 同時、兄も全く同じように構える。

 

 まるで鏡合わせの獣。


 号砲は遥か遠く。

 戦場の片隅で、戦闘が始まった。


「……ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 暗黒騎士さんは声を荒げる。

 ここで打倒出来なければ、自分は死ぬ。

 それでも、抵抗しなければならない。

 

 何故なら、自分を頼ってくれた人を、彼女は見捨てることが出来ないのだから。

 シルヴィアを助ける為に、ここに来た。

 だから自分の騎士道に、背くことなど、出来ないのだから。


 脚に力を入れる。

 振りかざした剣は、未だ力及ばず。

 剣術は、未だ未熟。

 だからとて、ここで止まる訳にはいかないのだから。


「……遅いな」


 兄の姿が影に消える。

 暗黒魔法を用いた「影走り」。その速度は、影の移動速度に準ずる。

 即ちそれは、光の速さに等しい。


 一刀。

 兄は振り抜いた。


「――――な……っ……ぐ、ぅ……!?」


 暗黒騎士さんはわき腹を抑えて、勢いのままに転倒した。


「どうした? まだ始まったばかりだぞ、立て」


 兄は言い放つ。ただ、冷たく。


 暗黒騎士さんの肩に絶望が圧し掛かる。

 抗いようのない理不尽に、けれど前に進む為、暗黒騎士さんは再び剣を構えた。


 遠くから、剣戟の音が響いている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ