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ロリータ・ガンバレット ~魔弾幼女の異世界戦記~  作者: すてるすねこ
第4章 幼女、泣く子の手を引いてあげる編
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第23話 おうちに帰るんだから寂しくなんてない



 魔導国首都マジスは、深い困惑と悲嘆に満たされた。

 敵国の軍勢に城内を踏み荒らされ、建国の祖である魔女ミルドレイアまで討たれたのだ。長病を患っていた国王もすでに息を引き取っていたのだが、それすらどうでもよくなるほど、大きな衝撃が住民にもたらされた。


 魔女ミルドレイアの存在は大きかった。魔導国の国民ならば誰でも名を知っている上に、尊敬どころか崇拝する者も少なくなかった。

 過去の逸話など、かなりの虚飾も混じっているが―――、

 それが却って良かったのだろう。


 本物のミルドレイア様が、こんな簡単に討たれるはずがない。

 実は偽物だったのではないか、と。


 そんな噂が当日の内に流れ始めた。ゾエンヌやブラローンの兵が住民への説明や戦後処理にあたったのも、安心をもたらす材料になっていた。

 住民は困惑こそしていたものの、大きな混乱はなく、城へ入る帝国軍を静かに見送った。その先頭ではためく黒地金狼の旗に、ひどく怯えた目を向ける者も少なくなかったが。


 城に入った帝国軍兵士には、ひとまずの休息が与えられた。

 無論、他国領内で完全に気を抜くことはしない。交代で警戒する兵士は残しておく。それと、もうひとつ密かに行わなければならない仕事もあった。


「ったく、死んでも迷惑な奴だな」

『同意します。ですが、やはり放置するのは危険でしょう』


 数十名ほどの兵士を連れて、ヴィレッサは城の地下を訪れていた。

 ミルドレイアが勝手に改装した地下施設は、研究室と、そのさらに下層に迷路のような広大な空間が造られていた。


 禁忌術式を発動させるための仕掛けだ。

 危険と言っても多少のものだが、放置しておくのは気分が良くない。


「上に街がなけりゃ、一気に崩して終わりなんだけどな」

「なに、埋めるだけならば楽なものです。今夜にも終わるでしょう」


 ゼグードの指示に従って、兵士が地下通路へと散っていく。土系統の魔術に長けた者を選んだので、言葉通りの結果が期待できるだろう。

 ただ、少しだけ残念にも思う。


 城どころか、周囲の街の地下にも及ぶ広大な地下迷路なのだ。造りもしっかりしている。走り回ってもまったく問題ないだろう。

 ちょっとだけ、童心に帰って遊びたくなるのだ。

 さすがに自重した。でもルヴィスやレイアが一緒だったら危なかった。


「どうせなら、広い野原に作った方が……」

『マスター?』

「ああいや、なんでもねえよ」


 咳払いをしつつ、ヴィレッサは腰の魔導銃に小さな拳を当てた。そうして気を引き締めなおす。


「まあ残しておいたって、偏屈な研究者が喜ぶだけだしな」


 後の作業は任せて、ヴィレッサは先に戻ることにした。

 その途中で、研究室から拾ってきた紙束に目を通す。古代文明や魔導遺物に関する事柄が、百枚以上にも渡って書き連ねられていた。


 複雑な術式など、ヴィレッサには理解できない部分も多い。

 けれどざっと読んだだけでも、無視し難い単語が目についた。


「魔王リーゼルヒルデ、か」


 なかなかに物騒な肩書きを持つ相手だが、警戒は無用だろう。

 なにせ、すでにこの世界には存在しないのだから。

 無限の魔力を持つ彼女は、その力で異世界へ渡ったという。それだけでも信じ難い話だが、なにより驚くべきは―――。


「本当かよ? 古代遺跡も、魔導遺物も、全部一人で造ったってのは?」

『不明です。残念ながら、知識書庫にも断片的な情報があるのみです』


 ミルドレイアの研究によれば、各所の遺跡にある魔術的痕跡が共通しているらしい。同一の指紋や筆跡が残されているようなものだそうだ。


 さらには、獣人族やエルフィン族も、彼女によって創造されたという。

 あるいは、この世界の環境すべても―――。


『シャロン先生でしたら、何か知っているかも知れません』

「有り得そうだな。エルフィンの長老たちは不老だっていうし……んん?」

『どうかなさいましたか?』


 問い返されて、ヴィレッサは悪戯っ子みたいな笑みを浮かべる。

 大したことではない。ただ、ちょっとした変化が嬉しかった。


「おまえがシャロン”先生”って言うのも、面白いと思ってな」

『……そうですね。マスターの口調が感染ってしまったようです』

「なんか随分と人間らしくなったよな。ミルドレイアに対しても、やけに感情的になってただろ?」

『否定します。私はいつでも冷静です』

「はっ、そうやって言い返すのもな。悪くねえぞ」

『…………』


 沈黙した魔導銃(ディード)から、むっつりとした気配が漂ってくる。

 ヴィレッサは苦笑を零しながら、地上へと続く通路を進んでいった。








 二日間の休息と戦後処理を挟んで、ヴィレッサ率いる帝国軍は早々に帰国することとなった。元より、国内に幾つもの問題を抱えている。可能な限り急いで行動するのは、出陣の時点で決めてあった。


 もうひとつ、不穏な情報があったのも帰国を急いだ理由だ。

 先のヴァーヌ湖城砦戦の前、魔導国内のいくつかの貴族に、レミディア聖教国の使者が接触していたという。

 グロウシスが手に入れて、ゾエンヌを介して語られた情報だ。それなりに確度の高いものらしい。


 レミディアの意図は不明。すぐに推測されたのは、帝国に対する東西からの挟撃策だ。言葉にするのは簡単だが、そう簡単に国家間の合意がされるものではない。しかし現実として、帝国は多数の敵を相手取る状況に追い込まれていた。


 何故この時点になって情報が流れてきたのか、という疑問もある。

 もっと早くにレミディアの策謀を察していれば、ヴィレッサは帝国内へ駆けつけていた可能性もあるのだ。

 レイアを見捨てる選択肢はなかっただろうが―――。


「やっぱ魔弾の一発くらいブチ込んでおくか?」


 グロウシスに対して殺意を再燃させたヴィレッサだが、残念ながら相手は領地に篭もったままだった。ゾエンヌの仲介もあって戦後処理を優先させた。

 グロウシスに悪意は無い、という言葉に対しては半信半疑だ。

 金蔓として徹底的に搾り上げる、という条件でひとまず納得した。




 ともあれ、魔導国内での戦いは終息した。

 準備を整えた帝国軍は、規律正しく、早朝から行軍を始めていた。


「ふぁ……」


 大きな欠伸をしたヴィレッサも、すぐに表情を引き締める。

 外門を出ると振り返って、一旦黒馬から降りた。

 ゾエンヌやブラローン、そしてレイアも、見送りに出てきてくれていた。


「アンタは、まるで嵐のような子供だったねえ」

「なんだよ、最後にきて嫌味か?」


 一歩前に出たゾエンヌに、ヴィレッサは肩をすくめてみせる。

 互いに悪意はない。遠慮もない。

 年齢も生まれた国もまるで違うが、同じ戦場を駆けた者としての信頼があった。


「嵐だって悪いことばかりじゃないさね。恵みの雨にもなる。雷が落ちた土地には豊作が訪れたりもするんだよ」

「年取ってるだけあって物知りだな。でも、その実りの前に寿命が来るんじゃねえのか?」

「はっ、くたばってる暇なんてありゃしないよ」


 軽やかに咽喉を鳴らすと、ゾエンヌは隣に立つブラローンの背を叩いた。


「まだまだ目を離せない子供がいるからね」

「子供って、僕はもうそんな年じゃ……」


 また背中を叩かれて、ブラローンが前に押し出される。

 ヴィレッサと対峙させられる形になって、うっ、と肩を縮めた。


「えっと、あの、その……」


 別段、ヴィレッサは何も言っていない。ただ目を合わせただけ。

 それでも充分に鋭利な眼光を受け止めて、ブラローンはようやく一言を紡ぎ出した。


「ありがとう。君のおかげで助かったよ」

「……ぷっ」


 思わず吹き出して、ヴィレッサは目元を緩める。

 ブラローンは困ったように頭を掻いて、ゾエンヌも溜め息を落としていた。


 今回の戦いは、帝国軍としては魔女ミルドレイアを討つために行ったのだ。ヴィレッサには友人(レイア)を助けるという目的もあったが、いずれにせよ、他国へ勝手に軍を進めたのは間違いない。

 さらに加えて、戦費も協力金という名目でぶんどっている。帝国に有利な不可侵条約も結ばせた。ヴァーヌ湖城砦戦に関する賠償金もかなりの額になった。


 まあ、交渉では手加減もした。あまり隣国に混乱されても困るからだ。

 その点は、出発前にルヴィスから注意もされていた。


 だがけっして、魔導国のために戦ったのではない。結果としてブラローンは国をまとめる立場となれたが、だからこそ感謝を口にしてはいけないはずだろう。

 仮にも国王が、勝手に領土内へ入ってきた他国に謝辞を述べる。

 皇女としては暴れ過ぎているヴィレッサでも、その言葉がどれだけ非常識なのかは理解できた。


「婆さん、よかったな。老後も退屈しねえで済みそうだぜ?」

「まったくさね。どうしてこう、アタシの前には非常識な連中ばかり現れるんだろうね」

「あの……僕が一番、常識的だと思うんですけど?」


 悪態に気弱な声が混じって、笑い声で締めくくられる。

 穏やかな雰囲気で話が一区切りすると、今度はレイアが歩み出た。

 複雑な表情をして、瞳を微かに滲ませている。


「ヴィレッサちゃん……」

「近い内に、また会いに来るぜ」


 にぃっと笑ってみせて、ヴィレッサのレイアの頭を撫でた。

 隣で大人しくしている、大小の黄色い粘液体(スライム)にも声を掛ける。


「おまえたちも、しっかりとレイアを守れよ?」


 ぷるぷると震える粘液体は、自信満々に頷いているように見えた。

 その様子に、レイアもくすりと笑みを零す。


「そうだよね。ルヴィスちゃんとも、またきっと会えるよね!」

「ああ。ルヴィスにも伝えておく」


 元々、レイアは魔導国で生まれ育ったのだ。理不尽に追われる形で故郷を出ていても、思い入れは残っている。帝国で普通に暮らすのも難しかっただろう。


 これからはゾエンヌの養女として暮らしていく。

 いずれは貴族としての地位を継いで、女王として君臨することもあるかも知れない。レイアが持つ特異な魔術の才能は、魔導国を支える大きな力になるだろう。


「私ね、いっぱい勉強するよ。ヴィレッサちゃんみたいに強くなって、たくさんの人を助けられるようになる!」

「あたしはあんまり参考にならないと思うけどな」


 ほどほどに頑張れよ、と応援しておく。

 そうして小さな手で握手を交わすと、ヴィレッサは身を翻した。


 黒馬に跳び乗り、手綱を引く。


「それじゃあ、またな!」


 振り返って、犬歯を剥き出しにした笑みを投げる。

 ゾエンヌやブラローンは静かに頷き、レイアはぶんぶんと手を振ってくれた。


 ヴィレッサは軽く目蓋を伏せると、正面を見据えなおす。

 もう振り返りはしない。付き従う騎士たちへ目線で指示を送ると、東へと向けて馬を走らせた。










 その翌日―――、

 帰国途上のヴィレッサの元へ、急報がもたらされる。

 ヴァーヌ湖城砦との連絡役を務める転移術師は、ルヴィスの言葉として伝えた。

 一刻も早く帰還して欲しい、と。




次回より新章です。

シャロン先生も大活躍の予定!

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