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ロリータ・ガンバレット ~魔弾幼女の異世界戦記~  作者: すてるすねこ
第4章 幼女、泣く子の手を引いてあげる編
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第22話 魔弾vs魔女②



 あるところに、一人の魔女がいた。

 彼女はとても優れた魔女で、多くの人々に頼りにされた。


 日照りが続けば、雨を降らしてみせた。

 病人がいれば、手をかざすだけで治してみせた。


 魔女を慕う者は増えて、やがて国となった。誰からも頼られる魔女は、とても忙しくなったけれど、いつも笑って人々のために努力していた。

 でも、すべての人を救えた訳ではなかった。

 魔女はけっして万能の神様ではなかったから。


 もっと自分に力があれば―――そう望んだ彼女は、とある存在を知る。

 それは古代に君臨した偉大なる王。

 魔王とも呼ばれた、無限の創造主。


 その無限の力を宿した核は、いまもこの世界の何処かに残されている。

 もしも、その力を手に入れられれば―――、


 どんな魔法でも使える。どんな願いだって叶えられる。

 すべての人々が幸せになって、きっといつまでも笑って暮らせる。

 大きな夢と希望を抱いて、魔女は一人で旅をした。


 他の何もかもから目を背けて。すべてを置き去りにして。









 魔女は笑う。

 溢れる光に包まれて、数百年に及ぶ人生で最高の瞬間を迎えたかのように。

 いや、事実、最高の瞬間に違いない。

 少なくとも彼女にとっては。


 けれどヴィレッサは違った。青白い光に縛られた状態で、不機嫌に眉を寄せている。暴れ出さないのは、相棒(ディード)が冷静な声を投げてきたからだ。


『マスター、これは禁忌術式七号を改変したものだと推測できます』

「禁忌……? なんだそりゃ?」


 何かしらの魔術だというのは分かる。でも聞き覚えのない名称だ。

 そして次の名前も、初めて耳にするものだった。


『私の創造主でもある、魔王リーゼルヒルデ様が生み出した術式です。とても冒涜的な術式なので使用を禁じられました』

「……あ~、ちょっと待て」


 動けないヴィレッサだが、頭を抱えたくなった。


 なんだか急に深刻な話を聞かされた気がする。

 禁忌とか、魔王とか、物騒な単語を聞き流すのはよろしくない。

 目の前の魔女も、さっさと始末してやりたいのだが―――。


「とりあえず、その魔王ってヤツの名前が出たのは初めてだよな?」

『肯定。秘匿事項でしたが、禁忌術式の発動によって開示条件が満たされました』

「秘匿……? おまえは知ってたのか?」

『否定です。知識書庫には、極一部ながら私が進入できない部分がありますので。マスターが強く望み、私も必要と認めるならば、無条件で開示されますが』


 ざっと説明を受けながらも、ヴィレッサは口元を捻じ曲げた。

 そういうことはもっと早く言え、とも思う。


 けれど納得できるだけの事情もあるのだろう。

 様々な魔導遺物をはじめとして、古代の文明と自分が持つ無限魔力は、何かしらの関係があるのは分かっている。


 多少の興味はある。暇があれば調べてもいい。

 だけど危機感はまったく覚えない。

 いまも手にある魔導銃(ディード)には、幾度も助けてもらったのだ。


 それで充分。

 ごちゃごちゃ考えるよりも―――自分はただ、敵を殺せばいい。


「とはいえ、あたしを縛るってのはどういう理屈だ?」

『それは―――』

「貴方の無限魔力を奪うためよ」


 魔導銃《ディード》の声を遮って、ミルドレイアが嘲笑混じりに告げた。

 片足を失い、脇腹に穴が開いたままだというのに、勝ち誇った表情を見せつけてくる。


「これは、そういう特殊な術式なのよ。まずは貴方の魂に宿っている、無限魔力の核を奪う。それを適性のあるレイアへ移した後、私の魂から人格のすべてを書き写すのよ。素晴らしいでしょう?」


 ヴィレッサは無言で睨み返す。

 ろくでもない。それだけは理解した。


『なるほど。禁忌術式七号と、十三号を合わせたものですか』

「へえ、さすがに詳しいわね。やっぱり貴方は『極式』魔導遺物なのかしら?」

『肯定しますが、もはや貴方には意味のない情報だと断言します』


 どうせこれで終わりですから―――、

 ヴィレッサの代弁をするように、魔導銃(ディード)の口調に剣呑なものが混じった。

 あるいは、呆れか哀れみだったのかも知れない。


「意味がない? どうして? 私はこれから無限魔力を手に入れるのよ。そうなったら、貴方の新しい主人にもなるんでしょう?」

『否定します。私のマスターは―――』

「テメエなんざ、願い下げだって言ってんだよ」


 今度はヴィレッサが代弁して、腕に力を込める。いまにも出血多量で死にそうなミルドレイアを、殴りつけてトドメを刺してやりたかった。


 けれどやはり、ぎっちりと拘束されている。

 魔力も吸われ続けているのが感じ取れた。


「ふふん、無駄よ。なにせ貴方の魔力を使った術式だもの。でも随分と焦ったわ。発動にも大量の魔力が必要で、それを集めるまでに殺されるかと思ったわよ」

「……テメエ、まさか最初の戦いから!?」

「そうよ。魔導国軍はいい餌になってくれたわ」


 最初から、自国の兵士を使い捨てにするつもりだったのだ。ヴィレッサに魔力を使わせるため、己の野望の糧とするために。

 戦場に溢れた魔力を、この城へと流れ込ませた。

 そうしてヴィレッサも誘い込み、予め仕込んでおいた術式を発動させた。


「魔法陣の本体は、ここの地下にあるわ。貴方なら壊せるかもね? 試してみる?

動けない状態で、地下まで行けるのなら、だけど」


 呵呵大笑。

 嘲りの声を広間全体へと響かせてから、ミルドレイアは両腕を広げた。

 血塗れの体へと大量の魔力が流れ込んでいく。

 青白い光の奔流は、もはや魔力感覚に頼らずとも目で見えるほどだった。


「あはははっ、本当に凄い魔力ね。だけどこれでさえ無限魔力の一端に過ぎない。使いこなせれば、神にも悪魔にもなれる力だわ」

「おいディード、本当に大丈夫なんだろうな?」

『はい。もう放っておいて問題ありません』


 僅かな不安を覚えたヴィレッサだが、魔導銃は冷淡に否定する。

 自信たっぷりの口調で宣告した。


『あのバカは、自滅しますから』

「はぁ? 自滅? 何言っちゃってるの? もう術式は最後の段階―――」


 嘲笑を浮かべたまま、ミルドレイアは盛大に血を吐いた。


 床を汚し、蹲り、自らの身体も支えられずに倒れ込む。

 あまりにも突然の異変、壮絶な事態に、ミルドレイア本人も愕然として唇を震えさせた。


「な、なん……で……?」

『それだけ高濃度の魔力にあてられれば、異常を覚えるのは当然です』


 例えば魔物などは、高濃度の魔力によって野生動物が変質したものだ。あるいは天変地異を起こすほどの事象も、魔力災害と呼ばれて存在する。

 この世界では当り前の事実を、ディードは淡々と告げた。


 けれどミルドレイアは目を見開き、懸命に首を振って否定する。


「あ、有り得ないわ……だって、それを保護するための術式も……」

『罠です』

「え……?」

『この術式を悪用する者に対して、リーゼルヒルデ様が罠を張っていたのですよ。もっとも、遺跡の古文書などにも注意書きはしてあったはずですが』


 そう。そもそも”禁忌”術式なのだ。

 禁じられた理由は、魂に触れるとか、大きすぎる力を得られるとか、そういった倫理的なものではない。

 もっと単純な理由だ。


 子供だって、炎に手を触れてはいけないと教わる。

 森や川に不用意に近づくと注意される。

 何故ならそれは、危険だから―――。


『貴方はもっと、人の言葉に耳を傾けるべきでしたね』

「ぁ……」

『無限魔力を手に入れるなど、最初から不可能だったのですよ』


 言葉が魔弾となり、ミルドレイアの胸に撃ち込まれる。

 機械的に、でもだからこそ効果的に、それは致命の一撃となった。


 一拍の静寂を置いて、愕然としていたミルドレイアが掠れた呻きを漏らす。


「あ、あぁ……」


 そして、絶叫。


「ああああああああああああああああぁぁぁぁぁ――――――」


 金切り声が響き渡る。

 正気を失った叫びと同調するように、辺りを満たす光が膨れ上がった。


 ミルドレイアの体内で圧縮されていた魔力が解き放たれたのだ。

 制御を失った魔力は、暴走するかの如く暴れ出した。竜巻でも起こりそうな風が広間に吹き荒れる。石畳がめくれ上がり、壁が軋むほどだった。


 ヴィレッサの拘束も解ける。

 事態を見つめていたレイアが小さな悲鳴を上げた。


 しかし荒れ狂う魔力は一点へと集束されていく。自らの頭を掻き毟っているミルドレイアへと注ぎ込まれ、その身体を醜く変質させていった。

 幾本もの爪で裂かれたように皮膚が破れる。

 皮膚の下から肉が膨れ上がり、吹き出した鮮血すら取り込みながら肥大化する。

 自らの内から溢れる赤黒い肉に取り込まれて、全身が醜い塊へと成り果てていった。


「……正しく自滅、か」

『もはやあれは、人間でも魔物でもなく、禍々しい何かに過ぎません』


 岩ほどに膨れ上がった肉塊を見据えて、ヴィレッサは舌打ちを漏らす。

 哀れだとは思わない。

 ただ、忌々しく、苛立たしい。


「まだ意識はあるのか?」

『不明です。生体反応も明滅を繰り返しています』


 それが何であれ、ミルドレイアの成れの果てであるのは確かなのだ。

 だからヴィレッサは魔導銃を構えた。速射形態へと戻して銃口を向ける。


『放置するのもひとつの選択肢でしょうが……決着は、マスターへお任せします』

「はっ、こんなオブジェは誰も欲しがらねえよ」


 至極真っ当な感想を述べると、ヴィレッサは引き金を弾いた。

 二発、三発と、続け様に魔弾を撃ち込む。


 不思議なことに、肉塊からは血が零れなかった。ただ千切れた破片が飛んでいって、床を転がった後に霧散して消えていく。

 数発の魔弾を撃ち終えた後には、何も残らなかった。


『敵、完全に消滅』

「……伝説の魔女も、最期は呆気ないもんだな」


 若干の警戒を残しつつ、ヴィレッサは魔導銃を腰へ収める。

 辺りを窺いつつ首を回して―――、


 抱き締める。飛びついてきた友人を。


「レイア……無事でよかった」

「うん……うん! ありがとう!」


 素直な感謝の言葉に、ヴィレッサは頭を撫でてやって応える。

 自然と、子供らしい微笑みを浮かべていた。




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