2 そもそも重いTS小説って何?
ところで、少年少女文庫が出始めた時代というのは2000年頃。
ライトノベルが興隆しはじめる時代です。
ライトノベルという概念は単純に言えば、漫画を文字で表現してみようということから起こりました。
その萌芽となっているのは、たぶん1980年代くらいからあったライトSFが元になっていると思います。
おじちゃんたち知ってるかな?
『新井素子』の『今はもういないあたしへ』とか。
この、地の文で『あたし』とか言っちゃう系の小説が、今のライトノベルの祖先です。
ライトノベルっていうのは、簡単にいえば文字が軽いこと、つまり『わかりやすさ』で満ちていることを指します。で、このわかりやすさというのは文字のサイン化も意味しています。
ん?
むずかしい?
そっかなぁ。文字のサイン化っていうのは、ああいえばこういうみたいなお約束みたいなものだよ。
漫画だったら、ほっぺに斜線入れてたら照れてるって『意味』になるでしょ。あれと同じ。
文字でも、「なんでもしますから」「ん?」みたいな流れがあるけど、それと同じ。ちょっと違うか。
いまのは忘れて!
こほん。
ともかく、そんなみんなで共通のサインを決めているのがライトノベルってこと。
でも、ここで問題になるのは、TS小説でもなんでもだけど、フェチズムみたいな重さがあるとサイン化がうまくいかないのです。
だって、フェチズムというのはきわめて個人的な体験です。
要するに何に萌えるかは人次第ってこと。
ただ、大衆性のある萌えと大衆性のない萌えというのははっきりしていて、それがTS小説の中でもさらなるニッチな分野とそうでない分野を生み出しているのです。
ニッチ中のニッチ。TS小説のなかでも重いといわれるのは、『人体改造系』『皮モノ』『進行形TS』です。
人体改造は男の身体をちょっとずつ改造していきます。皮モノは皮を着込むと女性に見えるんだけど、脱いだらそうじゃなくなるっていう小説です。進行形TSは男から徐々に女性になっていくという系統です。これらの系統は男としての要素が残留するので、ニッチになっているところはあります。
逆に、軽いのは『入れ替わり』と『変身』ものです。
少年少女文庫がロマンを追い求めている、つまりファンタジーとしてのTSを求めている以上は、『ありえないほどにかわいらしい』というリアルさの欠片もないほうが、その要素が強くなります。
したがって、入れ替わりよりも変身のほうが若干精力的には上回っていたかなと思うのですが、入れ替わりも負けてはいません。少年少女文庫ではこの二大ジャンルが趨勢を極めていました。
両者には共通の点もあります。
それは『ストーリー』を重視したということです。
例えば矢治浩平さんの『コンチェルトをもう一度』シリーズは、仮性半陰陽という若干リアルさを持たせた設定の主人公になっていますが、内容としてはラブコメに近いストーリー重視の話でした。
この方は最終的には確か少年少女文庫の管理人になっていたかと思うんですが、当時の投稿型サイトというのは管理者に『メール』などで『お願い』して『代理投稿してもらう』というかたちが多かったので、必然的に管理者の属性にシンパシーを感じた人が投稿することが多かったように思います。
かくして、少年少女文庫は『ストーリー』重視になっていった。
――とは言い切れない。
え?
なに、このちゃぶだい返し。
と思っちゃうかもしれませんが、実をいうとやっぱりTS小説はそもそも『変身』は『変身』でも、女の子になったシミュレートがしたいという人もいれば、そうではなくて『変身そのもの』が読みたいって人もたくさんいたんです。
ふぁー?
なんだそりゃって思うかもしれませんが、そういうもんなんです。つまり、変身の瞬間を書きたいってタイプ。
主人公がなにやらやってたら、突然真っ白な服を着た女の子がやってきてTSさせられる恐怖。
そんな小説もたくさんあったんですよね。
おそらくそういった『変身の最中』に着目する小説も存在したのは、少年少女文庫の投稿形式というかインターフェイスが短編向きだったからだと思います。これって東方の創想話にも共通するんですけど、1話と2話が連続しないというか、リンクが張られる形式ではないということになると、短編のほうが読まれやすいということになります。それに、TS小説の比率的にやっぱりTS要素が書きたいんだ読みたいんだという層も一定以上いて、それが短編の多さにつながっているんだと思います。
少年少女文庫の専属絵師といっても過言ではないMONDOさん。
この方がよく描かれていらっしゃるのが『変身中』の絵だったように思います。
このあたりややこしいんだけど、やっぱり少年少女文庫でライト層に絞ったんだけれども、完全には絞りきれていない例外もたくさんあったんだという話ですね。文庫内でもカオスはカオスだったというか。
けれど、少年少女文庫のTS小説が今のなろう小説につながっていると考えれば、将来的に生き残っていったのはライトTS。すなわち、ストーリー重視のTSということだと思いますよ。
次はストーリー重視のTS小説について語ります。




