0020 イベントと魔狐
「なんなんだよ……あの化け物は……!」
「火球」
剣士のプレイヤーは彼のいう「化け物」が放った火球によって、消えていく。
「化け物……か」
化け物と呼ばれた狐の顔をした魔術師は、他のプレイヤーを倒すため、戦闘中のプレイヤーのところへと向かった。
「お前、避けろ!」
「はっ?」
戦闘中だった2人組のプレイヤーのところに火球を思いっきり放つ。
避けられるはずもなく、まともに火球を喰らったプレイヤーは光となって消えていく。
「本当に居たのかよ……」
もう一人のプレイヤーも火球を喰らって消えていく。
とあるダンジョンで、入ってきたプレイヤーを一掃するモンスター。
たくさんの水晶があるそのダンジョンで、見たものは必ずやられる。そんなモンスターはプレイヤーからこう呼ばれていた。
「魔狐……」
最後にそう言い残し、プレイヤーは完全に光となって消えた。
魔狐、スレで都市伝説として扱われていたそれは、この日を境に都市伝説ではなく、事実であることをプレイヤーたちに知らしめた。
「プレイヤーキル、これで50人目……余裕だね」
魔狐の本当の名前をまだ知る者はいない。
◇ ◇ ◇
魔狐が目撃されたのは、イベントが始まる3日前。
とあるダンジョンの中が大きく変わり、イベントに向けて改装しているのでは、と噂が広がり始めた時だった。
そのダンジョンに新しく追加された部屋。
ボス部屋の前から分岐したその部屋には、水晶が置かれるであろう台座が置かれているだけで他には何もない。
そんな部屋に何かないものか、と好奇心で入ったプレイヤーがいた。
彼はそのダンジョンの恐ろしさを最も知っている人物であり、最も被害に遭っているプレイヤーでもある。
しかし、彼がその部屋に入った時点で彼の運命は決まっていた。
部屋に入った途端、上から火球が飛んでてきて一撃。彼がどうなった?と思う頃には、すでに死んで街にいたという。
彼はこの前にも、同じダンジョンで火球の被害に遭っていた。
それから魔狐の伝説、噂は絶え間なく広がり続けた。
同じように部屋に入ったプレイヤーは一人残らず死に、一人としてその何者かの姿を見た者はいなかった。
そんな伝説が伝説ではなくなった日。それはイベントの初日の出来事だった。
【悲報】ついに、火球放つやつの正体判明
1.名無しのプレイヤー
火球放ったやつの正体わかったわ
2.名無しのプレイヤー
マジで?優秀すぎやろ。どんなやつだった?
3.名無しのプレイヤー
狐の顔の人型魔術師……だな
4.名無しのプレイヤー
は?
5.名無しのプレイヤー
やられすぎておかしくなったか……
6.名無しのプレイヤー
ちゃうわ!対策として魔法軽減の防具買ってつけて行ったんよ。そしたら倒されなくて見れた
7.名無しのプレイヤー
倒せたってことか?
8.名無しのプレイヤー
いや、速攻短刀でやられた
9.名無しのプレイヤー
草
10.名無しのプレイヤー
狐の顔の魔術師……魔狐とかどうだ?
11.名無しのプレイヤー
いや、なんの話?
12.名無しのプレイヤー
そろそろ名前つけないと不便だろ?だからいい名前つけようと思って
13.名無しのプレイヤー
魔狐、いいんじゃね?
14.名無しのプレイヤー
じゃあこれからあいつの名前は、魔狐で
15.名無しのプレイヤー
おけ
16.名無しのプレイヤー
そういやなんでこのスレ、悲報なんだ?
17.名無しのプレイヤー
いやだってわかったところで誰も倒せないし……悲報やろ
18.名無しのプレイヤー
ちょっと何言ってるかわからなくて草
19.名無しのプレイヤー
まあ、これから様子見ってことでおk?
20.名無しのプレイヤー
おk
21.名無しのプレイヤー
おk
22.名無しのプレイヤー
おk
このスレによって多くの人が魔狐、という名前を知ることになる。
そして興味本位でダンジョンに入った多くのプレイヤーたち。その多くは、魔狐にやられた。その結果、魔狐が倒したプレイヤーはその日だけで100を超えることになる。
この出来事は後にも語り継がれていく、大きな出来事であった。
イベントが続く今も尚、魔狐にやられているプレイヤーは数を減らさない……。
「よし、書き終わったー……」
パソコンに向かって必死に文字を打っていた男は、キーボードから手を離した。
今までの一連の説明は彼の記事である。
彼の名前は、報道命。報道社のエースである。
そんな彼はdungeon Onlineを愛するあまり、プライベートの時間にdungeon Onlineの記事を書いていた。
「魔狐……かぁ……」
そんな彼の目に留まるほど、今ゲーム内で話題となっている存在。
それが魔狐。正体がわかる時はいつ来るのか、それはまだわからない。
「楽しみだな……魔狐……」
彼は冷たくなったコーヒーを飲みながら、ふふっと小さく笑った。




