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暗黒騎士さん、魔族だと暴露される

「魔族……?」

 

 リーゼリットが怪訝そうに暗黒騎士さんの方を見る。

 

「なんだ、その様子じゃ知らなかったんだね。でもわかるよ。けど、どういう訳か、そいつからは暗黒の力を感じない……ああ、そっか、こないだ追放されたの、君だったんだ」


 御者の姿をした男が笑う。


「アン殿、後で聞かせてもらうぞ……貴様、シルヴィア様を離せ」


 リーゼリットが剣を抜く。

 目の前の男にぴたりと切っ先を向けて、構える。正面に構えたそれは、王道を往く騎士のものだ。何者であろうとも、正面から叩き伏せる意志を向ける。

 だとしても、男は変わりない。

 変わりない笑みを浮かべて、シルヴィアを担ぎなおす。


「っと、怖いなぁ……君たちと正面から戦うのは面倒くさそうだ」

「戯けたことを。貴様、いい加減正体を見せろ。その外観は、人間臭くて吐き気がする」

「それはできないなぁ……」


 男の姿が一瞬、影に包まれる。

 影が晴れると、そこに立っていたのは野盗の頭だ。


「僕たちの種族はね、こうして他人の影を被らないと生きていけないんだ。だから僕らは他人の姿を集めるのさ」


 姿が変わる。

 野盗たちの姿が次々と移り変わる。

 姿を変え、形を変えても、その浮かべる笑みだけは変わらない。

 

「さて、それじゃ、僕は忙しいんだ」

「逃がすと思うか?」

「逃げさせてもらうんだよ、お陰で時間はたっぷりあったからね」


 再度、野盗の頭に姿を変えた男。

 その足元から影が広がる。地面を飲み込み、まるで侵食するかのように、ざわざわと影が広がる。影の中から何かが見える。

 刃が見える。

 人の手が見える。

 ざわざわと、それが何人も何人も。

 ぞろぞろと、まるで影の中から生まれるように。

 影のような姿をしたものが、各々の獲物を構える。


「……お前、影法師の種族か……」

「そこの魔族は良く知ってるね……そう、僕らは影。影に潜んで影を使う。それじゃあ、君たちはそいつらと遊んでなよ。僕は行かせてもらう」

「させるか!」

 

 リーゼリットが前へと駆ける。

 刃が走る。その前に、男の周囲を影が覆い、影がまるで槍衾のようにリーゼリットを迎撃する。


「――っく!?」


 堪らず、リーゼリットは後退する。

 その周囲に影が湧く。リーゼリットを拘束して、その動きを阻害する。


「君たちはそいつらと遊んでいるといい。僕は忙しいんだ」

「待てっ!」

「じゃあね」


 男の姿が影に包まれ、消える。

 後に残るのは、野盗の姿をした影だけ。手に持つ獲物をこちらに向けて、どうにも逃がしてもらえそうにない。

 

「クソっ!」

「……悔やむのは……あと」


 暗黒騎士さんがその剣で、拘束を断ち切る。

 伸縮性はあるが、斬撃への耐性は少ないようで、影はあっさりと切り裂かれる。


「……それもそうだな。急ぐぞ」


 目の前には影。

 二人の騎士は、戦闘を開始する。









 怖い、と暗黒騎士さんは思った。

 絶対に勝てないであろう、とも思った。

 影法師は卑怯者ではある。だが、暗躍を行うものが多い。

 

 そして、何よりあいつは、戦場に出て、実際に戦っている魔族だ。

 怖い。

 そう思う。

 けれど、何より怖いのは、魔族だと暴露されたこと。


 今まではなんとかなっていた。

 けれど、リーゼリットがどう思うかは、別の問題だ。


 暗黒騎士さんは戦場に出たことがない。限られた、狭いスペースでしかコミュニケーションを知らない。

 だからどうしたらいいのかわからない。

 わからないのだけど、それならばわからないなりに行動すればいいのだ。


 リーゼリットを助けたのもそれ。

 同じ魔族に反するのも、それ。

 結局は自分の中の騎士道に従っている。

 リーゼリットも同じであると信じているから。


 この窮地を脱するため、暗黒騎士さんは剣を執る。

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