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ロリータ・ガンバレット ~魔弾幼女の異世界戦記~  作者: すてるすねこ
第4章 幼女、泣く子の手を引いてあげる編
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第21話 魔弾vs魔女①



 黒馬から降りて、ヴィレッサは魔導銃を近接形態へと変形させる。いますぐにでも魔女の顔に魔弾を撃ち込んでやりたいところだが、残念ながら、レイアを盾にされているので難しい。


 ミルドレイアは余裕たっぷりといった様子で微笑を浮かべている。

 先の戦いで穿たれた腕も、すでに回復させていた。


 だが、どうせやることは変わらない。

 友人(レイア)を助ける。外道な魔女(ミルドレイア)を討ち果たす。

 単純な目的を頭の中で確認すると、ヴィレッサは油断なく辺りを窺った。


『物理的な罠などは検知されません。魔術に関しては不確定ですが』

「構わねえ。外道の小細工なんざ、失敗するって決まってんだ」


 口元を三日月型に吊り上げながら、一歩を踏み出す。

 二歩目で、駆け出した。


「ここから先は、子供の時間だぜ」


 だから外道な魔女は要らない。

 五体バラバラにして退場させてやる。

 そう眼光に殺意を込めて、ヴィレッサは弾丸のように突き進む。


 石造りの部屋は、騎馬同士の戦いができそうなほどの広さがある。ヴィレッサとミルドレイアの間に遮蔽物は無いが、まだかなりの距離があった。

 魔弾を撃ち込むなら問題ない距離だが、剣の間合いに入るには遠い。

 魔術のひとつやふたつは充分に発動できる。

 理屈としては、ヴィレッサには一切の魔術は通じないのだが―――。


「あらぁ、せっかちねえ。お話くらいしましょうよぉ」

「地獄で壁とでも喋ってろ!」


 嘲弄に罵倒を返して、ヴィレッサは横に跳んだ。

 直後、天井が崩れてくる。単純な崩落ではなく、無数の瓦礫が空中で方向を変えて、ヴィレッサを打ち据えるべく襲い掛かった。


「邪魔だ!」


 近接形態を振り払いつつ、全身から魔力を溢れさせる。

 無意識の状態でさえ、ヴィレッサの魔力はあらゆる魔術を無効化する。意識して放出すれば、広範囲術式のように無効化の波を行き渡らせることが可能だ。

 あるいは、凶悪な魔獣が放つブレスのように。


 術式による制御を失った瓦礫は、次々と重力に引かれるまま床へ落ちた。

 僅かに勢いを残したまま向かってくる石礫もあったが、打撃力は失われている。あっさりと叩き落せるし、『赤狼之加護』のおかげで痛みも覚えない。


 だが、その程度はミルドレイアも予測していたらしい。


「貴方の戦いは、充分に見せてもらったわ」


 崩れた瓦礫の山が蠢き、人型を取る。大人よりも頭ひとつ分は背が高い、ヴィレッサの幼い体と比べれば三倍はありそうな、逞しいゴーレムが立ち上がった。

 それが数体。

 さらに天井が崩れ、材料を得て数を増やす。

 瞬く間にゴーレムの群れとなり、ヴィレッサへ向けて威圧的な足音を響かせた。


「まともな魔力操作なんて出来ないのよねぇ? 物質に魔力を浸透させるのも難しい。ただ方向性を決めてるだけ。その魔導銃への魔力供給だって、かなりの無駄があるわよ。機能で補助してもらってないと連射すら無理なんじゃない?」


 ミルドレイアは得意気に咽喉を鳴らす。

 侮りきった口調だったが、指摘そのものは事実だった。


 ヴィレッサが行える魔力操作と言えば、放出する、一箇所に固める、抑え込む、といった単純なものでしかない。ゴーレムの内部にまで魔力を浸透させれば、制御術式を無効化できる。それだけで瓦礫へと戻せるだろう。

 けれど表皮が石で守られていては、ヴィレッサの魔力を通すのは難しい。

 一体ずつ直接触れれば、内部まで魔力を通せるだろうが―――、


「このゴーレムは、そこらの兵士よりもずっと上手く戦えるわよ。もちろん、内部の術式を壊されるまで大人しくなんてしてないの。さあ、叩きのめされて捕まえられるのと、素直に捕まるのと、どっちがいいかしら?」

「……おまえ、バカだろ」


 冷淡に言い捨てて、ヴィレッサは魔導銃を速射形態へと変形させた。

 すぐさま狙いをつけて引き金を弾く。


 いっそ砲撃形態でまとめて吹き飛ばした方が楽ではあった。けれどレイアもいるので、人質である限りは守られるとは思えるが、派手な攻撃をして危険に晒す必要はない。

 速射形態の魔弾でも、物質崩壊効果は付与されているのだ。

 ゴーレムの表皮くらいは容易く撃ち抜ける。

 内部の術式だって、魔弾は区別なく破壊できる。


「え、ちょっ……!」


 唖然とした声をミルドレイアが漏らす。

 その間にも、次々とゴーレムは撃たれ、崩れていく。

 制御術式の核がある胸や腹に一発。それだけで終わりだ。


『何か仕掛けでもあるかと警戒しましたが、バカなだけでしたね』

「はっ、耄碌し過ぎたんだろ。あの婆さんよりもずっとな」


 短い遣り取りの間に、三十体近くのゴーレムが撃ち崩されていた。

 二丁型の速射形態は実に扱い易い。兵士以上の戦闘能力とはいえ、石造りで素早い動作を苦手とするゴーレムなど格好の的だった。

 そうして、ヴィレッサは突撃を再開する。


「ま、まだまだぁっ! 近寄るんじゃないわよ!」


 蒼い顔をして、レイアの影に隠れるようになりながらも、ミルドレイアは腕を振り払った。微かな魔力光を辺りに散らす。


 再び、ゴーレムの群れがヴィレッサの行く手を塞ごうと立ちはだかる。

 一呼吸の間に二十体ほど。さらに数は増える。

 広間全体を埋めるように、ヴィレッサの背後でも石造りの人型が起き上がった。


「壊されたってね、こっちは幾らでも作り直せるのよ。千体でも万体でも。貴方はどこまで体力がもつかしら?」


 上擦った声を放ちつつ、ミルドレイアは人質であるレイアを引きずって後ずさりする。明らかに追い詰められた表情をしているのに、まだその声には嘲笑も混じっていた。


 確かに、時間稼ぎくらいはできるだろう。

 けれど、所詮はそれだけで―――ヴィレッサは呆れとともに告げる。


「ディード、乱舞形態」

『よろしいのですか? 多少なりとも隙を作る形になりますが』

「伊達に戦い続けてねえ。何かあれば、あたしも、黒馬(メア)だって気づくぜ」


 新たなゴーレムを速射形態で撃ち倒しながら、ヴィレッサはちらりと背後へ視線を向けた。

 その眼差しに頷くように、黒馬が高く嘶きを返す。


「レイアへの誤射だけ注意しろ。そっちの制御を頼む」

『了解。さっさと終わらせましょう』


 ヴィレッサの気持ちを代弁するように告げると、魔導銃が青白く輝く。

 両手に収まっていた二丁の銃は、二振りの小型の剣へと変形した。さらにヴィレッサを守るように四つ、銃口を備えた円筒が空中へと浮かび上がる。


 乱舞形態―――簡単に言ってしまえば、近接形態と遠隔形態を合わせたものだ。遠隔操作可能な円筒は最大で四つ、剣も小型になり間合いが縮まっている。扱いの難しい双剣は、むしろ攻撃力を落とすことにもなる。

 しかし手数は増える。空中に浮かんだ銃口は、ヴィレッサが意思を飛ばすだけで次々と敵を撃ち抜いていく。両手の剣も、一切合切を抵抗すら許さずに断ち切れる破壊力は衰えていない。


 謂わば、六本の腕に剣と銃を持ったようなものだ。

 足を進めるたびに敵を撃ち抜き、絶断し、破壊の嵐を振り撒いていく。

 近寄ろうとすれば、魔弾で貫かれる。

 近寄った時点で、魔刃によって斬り裂かれる。

 もしも敵が命ある兵士達だったなら、この世の地獄が描き出されていただろう。


「こんな雑魚どもなんざ、壁にもならねえんだよ!」


 崩れるゴーレムどもの隙間から、ヴィレッサは鋭利な眼光を飛ばした。

 殺意を浴びたミルドレイアは小さく悲鳴を上げると、レイアを抱えながら距離を取ろうとした。しかしヴィレッサが前進する方が早い。


 ゴーレムの群れではヴィレッサの敵には成り得ない。

 しかし、懸念はある。首筋に僅かな悪寒が走っている。

 だからヴィレッサは、早々に決着をつけようとした。


「く、来るなって言ってるでしょ!」


 焦りきった声を投げながら、ミルドレイアはまた魔力を散らす。ゴーレムの再生を続けながら、目眩ましのために閃光を放った。

 広間全体を覆うほどの閃光に、ヴィレッサも目蓋を歪めてしまう。

 一瞬の隙を突いて、ゴーレムどもが殺到し、太い腕を振り下ろした。


「よぉし、計算通りよ! 一気にやっちゃいなさ―――」


 逆転の気配に、ミルドレイアはぐっと拳を握った。しかし直後に声を失う。

 黄色い触手が、細い首筋に絡みついていた。


 その触手は、いまもレイアを捕らえている粘液体(スライム)から伸びていた。


「な、に……!?」


 愕然とする魔女の前で、レイアが粘液体から顔を出す。ぷはぁっと息を吐くと、そのまま全身を脱出させた。


 いったい何が起こったのか? 何故、脱出できる? 

 不可能だ。理屈に合わない。

 この粘液体(スライム)は、自分には絶対服従のはずなのに―――。


 そんな疑問を顔に浮かべた魔女に、レイアは屹然とした眼光とともに答えを投げた。


「友達になったんだよ!」

「え……?」

「話す時間はいっぱいあったもん! もうプルドンは私の味方なんだから!」


 理解できない、とミルドレイアは呆然として口を開く。

 そんな反応に構わず、レイアは堂々と胸を張って、新たな友人へ告げた。


「やっちゃえ、プルドン!」


 幼い声に応えて、黄色い触手が振るわれる。

 絡め捕らえたミルドレイアの体を、渾身の力で放り投げた。


 されるがままに空中へ投げ出されたミルドレイアだが、はっと我に返って身体を捻った。冷静になれば、粘液体(スライム)ごときは容易にあしらえるのだ。


「ナメるんじゃないわよ、この―――」


 感情的に荒げた声は、その途中で寸断される。


「テメエがな」


 轟音とともに、一体のゴーレムが空中へ突き上げられた。

 堅く巨大な石の塊が、豪速でミルドレイアへと叩きつけられる。


「ぶべっ……!?」


 さながら金槌で全身を殴られたように、ミルドレイアは無様な声を上げた。それでも咄嗟に反応したのは誉めるべきか。

 折れた鼻から血を溢れさせながらも、空中に留まっていた。


 けれど助かったとは言い難い。

 困惑に染まった視線の先では、ゴーレムの群れが蹴散らされ、ヴィレッサが空中へと駆け上がってきていた。


 ほんの一瞬視界を塞がれた程度で、ヴィレッサは窮地に陥りはしない。先に自分で言った通り、伊達に戦い続けてはいないのだ。親衛騎士から剣も学んでいたし、たとえ目を瞑っても魔導銃(ディード)が声で動きを指示してくれる。


 ちょっぴり攻撃の手が緩んで接近を許してしまっただけだ。

 単純な統制しかされていないゴーレムなど、始めから脅威にならない。

 雑魚だと、壁にもならないと、それもヴィレッサが告げた通りだった。


 そして―――、

 散々に腹立たしい思いをさせられたが、ようやく届いた。


「逃がすな、ディード!」

『了解。囲みます』


 レイアが放り投げてくれたおかげで、もはや遠慮なく魔弾を撃ち込める。互いの距離も、残り数歩というところまで肉迫できた。


 乱舞形態のまま、まずは宙に浮かぶ四つの銃口が狙いを定める。

 ほぼ同時に放たれた魔弾は、すべてがミルドレイアを穿つ射線を描く。

 しかしミルドレイアはこの期に及んでも諦めていなかった。


「あああああぁぁぁぁぁ―――!」


 叫びに呼ばれたように、天井が崩れて瓦礫が飛来する。ミルドレイア自身も巻き込んだ石礫の雨は、魔弾を防ぐ盾となった。


 それでも二発の魔弾は命中した。

 ミルドレイアの左足を吹き飛ばし、脇腹を抉って鮮血を撒き散らす。


 さらに赤い帯が追撃を加える。

 赤狼之加護から伸びた帯が、ミルドレイアの手足へ巻きついた。膂力としては並の人間程度のものだが、器用に動く帯は刀剣の類ではけっして切断されない。つまりは一度捕らえてしまえば、戦闘中に外されることはまず有り得ないのだ。


 この時点で、逃亡という選択肢はミルドレイアから失われた。

 そして生き残るという選択肢も、ヴィレッサが許さない。


「テメエは、死ななきゃいけねえんだよ!」

「ま、待ってよ、あと少し―――」


 一方的に告げて、ヴィレッサは刃を振り下ろす。それは二枚重ねの刃の間から、無数の魔弾を撃ち放つのだ。防げるものなど存在しない。


 だが、刃以外―――、

 剣の腹部分を、ミルドレイアは咄嗟に両の掌で押さえ込んでいた。

 赤い帯に絡みつかれながらも、懸命に、必死に、正しく渾身の力を込めて。


「っ、白刃取りだと!?」


 これにはさすがのヴィレッサも目を見開いてしまう。

 その一瞬の間をついて、ミルドレイアは早口にまくしたてた。


「ま、待って! 本当にお願いだから! そうだ、色々と秘密を教えてあげるわ。魔導遺物のこととか、貴方の無限魔力のことも! 知りたいでしょ!」

「信用できるか!」


 耳を貸さない。

 吐き捨てると、ヴィレッサはもう一方の刃を振り下ろそうとした。


 もう白刃取りは不可能。ミルドレイアに防ぐ術はない。

 だが、刃へ魔力を巡らせようとした直後、ヴィレッサの耳に嘶き声が届いた。

 黒馬(メア)からの警戒を促す声だ。


 同時に、ヴィレッサも首筋に悪寒を覚えていた。

 構わずにトドメの一撃を放とうとしたが、ほんの一瞬だけ遅かった。

 腕に違和感が走る。力を込めても動かない。

 片腕だけではない。両腕、両脚、全身に青白い光が触手のように絡みついていた。その触手に引かれて、身体ごと床へ叩き落されてしまう。


『これは……!』

「どうなってやがる!?」


 ヴィレッサは顔を歪めながらも、周囲へ目を向けた。

 青白い光は広間全体に溢れかえっていた。いつの間にか、足下には巨大で複雑な魔法陣が浮かび上がっている。

 

 何かしらの術式だというのは推察できる。

 恐らくは事前に仕掛けてあって、何かしらの条件で発動したのだろうが―――。


 一段と光が強まり、大量の魔力が沸き上がると、嘶き声とともに黒馬が弾き飛ばされた。同時に、レイアの側にいた粘液体(プルドン)も壁際まで弾かれる。僅かに残っていたゴーレムも、がらがらと音を立てて崩れ去った。

 どうやら定められた者以外は、この魔法陣の中に踏み入ることも拒絶されるらしい。


「どういうこと……? いったい、何が起こってるの!?」


 レイアが不安げな声を上げる。

 そのレイアにも、無数の青白い触手が絡んで床へ縛りつけていた。


 大丈夫だと言ってやりたいヴィレッサだが、残念ながら事態が掴めない。何かの術式だというなら、自分の魔力を流して無効化してやろうとも試みた。

 しかし魔力が上手く流れていかない。足下へと吸い取られてしまう。

 魔導銃も、遠隔形態は床に転がり、刃も機能停止しているようだった。


「ふふっ……あはははははははははっ!」


 哄笑が響く。

 鮮血に塗れ、片足を失いながらも、ミルドレイアは満面の笑みを浮かべていた。床に膝立ちになった姿勢で、両腕を広げて天を仰ぐ。

 まるで、その先にいる偉大な王へ感謝を奉げるように。


「やったわ! 届いたのよ! これで私は、すべてを手に入れられる!」


 恍惚とした表情で、喜びに満ちた笑声を溢れさせる。

 幻想的な光に包まれたミルドレイアは、明らかに己の勝利を確信していた。

 いったい、何を企んでいたのか?

 これから、何を起こそうというのか?

 いずれにせよ、誰もが望まない結果となるはずだが―――、


 しかしヴィレッサは恐怖も焦燥も感じていなかった。

 まだ縛られて動けはしない。敵が目の前にいる状態では安心もできない。

 それでも深刻な事態でないのは信じられた。


 だって、相棒(ディード)からの冷淡な声が聞こえたから。



『―――やはり彼女はバカですね』





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