Episode 59:中編
Episode 59:中編
「コペンハーゲンの再会(D-E-N-M-A-R-K)――王室のリムジンと、電脳包囲網」
デンマーク紳士の招待、そして「白猫の真の狙い」
「さあ、ヤードの皆さん。立ち話も何ですから、私のリムジンへどうぞ。ポチ君も、貨物室の窮屈な旅で疲れたでしょう」
気品あふれるグレート・デーンのデンマーク紳士は、優雅な仕草でロイヤル・リムジンの重厚なドアを開けた。車内には、最高級のデンマーク製レザーシートと、冷えたミネラルウォーターが完璧にシンメトリー(対称)に配置されている。
「お久しぶりです、デンマーク紳士! まさか空港で待ち伏せ(エスコート)されているなんて、相変わらずノーリミッツに仕事が早いわね!」
ハナコ・ハート刑事は、シートに深く腰掛けた。
「ハナコ姉様、大先生! このリムジンの車載モニター、さっきからコペンハーゲン港の管制シグナルをリアルタイムで追跡してるべ!」
バーバラがデータノートを広げ、素直な知性で車内のネットワークの違和感を指摘する。
(ふむ。流石はデンマーク王室の外交影武者だな。白猫が私を貨物室ごとデンマークへ拉致した本当の理由は、ただの嫌がらせではない。
スイスで共有されたばかりの『国際防犯・金融犯罪データベース』のバックアップデータが、私の首輪の通信タグ(ドッグタグ)を中継局として、コペンハーゲン港に停泊中の謎の電脳密輸船へリアルタイムで吸い上げられようとしているのだ)
「ワン!」とホームズは鋭く吼え、デンマーク紳士の膝の上にある極秘外交タブレットを前足で叩いた。
バーバラのリズム・トレース
「大先生、そのタブレットの暗号の並び……これ、私の実家で羊の毛刈り(シーリング)をするときに使うハサミのリズムと、地下パブの閉店3分前のタップダンスのテンポが、3ミリの狂いもなく完全混ざり合ってるべ!」
バーバラがリムジンのふかふかなフロアマットの上で、トントンと正確なステップを刻みながら叫んだ。
「白猫のハッキング・プログラムは、北欧の静かな波の音にデータを紛れ込ませて、密輸船へパケットを小分けにして送ってるべ。でも、このリズムのズレが最大になる次の**【2分22秒間】**だけ、コペンハーゲン港の無線基地局のファイヤーウォールが一時的に『非対称』に露出するべ! その隙を突けば、大先生のタグから抜かれたデータを逆に密輸船ごと完全ロック(チェックメイト)できるべ!」
(素晴らしいぞ、バーバラ君! 君のリズムとダンスのグリッドが、白猫の冷徹な計算の『継ぎ目』をまたしても暴き出した! デンマーク紳士、貴殿の持つ王室の暗号鍵を、我がバディのハート君の脚力に託してほしい!)
デンマーク紳士は、パイプの煙をふわりとくゆらせ、穏やかに微笑んだ。
「おやすい御用です、愛しきポチ君。我が国のネットワークの安全のためにも、ヤードの華麗なキックに、全てを委ねましょう」
コペンハーゲン港の激突
キィィィーッ!!!
リムジンがコペンハーゲン港のコンテナ埠頭へ滑り込むと同時に、ハナコ刑事はトレンチコートの襟を翻した。
「バーバラちゃん、2分22秒の秒読み開始! 白猫の泥棒プログラム、ノーリミッツに蹴り飛ばしてロンドンに帰るわよ!」
「いくべ、ハナコ姉様! 3、2、1……スタートだべ!」
夜の北欧の海を背景に、名探偵ホームズの冷徹な瞳が、暗闇の中に浮かぶ密輸船の電子ハッチを捉えた。宿命のチェックメイトが、コペンハーゲンの港で静かに幕を開ける!




