第1回 ボーイ・ミーツ・ガール???
「うおおおおおおお~~~ん……!!」
イロリは突然大声で泣き始めた。
「苦労したんだなぁ、つらかったなぁ! わかるよ、わかるよ!」
涙と鼻水、それからよだれ……。
全部を出しながら、彼女はワンワンと泣く。
とにかく泣く。
「けど安心しろ! 苦労が報われるようにしてやっからな!! 私が!!」
そう言って、イロリは胸を叩く。
「う゛っ! ゲホゲホ……」
「いや、あの、大丈夫?」
「うぐ。大丈夫だ、問題ない……。それよか!」
言うなり、イロリは僕に向かって手を突きだす。
そこに、光るカードみたいなものが浮かんだ。
何かの絵が描かれている。
これは鎧の……騎士、いや戦士か?
「まずは最初の限界突破だぁ!!」
叫んで手を突きだすイロリ。
すると、カードが僕の胸にふわっと吸い込まれていく。
「な、何だよこれ!?」
思わず叫ぶと、
「う……!!」
突然――
全身にすごい力がわき上がってくる。
今まで感じたこともない、すごい力だ。
全身の筋肉が強くなって、骨が硬くしなやかになるみたいな……。
何で、どうして。
こんな状況になっているか、というと。
――。
「あ」
這いつくばった状態で、僕はそれを見ていた。
僕が誰かって?
僕の名前はセッタ。
剣士として、冒険者として修業中の15歳。
クラスはただ今Nランク。
つまり最下級のモブみたいなもの。
なので、将来はHRやSRを目標に奮闘中。
と、いえば聞こえはいいけれど……。
目の前では、幼なじみの女の子が金髪のイケメンとキスしてる。
それはもうとろけ切った表情で。
幼なじみのコーリィ。
ずっと一緒に育ってきて、村では一番の仲良しだった。
そう、だった。
村を出て、冒険者になった後。
コーリィはどんどんレベルを上げて、今やHRは目の前。
魔法剣士として剣に魔法に大活躍。
僕はいまだにNのままで、まともなスキルもない。
最初は大きな差はなかった。
コーリィのほうが魔力や器用さは上だったけど。
でも。
今キスしている相手、貴族なのに冒険者をやってる男。
ヒバッシュ。
金髪で青い瞳のイケメン。
貴族で金持ち。
しかも色んなスキルをたくさん持ってる。
コーリィはこいつと冒険するようになって、どんどんレベルを上げていった。
僕も追いつこうとがんばったけど、未だにNランクのまま。
最初の頃よりはずっと強くなったけど……。
当然の結果。
コーリィとは疎遠になった。
しょうがない、とは思う。
で。
さっきまで街をモンスターが遅い、大ピンチだった。
ヒバッシュはコーリィたちはそれに立ち向かって大活躍。
僕は……。
あちこち走り回って、他人の救助や援護をするのが精一杯。
気づけば転がり吹っ飛んだり。
そして。
ぶざまに這いつくばって、好きな娘が他の男とキスしてるの目を見てるだけ。
虚しい。
惨め。
そして――
冒険の合間、日雇いとして瓦礫の撤去なんかをやってる時だった。
「あれ? セッタじゃん、まだいたの?」
偶然顔を合わせた時、コーリィはそう言った。
あっけらかんとした顔。
たぶん、悪意もなかったんじゃなかろうか。
「え」
「ま、いっか。じゃーね」
それだけ言って、コーリィは走っていく。
彼女が走っていく先には、ヒバッシュの姿。
その周りには、何人も女の子がいた。
みんな――
目をキラキラさせてヒバッシュを見てる。
キスしてた時のコーリィみたいに。
とにかく虚しい。
頭も胸も空っぽになったみたいだった。
哀しいとか、悔しいとか。
それさえもわからなかった。
毎日毎日訓練をして、お金を貯めて装備を買って。
必死になってモンスターと戦って、クエストをこなして。
だけど、そんなのはまるで意味がなかった。
未だに上に上がれない。
スキルもない。
友達で、好きだった女の子にはモブ扱い。
僕は生きている意味があるんだろうか?
だけど、村に帰ることもできなかった。
少し前に、コーリィは一人だけで里帰りしてる。
……ヒバッシュも一緒に。
聞いた話では、村中大盛り上がりだったらしい。
そりゃ今や英雄になったコーリィが、同じく英雄でイケメン貴族のヒバッシュと一緒だもんな。
何で知ってるのか。
その後僕も一度帰ったからだ。
まあ、やめときゃ良かったと今は後悔している。
本当に……。
いや、やめよう。
あんまり思い出したいことじゃない。
でも、それでも。
自暴自棄でヤケ酒をしたりもできない。
娼婦のいる店に行くこともできない。
いや、というか行ったことないし……。
とにかく、クエストに出てモンスターを倒す。
それでわずかな報酬をもらう。
このために、今日も街を出たのだが――?
――。
「うぎゃあああああああああああああ!!」
「え、え???」
ゴブリンやスライムの出る遺跡後。
そこに到着したすぐ後、
「誰がああああああああ……!!!」
犬みたいに這いつくばって逃げる女の子……。
見たことのない、変な格好してるけど。
ほっとくことはできない。
「離れてて!!」
スライムに、ゴブリン……。
全部6~7体か。
幸い、ゴブリンは少ない。
これなら!
そして。
「はぁはぁ……」
ちょっと危なかったけど、どうにかなった。
女の子が泣いたり転がったりして、ちょっと邪魔だったけど。
まあ、あんな時だし仕方ないか。
「え、と。大丈夫?」
「う、うん……」
声をかけると、
「え……?」
女の子はひどく驚いた顔で僕を見つめてから、
「見習い剣士、セッタ?」
何故か、僕の名前を呼んだ。




