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Episode 19:後編

Episode 19:後編


電波の嵐(T-O-W-E-R)と、お忍び名探偵

視界ゼロの危機

(ハート君、スマホをマナーモードにするんだ! 敵より先にパパラッチに囲まれてしまう!)


濃霧に包まれたロンドン通信タワーのふもと。

ホームズの危惧は的中していた。タブレットを操る「天才文字書き犬」の動画が爆発的に拡散されたせいで、タワー周辺にはスマホを構えた野次馬やメディアの記者が集まり始めていた。


「キャー! 動画のポチくんよ!」「こっち向いて、文字書いて!」


(ええい、うるさい! 私はおもちゃではない、大英帝国の名探偵だ!)


ホームズはトレンチコートの襟を立てたハート刑事の影に隠れながら、タワーの搬入口へと滑り込んだ。


その瞬間、街の空気が一変した。

集まっていた人々のスマホが一斉に圏外になり、タワーのスピーカーからキィィィンと耳を裂くようなハウリング音が鳴り響く。

ホームズの優れた聴覚には、濃霧の奥からロンドン全域の通信網を麻痺させる「超高周波のジャミング電波」が、もの凄い圧力で噴き出し始めたのがハッキリと分かった。


(始まったか……! 奴らはタワーの主送信機を乗っ取り、ロンドンを完全な情報孤立状態ブラックアウトにする気だ!)


霧と電波障害で視界も通信もゼロになったタワーの最上階・管制室。

ハート刑事とホームズが突入すると、そこには巨大なパラボラアンテナの制御盤に謎のジャミング装置を接続している、モリアーティの残党──電波ハイジャック犯の男がいた。


「警察よ、動かないで!」

ハートが銃を構える。しかし、暗闇と濃霧で敵の正確な位置が掴めない。さらに電波の嵐のせいで、警察無線も完全に遮断されていた。


「ハハハ! 無駄だ。すでにロンドン中の電波は俺の支配下にある。あと30秒で全通信が完全死滅するぞ。この霧と嵐の中で、俺を捕まえられる訳がない!」


(残り30秒……! 制御盤の配線を元に戻さなければ手遅れになる!)

ホームズが焦りを見せたその瞬間、ハートの瞳が、火花を散らすジャミング装置の「インジケーターの明滅」を捉えた。


今朝自宅の液晶タブレットでホームズがスタイラスペンを使って描いた【ジャミング計画図】の同心円の軌跡と、その時に投稿してバズった動画の再生バーの動きを脳内でオーバーレイ(重ね合わせ)させる。


「……あ! 分かったわ!」

ハートが鋭く叫んだ。


「あのタブレットに描かれた円の重なり、ただのおねだりイラストじゃない! このタワーの『高周波フィルター回路』の配線順序(第1・第3・第5チャンネル)のバグを修正するグラフだったんだわ!」


(素晴らしい! バズった動画の記憶すら、純然たるハッキングの解除キーへと昇華させた!)


「そして、犯人が立っている位置……さっき動画のコメント欄(写真記憶)にあった『タワーのスピーカーの配置図』の死角から逆算すると、そこから右にミリ単位で3歩進んだキャットウォークの上よ! ホームズ、お絵描きの続き(突撃)よ!」


(よし、ハート君! 電波の嵐を叩き潰す!)


「ワンッ!!!」


ホームズは濃霧の中、自慢の「聴覚」と「嗅覚」で敵の足音とオゾンの臭いを完全にロックし、弾丸のように跳躍した。

牙の先にくわえていたのは、今朝の「スタイラスペン」だ。


ホームズは犯人の男の顔面を蹴り飛ばして怯ませると、そのまま火花を散らす制御盤の液晶タッチパネルへとダイブした。

口にくわえたペンの先で、ハートが割り出した第1、第3、第5チャンネルの解除キーを、凄まじい正確さで「カチカチカチッ!」と高速タップ(入力)していった。


コンプリート。


「な、何ぃっ!? 犬が、ペンで俺の暗号コードを上書きしただと……!?」

ハッカーの男が絶叫する。


次の瞬間、タワーから噴き出していたジャミング電波がピタリと停止し、コントロールモニターに「SIGNAL RESTORED(通信復旧)」の文字が浮かび上がった。ロンドンの通信網は、完全消滅のわずか1秒前で救われたのだ。


「おのれぇ、よくも……!」

逆上して襲いかかろうとする男。


「てりゃぁぁぁーーーっ!!」


ハート刑事の容赦のない回転上段蹴りが、霧を切り裂いて男の顎にクリーンヒットした。

ドガシャーーーン!!

男はコントロールデスクに叩きつけられ、そのまま目を回して気絶した。


「ふぅ……! 電波ハイジャック、未然に阻止完了! よくやったわ、ホームズ!」


ハートは男に手錠をかけ、霧が晴れ始めた管制室の窓からロンドンの街並みを見渡した。街には再び電波が戻り、静かな日常の音が鳴り響いている。


ホームズがふと、タワーの最上部、激しく風が吹き抜ける「避雷針のてっぺん」を見上げると──


そこには、晴れていく霧の向こう、朝日に白い毛並みを輝かせながら、一匹の白猫モリアーティが佇んでいた。


奴は、自分が仕掛けた最新鋭の電波テロが、まさか「タブレットのスタイラスペン」と「SNSのバズ」という、最先端の文明の利器を逆手に取った二人の連携によって完璧に瓦解したことを確信し、どこか満足げに、しかし悔しそうにオッドアイを細めた。

そして、完全に晴れ渡ったロンドンの青空の中に、幻のように姿を消した。


(モリアーティ……どれほど高度な電波で街を孤立させようとも、私とハート君を繋ぐ『論理と直感の電波』を遮断することはできん。


「さあホームズ! 事件も解決したし、SNSの動画のフォロワーが100万人を突破したお祝いに、今度こそあのカフェで本物の『タワー・パンケーキ』を食べましょ!」


ハートが笑顔でホームズを抱き上げ、顔中をくしゃくしゃに撫で回す。


(……やれやれ。パンケーキは結構だが、ハート君、次からは捜査中の動画投稿だけは絶対に勘弁してくれたまえよ?)


「ワン!」と少し照れくさそうに一鳴きする名探偵。


大バズりした名探偵(犬)と熱血刑事のデジタルな共鳴は、ロンドンの電波を、そして二人の絆を、これまで以上に強く繋ぎ止めるのだった。

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