Episode 61:前編
Episode 61:前編
「ロンドンの消えた足音(S-A-N-I-T-A-T-I-O-N)――白猫の失踪と、冷酷な排除命令」
霧の街から「白」が消えた日
ある朝、ロンドンは異様な静寂に包まれていた。
ホネホネビルの地下パブ『ボーン・ダンス』の仕込みをしていたバーバラ・リンドは、データノートを抱えたまま、不可解な表情で街の防犯カメラのログを見つめていた。
「ハナコ姉様、大先生……おかしいべ。いつもならライヘンバッハやウィンブルドン、世界中の電脳ネットワークの端っこに必ず映り込んでいた、あの『白猫』の固有シグナルが、昨夜からロンドン中……いや、地球上のどこからも完全に消え失せてるべ……!」
(ふむ。あの執念深い白猫が、自らすべてのタイムラインから完全にログアウト(失踪)したというのか。奴のことだ、チェスの盤面を丸ごとひっくり返すような、より巨大なゲームの予兆でなければ良いが……)
「ワン!」とホームズが鋭く吼えたその時、パブのテレビモニターから、大英帝国政府による緊急の「臨時総督令」が冷酷な音声で流れ始めた。
『――国民の皆様へ。政府は本日、ロンドン市内の衛生環境の極端な悪化を防ぐため、市内に生息するすべての野良猫の「一斉捕獲・および殺処分(死刑)」の即時執行を決定いたしました。これは公衆衛生上の防壁措置であり、例外は一切認められません』
バーバラの生命のロジック
「な、なんだべこれ!? 衛生的によくないなんて理由で、ロンドン中の猫たちを全員死刑にするなんて……ノーリミッツに冷酷で非論理的だべ!」
バーバラが床を激しく踏み鳴らし、怒りと悲しみでステップを乱した。
「ハナコ姉様、大先生! この政府の命令、絶対に白猫が消えたことと裏で繋がってるべ! 私の実家の『リンド・ファーム』でも、もしネズミを捕ってくれる猫たちが一斉にいなくなったら、牧場の生態系が11ミリどころか完全に崩壊して大パニックになるべ! 政府の隔離サーバーの暗号リズムを聴いてほしいべ……これ、公衆衛生のコードに見せかけて、何者かがロンドン全体の『動物の生命グリッド』を意図的にバグらせようとしてるべ!」
ハナコ・ハート刑事は。
「……ええ、許せないわ! ロンドンの街の優しさをノーリミッツに踏みにじる黒幕がいるのね! ポチ君、バーバラちゃん、今すぐその捕獲部隊のメインサーバーをハッキングして、命令を書き換えるわよ!」
そして、姿を現した「真の混沌」
(……待て、ハート君。白猫という『最大の悪の重石』が消えたことで、大英帝国の地下に眠っていた、真に非論理的で冷酷な『別の悪意』の歯車が回り出したのだ。奴らは猫の排除の裏で、ロンドン全体のインフラを完全に暗黒へと陥れるプロトコルを起動している!)
「ワン!」
ホームズを先頭に、2人と一匹は、すでに檻を持った政府の捕獲ロボットたちが徘徊し始めたロンドンの街へと飛び出した。
消えた白猫の行方と、街の猫たちの命をかけた、かつてない冷徹な電脳戦が、今まさに幕を開ける――!




